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〘自作小説〙オリーブ

彼女は貧しい地域の貧しい家に生まれました。戦争が近くで勃発していて、治安は決して良いとは言えず、物もあまりありません。それでも彼女は幸せでした。だって家族がいるのだから。お父さんは兵士として戦場に行っていて、なかなか帰ってきませんが、帰って来るといっぱい遊んでくれて、いっぱい頭をなでて、抱きしめてくれます。お母さんは怒ると怖いけれど、とても立派な人で、彼女に美味しいご飯を作ってくれます。ちなみに夜にはいなくなります。お仕事のようです。朝に帰ってきて、少し眠ると、家の事を守ってくれます。そしてなにより、彼女には片割れがいます。自分と顔がそっくりの片割れ。双子というらしいですが、顔はそっくりなのに性格が違って面白いのです。片割れはとても気の強い人で、お母さんの代わりになるんだと、彼女と共にいてくれます。

彼女は幸せでした。

最初にいなくなったのはお父さんでした。いつも帰って来る時期に、ずっと待っていても帰ってきません。まだかな、まだかな、と片割れとともに待っていると、お母さんが、お父さんがいつもしていたネックレスのようなものを持っていました。どうして持っているのかと聞くと、お母さんは、貰ったの、と言いながら泣いていました。お母さんが泣くのを初めて見た彼女は、片割れとあわあわしながらも必死でお母さんを慰めました。その日の夜、お母さんは仕事に行かず、彼女と片割れに、困ったらここに逃げるように、と地図を渡しました。彼女と片割れはしっかりその地図を持っていました。

戦火が広がりました。

逃げなきゃ!

彼女はお母さんと片割れと逃げました。片割れとは手を繋いで必死に走りました。お母さんは背中を押してくれました。後ろから黒い液体が飛んできました。何かが倒れる音がしました。お母さんが倒れたのです。彼女はいっぱいお母さんを呼びました。しかしお母さんは返事をしてくれません。いつもならばすぐに返事をしてくれるのに、このときは虚ろな目をしてだらだらと水溜りのように血を流し、一言も喋ってくれません。彼女は泣きました。片割れは彼女の手を引いて、無理やり立たせて、走り出しました。彼女も前を行く片割れに従って走りました。何度も何度も後ろを振り返りながら走っていると、突然視界がぐるりと回りました。転んだ。地面に全身を打ち付けて、痛くてまた泣きました。思わず片割れの名前を呼び、片割れが振り返った、その時、物が落ちてきて、片割れの姿が見えなくなりました。近くの建物が倒壊したのです。片割れは建物の下敷きになりました。彼女は必死に片割れを探しましたが、何も出来ませんでした。ただ泣くしかできなかったのです。

彼女は地図を頼りに、いっぱい走りました。

そこは今まで住んでいた場所とは全く違う、高度な科学が進んだ、豊かな都市でした。彼女は、別世界に来たような気持ちになりました。まず彼女は寝床を探し、図書館と呼ばれる場所にこっそり寝泊りするようになりました。彼女はバレていないと思っていたけれど、図書館の役員は皆彼女のことを知っていたので、時々ご飯を与え、服を与えました。彼女は文字が読めませんでしたが、役員が教えてくれました。その代わり、彼女は図書館で働くことになりました。

彼女はそこで、業務用アンドロイドと出会いました。

最初、彼女はアンドロイドのことを人間だと思っていましたから、機械だと知りたいそう驚きました。こんな機械がこの世界にはあるのか。彼女はそこで、一つやりたいことが出来ました。片割れを作りたい。いつも一緒にいた片割れ。彼女はどんなに図書館の人が優しくしてくれたとしても、寂しくてたまらなかったのです。彼女は勉強しました。いっぱいいっぱい勉強して、とても良い学校に、成績優秀者として学費免除で入りました。学校に入ってからもずっと勉強しました。

そして、片割れのアンドロイドを作りました。

しかし、出来上がったのは、ただ容姿が彼女とそっくりの、がらんどうでした。

彼女はそこで初めて、絶望しました。

同時に、戦争を憎みました。

自分からすべて奪った戦争を絶対に許さない。

彼女は優秀な頭で、どうすれば戦争を終わらせることが出来るか考えました。戦争を指示する者はもう根本が腐っている。やるならば現場。つまり戦場をどうにかしなければならない。しかし今、戦場で戦っているのはロボット兵器が主流でした。もちろん人間もいますが、人間の中にはお父さんのように、家族のためにやむを得ず戦っている人もいます。人には戦う理由があり、ただ反戦を掲げるだけでは止まりません。ではどこに手を付ければ戦争を終えることが出来るのか。

彼女は気づきました。

ロボット兵器を変えれば良いのだと。

ロボット三原則など、今や無用です。そんなものをハッキングして植え付けても意味がない。ならばどうすればロボット兵器は止まるだろう。

簡単なことです。

ロボットが愛と平和を学べば良い。

隣人を愛せよ。

そうすれば戦わなくなるだろう。いや、戦うために生まれたロボットが、愛を知り、戦いがいけないと気づいた時、きっとバグが生じて戦争が止まる瞬間が生まれるはず。

しかしロボットに愛を教えるのはどうすべきか。

愛とは複雑で、人間でもまだまだ理解されていないもの。それをロボットに埋め込むには、どうするべきだろうか。

突然変異で愛に近い感情を学んだロボットが、どこかにないだろうか。まあ、そんな都合の良いことはないだろうが。

しかし彼女は止まりません。

世界が平和になるまでは。

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