弁造さんと、無名の画家と
福井市のわおん書房さんで現在行われている「弁造さんのエスキース展」に行ってきました。
Twitterで告知されていた時から気になって、
展示予定の絵が僕の好きなタッチだったので「絶対に行こう!」と思い続けて早2週間、ようやっと行けましたよ。
冬の寒空の下、雨の降りしきる中、
自転車をモリ漕ぎしてわおん書房さんにたどり着き、
弁造さんの絵をマジマジと眺めていました。
どれも素敵で、
ドンドン引き込まれていきましたね。
店主さんに弁造さんの写真集を勧められ、
カフェスペースの席についてページをめくりながら、
弁造さんについて思いを馳せ、店主さんといろいろとお話しました。
僕はてっきり個展が全国を巡回するくらいだから、
「生前からさぞ高名な画家さんだったのだろう」と思っていましたが(僕は全然知りませんでした)
実は弁造さん自身はお百姓さんで、
絵は趣味で描いてましたが誰の目にも触れることはなく、小屋の中にひっそりと保管されていたということです。
生涯、作物や庭を北海道の大自然の中で育てながら生きていた、こう言ってはなんですがスロウライフを送る普通のお爺さんでした。
そのお爺さんに強く惹かれた写真家の方(奥山さん)が、
写真集を出して弁造さんの代わりとなり、
小屋から絵を引っ張り出して来て、全国を今こうして巡回しているんですね。
それを想像すると、確かなドラマを感じて何か泣けてくるような、
爽やかな哀愁とでも言いますか、凛とした寂しさと言いますか、
誰にも見つけられなかった、しかし、しっかりと生き抜いた1人の人間の墓石を森の中でふと見つけたような、そんな澄んだ感覚を覚えました。
弁造さんの絵や生き方に触れると、
自然と熊谷守一とゴッホ、絵のタッチからスザンヌを感じ取り、
いずれも僕の大好きなアーティスト達なのですが、
自分達の生き方を自分たちで定義して、それを一生貫いた、
優しく力強い男達を連想せざるをおえませんでした。
弁造さんとの違いは、
ゴッホとスザンヌと熊谷守一は生前からその実力が認められて、
ある程度社会からアーティストとしての地位を認められていた、と言うことですかね。
ゴッホに関しては死後爆発的に有名になり、今では人類史を代表する画家と認知されていますが、生前は不遇の連続で無名の作家として有名です。
オランダはアムステルダムのゴッホ美術館に行き、
ゴッホの絵を眺めて涙した経験を持つ店主ですが、その時にゴッホが亡くなる前にある程度絵が売れ始めていたことを初めて知りました。
ですから厳密には、弁造さんとは「画家としての立ち位置」は違うと思っています。
僕も趣味で絵を描いているのですが、社会的に一切評価はされていませんが(泣)
一体、現在も過去も合わせて、どれだけの無名の画家達が、
自分の描いた絵を世間の目にさらさないままひっそりと死んでいったことでしょうか。
きっと、中には弁造さんのように素敵な絵を描く偉人達が無数にいたことでしょう。
現在はsnsやpixivのような、絵を描いたらすぐにインターネットにupして世間の目に晒させるサイトがたくさんあります。
良くも悪くもですよね。僕も絵を描いたらすぐにインスタやTwitterや、ここのサイト(note)にupしているので一応世間のお目通しはしているのですが。
それでもやはり、誰にも見られずに人生を通して描き続けた絵というものは、変えがたい魅力というか濃いものを感じますね。
話は変わりますが、
店主さんと弁造さんの話をしていてアートの話になり、
「もっと皆、絵を自分の家に、各部屋ごとに飾れば良いのにね」
という話になりました。
店主さんのお母さんは、新聞に載っていた美しい絵を切り抜いて、ちょっと良い額に入れて部屋に飾っていたそうです。
実はこの話はアート好きのお客さんが自分のお店に来た時にもたまに話す、僕が思う、アート好きな皆が思う、日本の社会が豊かになる表現方法の一つだと思っています。
ハウスメーカーが作った家でも、壁に子供の描いた絵や、雑誌の切り抜きでも、下手くそな自分の描いた絵でも良いから飾ると、
生活に潤いが生まれるんですね。
ヨーロッパでは当たり前のように、各家庭の部屋にはそこにあった絵が飾られていました。
僕なんかはさらに飛躍して、日本のツマラナイ、グレーな街並みに潤いを与えるべく、
壁に絵がたくさん描かれていたら素敵だなとか思います。
昨今話題になっているバンクシー(イギリスの覆面アーティストで僕は10年前にイギリスに行った時に知ってバンクシーショップというものがロンドンにあり入り浸っていた)は昔から大好きですが、
日本では「落書き、不良」なイメージがあるストリートアートですが、これからの日本に質の高いアートが溢れていると良いなあと思います。
そんな話をしながら弁造さんに思いを馳せた良い休日でした。
雨の日のわおん書房さんの扉の外の風景は何とも素敵でした。
写真じゃうまく撮れなかったです!
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