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繊維はなぜ強い? その4(おわり)

有機繊維も種類が多いです.どうして繊維形状だといいのでしょう? ビニール袋に用いられる低密度ポリエチレンは,引張強度8~31MPa,弾性率180~280MPaです.また,レジ袋に用いられる高密度ポリエチレンは,引張強度23~31MPa,弾性率1070~1090MPaです1) . 一方で,高強度ポリエチレン繊維は,引張強度3.5GPa以上,弾性率123GPa以上と,特性が大きく異なります2) . これは,同じポリエチレンであっても高次構造(三次元立体構造)が異なることで,

    • 繊維はなぜ強い? その2

      もう一つは,繊維軸方向に規則的に並んだ結晶構造などの寄与があります. 鋼材においては,圧延後に結晶方向が揃い強度が向上するという性質があります1) . 線材では伸線加工により強い圧力で均等に絞り込まれるため,強度の高いセメンタイトと延性のあるフェライトの結晶が不規則な状態から伸線方向に向きが揃うことで,フェライト相の幅(ラメラー間隔)が均等に狭まり,強度が飛躍的に高まるそうです. 一方で,薄板のような圧延材の場合は,結晶が圧延方向だけに伸ばされ幅方向は伸ばされないため,

      • 繊維,入ってます~Bouveret歩道橋~

        スイスのレマン湖の南岸でフランスとの国境に近い町にBouveret歩道橋があります.Googleマップにはまだ写ってませんが. ローザンヌ工科大学で開発されたUHPFRCを用いた橋で2018年にできました.州道を渡る小学生の通学時の安全確保のために架けられ,小学校の2階に接続しています. この歩道橋はUHPFRCのU形セグメント12個をPC鋼棒で一体化して長さ26.5mの主桁を有しています.ウェブには長方形のスリットが複数入っています.よく見るとスリットが入っていないとこ

        • 繊維はなぜ強い? その1

          繊維は一般的に剛性も強度も高いです.それはなぜでしょう. 繊維は何らかの方法により直径より長さが著しく大きい線状の形状に加工して作られます. 繊維形状へと加工されることにより,繊維軸方向の剛性と強度が大幅に向上して,バルク形状での同種材料の剛性と強度に比較して大きな値が得られます. その理由は主に二つあります. まず,内在欠陥による強度への影響があります. 繊維直径が細くなると内在欠陥が取り得る最大寸法も小さくなりますね.これにより繊維の強度は大きくなることが破壊力

        繊維はなぜ強い? その4(おわり)

          繊維,入ってます~アーク森ビル~

          赤坂にあるアーク森ビル.完成したのは1986年で,東京の再開発超高層ビルでも古い方です. このビルの外壁のカーテンウォールには炭素繊維が入っています.この写真は2019年撮影のものです.きれいですね.有名なビルなのでメンテナンスもしっかりされているのでしょう. 詳しくは記事もあります.カーテンウォールで記事を検索してください.

          繊維,入ってます~アーク森ビル~

          繊維,入っています~新千歳空港~

          新千歳空港の展望デッキ.そこの階段です. よく見ると… 鋼繊維が入っていました.光っている筋状のものがそうです. いつ作られたのか分かりませんが,積雪寒冷地の過酷な屋外で健全なままで使われているのは繊維補強のおかげもあるかな⁈ 写真は2018年のものでした.

          繊維,入っています~新千歳空港~

          繊維はなぜ強い? その3

          炭素繊維はどうでしょう? 炭素繊維は結晶構造としてグラファイト(黒鉛)構造をもっており,木炭とその点は変わりません. しかし,炭素繊維では炭素原子が繊維方向に規則正しく並んだ網目構造をもち複数の層が重なり合って絡み合う構造を有しているのに対して,炭ではこの層構造が無定形で規則性が少なく強固な絡み合いも少ないため強度が小さくなるのだそうです. 炭素原子の繊維軸方向への規則正しい配向が剛性と強度を生み出しているのですね1) . 参考文献 1) 炭素繊維協会,http

          繊維はなぜ強い? その3

          構造利用 カーテンウォール

          1980年代に炭素繊維補強セメント系材料の研究開発と実用化が大きく進みました. イラクのバグダッドに建設されたモニュメントドームにおいては,外装タイル打ち込み軽量パネルに適用されました.重量と曲げ強度に関する厳しい要求性能を満足する材料として,オートクレーブ養生の軽量炭素繊維補強モルタルが選ばれたのです.当地の気象条件下において十分な耐力と耐久性を有することを確認して,1982年に10,000m2の大量施工が行われました. また,1986年に完成した東京のアーク森ビルにお

          構造利用 カーテンウォール