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印象に残る名刺デザイン、その落とし穴。

お客さんから「印象に残る名刺を作って欲しい」、そう依頼が入ったらどんな名刺デザインを考えますか?

印象に残る、というのは「簡単には忘れられない」状態ってことですよね。例えば極端に大きなサイズだったり、飛び出す絵本のような仕掛けだったり、あるいは最早オブジェみたいな物だったり。さまざまなアイデアが浮かんでくると思います。

デザイナーとしてはやりがいのある、おもしろい案件といえるでしょう。

しかし、一歩引いて客観的に観察してみると、それらのアイデアが非常にデザイナーの独りよがりだということに気付くはずです。

今回はそんな、印象に残る名刺デザインの「落とし穴」について、深堀りしていきます。


──ある日。

「パイセンパイセン!おもしろい仕事が
 入ってきましたよ!」

「おもしろい仕事?」

「はい!ホゲ丸カンパニーさんの
 案件なんですけど」

「ホゲ丸くんか。てか美波、
 そのパイセンってやめようか」

「え〜〜。いいじゃないですかぁ。
 フラッペ先輩は私にとって
 永遠のパ・イ・セ・ンなんですぅ」

「あざと可愛い目で見るんじゃあないww」

「で?何さ、おもしろい仕事って?」

「あ、これなんですけど見てください!
 こういう名刺、作ってほしいそうなんです!
 ホゲ丸さんってば」

「立体の椅子になる名刺か、組み立て式の。
 なんかネットで見たことあるね」

「あ、知ってました?
 じゃあこっちはどうです?」

「なにこれ?イラストが飛び出す名刺?」

「はい!鳥とか蝶のイラストが
 型抜きされてるんですよ。
 結構これ可愛くないですか?」

「ほほう」

スリーブケースタイプの
 こういうのもありますよ?」

「遊戯王みたいだなスリーブって。
 こっちはケースの方が型抜きされてて、
 名刺を挿入すると絵が完成するのね」

「これの方が可愛くて好きかな。
 でも名刺ケースから出して、
 さらにスリーブからも出して、
 こういう者です!シクヨロ!
 ってめんどうじゃない?」

「でもおもしろくないですか?
 絶対目立つし。こういう風に、
 強く印象に残る名刺
 作りたいらしいんですよ!」
 
「印象ねぇ…」

「え?何か問題あります?」

「いや別に」

「とりまこの案件、美波マターでやりなよ」

「ほんとですか!?ここんとこ選挙の
 ポスターとか重工業のパンフばっかり
 だったんで、こういうおもしろい仕事
 やりたかったんですよ〜!」

「てかパイセン、私の担当、
 堅い仕事多くないですかぁ?」

「勉強のため、だよ。まぁそういう
 堅い仕事のおもしろさは、一周しないと
 気付かないんだろうけどさ」

「まぁともかくこの案件、デザインの
 骨格は任せるんで、しっかりとラフ案
 作ってくれたまえよ美波クン!」

「ふふ。私もそろそろアシスタント
 卒業ですかね?」

「せいぜい落とし穴に落ちないようにね」

「落とし穴??」

※スリーブケース
トレーディングカードなどを保護するためのケース。

──数日後。

「んでこれが、ラフ案ってことなのね?」

「はい。3案作りました!
 どれも自信ありますよ〜」

「どれからいきます?パイセン!」

「いや…普通にA案から」

「りょ。これはですねぇ…
 実は!体温計なんです!
 温度によって出てくる文字や
 マークが変わるんですよ!」

感温印刷でやるってことかな?」

「ですです。こういうのあったら
 便利だと思いません?今って発熱に
 すごーく敏感じゃないですか」

「たしかにコロナ禍ではあるよね」

「平熱だとホゲ丸さんの情報が出て、
 37度以上になると病院や早退を
 勧めるマークが出るようにしたくて」

「なるほどね」

「良きですよね?ね?」

「でもホゲ丸くんとこインフルエンサー
 会社だぜ?拡散させるのが仕事だから、
 若干扱いが難しくない?」

「どういう意味ですか?」

「ほら、それこそインフルエンザ
 これで発覚したら、ちょっと笑えない
 かもしれない。菌を拡散させちゃマズイw」

「あー…なるほど。でもパイセン、
 熱があっても仕事に行かざるを得ない、
 ブラック体質の会社ってあるじゃないですか!
 そっちの切り口なんですよ、私が考えたのは」

「というと?」

「つまりぃ、そういう会社って、自分から
 休むってなかなか言いづらいと思うんです!
 でも第三者の、お客さんであるホゲ丸さん
 から発熱を指摘されたら、相手方の上司も
 部下を早退させやすいと思うんですよね!」

「なにそのかなり限定された
 シチュエーションww」

「わかるよ?主張したいことは。
 でもそんなキャスティング
 までしっかり決まってるシーン、
 ずいぶんと遭遇する確率低いと思うぜ?」

「そうなんですけど!てか聞いてください!」

「すげー力説してくんじゃんww」

「この名刺自体がもし、もしもバズればですよ?
 それって社会性のあるメッセージになる
 じゃないですか!そう思いません?」

「いやまぁ、そうだけどさ。たしかに
 ホゲ丸くんとこならこれをバズらせる
 ことも可能かもしんないけどさぁ」

「でしょでしょ!」

「体温計の機能はあくまで、ある種建前
 みたいなもんってことね。そこは理解したよ」

「でもどうなの?アイデア自体は悪くないと
 思うけどさ、そんな社会派じゃあないでしょ
 彼の会社。もっとこう、ウェイウェイしてる。
 だいたいホゲ丸くんアフロヘアーだぜ?」

「逆に、ですよパイセン!逆に!
 ギャップ萌えってご存知ないのかしら?」

「大前提としてさ、体温計機能はともかく、
 自分が何者か示すための名刺なのに白紙
 なんでしょ?いちいち温めないと何者か
 わからない。逆に何者かわからないから
 こそ強く印象に残る…とんちみたいじゃんw」

「いいですね!それいただきます!
 プレゼン資料に落とし込みますね!」

「待て待てww あくまでむりくり辻褄合わせ
 するとしたら、そういうコピーが
 必要ってことだよ」

「えー…いいと思うんだけどなぁこの
 アイデア。じゃあ名前とか必要な情報は
 普通に見えるようにして、体温計の
 機能だけ付けますぅ?」

「うーむ。それだとパンチがないかもね」

「ですよねぇ」

「そういや子供の頃、こういうタイプの
 体温計あったな。泣いてるウサギと
 笑ったウサギで熱があるかどうか、
 2択で表示してくれるやつ」

「昭和時代の思い出話ですかぁ?」

「たまに君は昭和を小馬鹿にしてくるよなw」

「あ!そうだ!こういうのどうです?
 ホゲ丸さん、髪型アフロなんで、
 熱がある時はそのアフロが……」

「……ごめんなさい、やっぱり思い付き
 ませんでした」

「なんだよっww 爆発でもさせようと
 思ったけど、すでに爆発してたってオチ?」

「てへっ。不発でしたね」

「とりあえず、次のB案見せて」

※感温印刷
 特定の温度になると色が変化するインクを
 使用した印刷。

「B案はいくつかタイプあるんですけど、
 例えばこのハート型のタイプは…」

ハート型ウイルスってこと!?」

「パイセン好きですよねぇ、そのAKBネタ」

「とりまパイセン、これ持ってもらえます?」

QRコードしか書いてないけど?
 これでどうすんだ?」

「まぁ可愛い!」

「早くww」

「はいは〜い。じゃ写真撮りまーす!
 浜辺ビタッピ〜!

「なんだいその変な掛け声」

※ハート型ウイルス
 AKB48の楽曲。オリジナルメンバーは
 小嶋陽菜・大島麻衣・川崎希の3人。

※ベビタッピ
 タピオカにストローを挿すときの掛け声。

「…っでぇ、iPhone構えるじゃないですかぁ!
 これ、写真撮ろうとすると、カメラが
 QRコード読んじゃうんですよね!」

「もしかして…それ読み込むと
 ホゲ丸カンパニーの情報が出る、
 っていうアイデア?」

「そういうことです!」

「形はいろいろ用意してるんですよねぇ。
 吹き出しとかメガネとか帽子とか
 ネクタイとか。パイセンの大好きな
 ウンチもありますよ!」

フォトプロップスってことか。普通に
 写真撮る時の小道具として使っても良き、
 みたいな。インフルエンサーの
 会社らしいっちゃらしい」

「ただ名刺交換の時、写真撮影する
 シーンが思い浮かばないな。
 さっきのもそうだけど、
 シチュエーションが限定的すぎるww」

「でもサイズ的にもインパクトあるし、
 これ名刺なんですか!?って食いつく人
 いそうじゃないですか?」

「思考がフッ軽すぎww
 そんなポジティブに食いつかないでしょ」

※フォトプロップス
 結婚式やパーティーでの撮影時に使用する小道具。

「単純にキャストの子が撮影の時に
 使ってくれるかもしれんけども、
 名刺交換の場だとなぁ。どうなんだろ」

「でも合法的に写真撮れるんですよ?
 可愛い女の子たちの写真、
 パイセンも欲しいですよね?」

「発想がおっさんなんなんだよw
 男性社員は喜ぶかもだけど、
 打ち合わせに入る前に撮影会
 始まっちゃうじゃん」

「とりあえずちょっと保留で」

「じゃあ次のが最後の案です」

※QRコードの商標はデンソーウェーブの
 登録商標です。

「C案は、鳥が飛び出すタイプと原理は
 同じなんですけど…」

「参考資料でホゲ丸くんが持ってきたやつね」

「あ、パクリっていわないでくださいね!
 私のは鳥ではなく、人物写真を使います」

「ほぼパクリやん!!」

「待って!聞いて聞いて!」

「聞いてるっつーのw」

「これぇ、ホゲ丸さんやキャストの
 子たちの写真にカットラインが
 入ってて、それを手前に起こすと
 名刺が自立す・る・ん・で・すぅ!」

「文鎮みたいになるってことか」

「例えが古いw 昭和時代の話やめて
 もらっていいですか?」
 
「顔と名前って一致しない人、多いと
 思いません?これは裏に名前が印刷され
 てるんで、デスクに置いとけばいつでも
 答え合わせできるようになってるんです」

「まぁ彼の会社はキャストの子多いしな。
 でもさ、印象に残るような名刺を依頼
 されてんでしょ?これ、忘れられる
 こと想定してんじゃん!」

「たしかにww」

「この際パクリなのはいいとして、デスクに
 置いとくってとこだけど、もうひと工夫
 なんか欲しいよね。何か案あるの?
 そこんとこ」

「ふっふっふ。実はパイセン!
 あるんですよね〜これが」

ARを使おうと思うんですよ!」

拡張現実か!」

「そーです。名刺をスマホのカメラで覗くと
 ホゲ丸さんやキャストの子たちが…」

「子たちが!?」

「脱ぎます!!」

「ちょっww マジで!?」

「マジです!」

「服を脱いで、シャワーを浴びて、歯を磨いて
 寝るまでを公開するんです!」

ナイトルーティンかよ!」

「あれれ?なんかエロいこと想像しました?」

脱衣麻雀かと思っただろ!」

「ん?なんですぅ?それ」

「あ、ごめん。昭和なんでいいや」

「てかキャストの子のはいいとして、
 ホゲ丸くんのルーティン、
 需要あるのかな?」

「ありますよ!やっちゃんねる
 知らないんですか?
 46歳独身男のルーティン」

「あー……知ってるしたまに観てるけど。
 ふむ。そうか、一定数の需要は…ある、
 のか!?」

「いや待てよ?それって動画流すだけだよね?
 YouTubeのリンクで済む話じゃないの?」

「あ!だったらこういうのどーです?
 部屋をCGで再現して、どうぶつの森みたいに。
 その空間でルーティンやるとか!」

「人物だけリアルにして?ってこと?
 いやいや莫大な費用かかるだろw」

※やっちゃんねる
 46歳独身ユーチューバーのチャンネル。

※AR(拡張現実)
 アプリを介して動画やアニメーションなどの映像を
 あたかも現実空間に現れたかのように見せる技術。

「まぁさすがにCGで再現は無理として、
 でも、とりあえずこれで全部ね?
 3案ともアイデアは悪くはないと思うよ」

「やった!!じゃあブラッシュアップしますね!」

「あわてなさんなって!悪くはないってのは、
 クリエイター同士が交換する名刺なら、
 ってことだよ」

「ん?どゆことですか?」

「だからぁ、言ったじゃん。落とし穴
 落ちないようにって」

「えっと…それって…」

「まんまと落ちてるしww
 3案とも、全部ダメだよ」

「えぇぇぇぇ〜〜〜〜!?!?」

「なななんでダメなんですか!?」

「いやだってこれ、ホゲ丸くんが欲しい名刺
 ってのがまるで考えられてないじゃないよ」

「考えてますよ!だからこうやって印象に
 残るようなデザインを!」

「いや、そこじゃない。
 そこじゃあないんだよ。その先だよ」

「その先!?」

「ちょっとその話の前に、休憩しよう。
 コーヒー淹れるよ」

──コーヒーブレイク。

「さて、よく名刺交換するよね?美波も。
 なんでだい?」

「なんでって、自分を覚えてもらうため、
 ですよね?」

「ひとつはそれだけどもさ、もうひとつ
 あるでしょ?理由」

「え〜やだぁ。ステキな殿方の
 連絡先ゲット!とかですぅ?」

「ある意味当たってるのが
 君のすごいとこだな」

「え?もしかして…
 相手の名刺をもらうため…ですか?」

「そうさ。美波が欲しいのは相手の名刺、
 でしょ?自分の名刺じゃあないわけさ。
 逆に美波の名刺を欲しがってるのは…」

「殿方!!」

「ちょっと黙ろうか」

「つまり、だよ?ホゲ丸くんが欲しいのも
 当然、相手の名刺だし、ホゲ丸くんの名刺を
 欲しているのは、交換する相手って
 ことでしょ?」

「それはわかってますぅ!でも、
 デザインするのは殿方の名刺
 じゃなくて、ホゲ丸さんたちの
 名刺ですよね?なんでこのデザインじゃ
 ダメなんですか!?ぷんぷん!」

「田中みな実!?」

「じゃあさ、持ってきてよ、全部。
 美波がこれまで交換した人の、
 殿方の名刺とやらをさ」

「あ、ここにあります。どうぞ」

「ちょっ!?早くね!?」

「まとめてるんですよ、ちゃ〜んと。
 いつ殿方からお誘いがきても
 いいように、名刺フォルダーに!」

「つまり美波、そういうことなんだよ!」

「えっなに!?」

「いやわかるでしょ!さすがに少しは
 落とし穴に、光が射してきたんじゃないの?」

「…全然真っ暗なんですけど!?」

「マジか。えっとホゲ丸くんの
 クライアントって誰さ?」

「う〜ん…インフルエンサーを
 欲してる会社、ですか?」

「つまり?ゆえに?まぁ多くは一般的な企業、
 ってことだよね?そんなビジネスパーソン
 たちがどうやって名刺管理してるのか、だよ」

「たぶん…私と同じ名刺フォルダーとか、かな?」

「アプリで管理もあるかもね」

「えっと…つまり、こういうことですか?
 私のデザインした名刺だと、
 もらった人が管理しにくい
 そういうことですか?」

「やっと穴から出れたじゃない!おはよう!」

底なし落とし穴じゃなくて助かりました」

※底なし落とし穴
 相手がモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚に
 成功した時に発動できる。そのモンスターを
 裏側守備表示にする。この効果で裏側守備表示
 になったモンスターは表示形式を変更できない。

「その視点で見るとさ、体温計案のテキストの
 表示、つまり発動条件は温めることじゃない?
 フォトプロップス案も効果の発動には
 カメラの起動にチェーンしないといけない。
 てかそもそも名刺としてはデカい。文鎮案は…」

「…デスク周りに置いてもらうことを
 想定してるんで、管理はできないですね」

「最初のうちは置いてくれるかもだけど、
 すぐに名刺フォルダーに入れられちゃうかもね。
 しかも名前は裏ってことだったんで、
 裏側表示でデスクから除外して
 名刺フォルダーに、だぜ?」

「そうなると顔と名前の答え合わせとか、
 できないですね」

「たまに思い出して特殊召喚するかも
 しれないけどね」

「確かに美波の案はおもしろいし、
 印象には残るかもしんない、
 もらった瞬間はさ。でもその後の管理の
 しやすさ、ってのが欠如してるよね」

「…デザイナーのエゴ、でしたね」

「クリエイター同士の名刺交換なら
 アリかもだけど、一般的な
 ビジネスパーソンが交換相手ってなると、
 やっぱ管理のしやすさって重要じゃない?
 ゆえにこのデザインじゃダメってことだよ」

「あ〜あ。全部ボツかぁ」

「ボツとは言ってない」

「え!?でも今ダメって…」

「ダメだけど、ボツっていうわけじゃあないよ」

「でもパイセン!!どうすれば?
 管理しやすくて、さらに印象に
 残る名刺なんて」

「まぁ管理しやすいようにするには
 文字情報が常にすぐ確認できて、
 かつ定型サイズにしないとフォルダーに
 入らない。ウンチ型の名刺フォルダー
 なんて見たことないしね」

「定型サイズで、かつ強い印象を与える
 ことってできるんですか?」

「できるっつうか極論、別に
 名刺で印象に残らなくてもいいじゃない」

「えっ!?」

「なんで名刺にこだわるのさ。
 名刺に振り回されてるぜ?」

「でもでも!それだとホゲ丸さんの要望、
 印象に残る名刺デザインっていう
 目的を果たせないじゃないですか!」

「いやいや目的を見失いがち
 なんだよネ、美波は」

「えぇ〜〜もうわかんないよ〜〜!!」

「付ければいいじゃない、体温計」

「どういう意味ですか??付ける??
 てかさっきから、小出しにしてません?
 絶対意地悪してますよね?」

ティーザー広告的手法だよ」

※ティーザー広告
 断片的な情報公開で消費者の興味を惹く
 プロモーション手法。

付録だよ!付録!」

「ふろくぅ!?」

「名刺の付録として、例えば感温印刷の
 体温計も、付ければいいじゃない」

「えっと…ちょっとパイセン、
 言ってる意味が…」

「彼は印象に残る名刺が欲しいと
 言ったんだよね?でもそれって突き詰めると、
 名刺じゃなくてもいいんだよ」

「印象に残ること、それ自体が目的
 ってことですか!」

「そう、それが真の目的。全然名刺単体に
 こだわる必要ないんだよ」

「付録で印象に残ればいい、ってことですか?」

「そう。とはいえ名刺は必要。なので
 雑誌みたく付録付き名刺ってことで
 印象を強くするっていう寸法。美波だって
 付録に惹かれて買うでしょ?雑誌」

「買います買います!むしろ付録を
 買ってる感覚です」

「だしょ?僕だってコロコロ買うときは
 付録がなんなのか、そこが決め手になるよね。
 こないだはシュウォッチ、その前は
 インベーダーキャッp」

「ちょっと黙ろうか?パイセン」

「とにかくだね、付録にしちゃえばいい。
 体温計でもフォトプロップスでも文鎮でもさ」

名刺を印象的にしようとするから、
 管理することをまったく考慮してない、
 イビツな形になっちゃったりするんだよ」

「だけど印象には残したい、だったら
 名刺単体じゃなくて付録とセットで
 印象付けましょう。なるほどぉ!
 そういうことですね?パイセン!」

「それだったら名刺はもらった相手が
 管理しやすい定型にできるでしょ?
 自己主張は付録の方で存分にやれば
 いいって寸法さ」

「パイセンってやっぱロジカルなんですね」

「いや、発想で重要なのはラテラル
 考えた点をいかにロジカルに線で繋げるか、
 なんだけどまぁ水平思考の話は、
 また今度教えたげるよ」

「さぁ、ということで付録をどれにするか、
 こっからは僕も手伝うぜ。ラフを
 仕上げてプレゼンしに行こうか!」

「はい!!」

──プレゼン後。

「パイセンのアドバイス通り、名刺を
 もらった側の管理のしやすさ、そして
 名刺単体で印象に残らなくてもいい、
 最初にその2点が上手く伝わったんで
 プレゼンがスムーズに進みましたね!」

「冒頭できちんとその落とし穴を
 共有できたんで、ホゲ丸くんも
 美波の案に納得してたね」

「でもパイセン、今回は競合他社と差別化、
 付加価値って意味で付録のトレカ付き
 名刺って案は通りましたけど、
 名刺単体で印象に残るアイデアって
 ないもんなんですか?」

「あるよ」

「えぇ!?じゃあなんで
 わざわざ付録付きに…」

「まぁ感温印刷のアイデアは僕も
 気に入ってたしね。ただ名刺の
 狭いスペースに収まるような
 アイデアじゃなかったし、無理矢理
 削って入れるのも消化不良だし」

「それに美波の案をそのまんま活かす方が、
 名刺と付録、ダブルのデザイン料
 いただけるしね!」

「もしかしてそれが狙い
 だったんですか!?あざとい!」

「君が言うかね?これはクロスセルって
 やつだよ!!」

「まぁ結果オーライじゃね?
 インフルエンサーがバズらせる、そのバズ
 っていう言葉の意味から、うまくミツバチの
 発熱にシフトもできたしさ!」

※クロスセル
 ある商品に別の商品も合わせて購入して
 もらうセールス手法。

「でもパイセン、単純に体温じゃなくて、
 ハチミツマークの数で親ミツ度を測る
 っていう、私の天才的アイデアの
 おかげですよ?」

「はいはい。でもそれに熱虫、夢虫、
 アイウォン虫
の三段階表示を加えたのは
 僕のアイデアだけどね」

「私のアイデアのブラッシュアップ
 じゃないですか!!
 てかそれを赤・青・黄色の信号虫(無視)
 って私に説明させましたよね?
 あれ超恥ずかしかったんですけど!!
 キャストの子たち、キョトンとしてたし!」

「プレゼンで恥をかくのも経験さ」

「パワハラですよね!」

「その意見はムシできないな!」

──数日後。

「パイセン!ホゲ丸さんからメール
 きましたよ!打ち合わせ前の開封の儀
 盛り上がるので、ホットな状態で商談が
 スタートできてます。大満足!ですって!」

「やはり付録を袋入りトレカにした
 のは正解だったね」

「キャストの女の子たちにもウケが
 良いらしいです!」

「親ミツ度数が高いと秘ミツのQRコードが
 出る仕掛けにしたからね」

「そのQRコードの遷移先ページ作るの、
 すごーく大変でしたけど」

「まぁ単純に名刺作るってだけじゃ
 なくなったからね。あと求Rコード、ね。
 Rはリクルート

「そういうダジャレ言うから!
 変にホゲ丸さんもノリ気になっちゃって、
 結局37度オーバーのとき、発熱虫って
 いう病院を促すマークも付け足すことに
 なったんじゃないですか!」

「ホゲ丸くんも世代近いからね。でも美波が
 力説してた、社会性のあるメッセージ、
 入ってよかったじゃんw」

「ちなみに発熱虫の場合は、
 レスキューのRかな。
 ま、両方の意味で、
 君にお熱、ってことで」

「昭和世代ってそういうくだらない
 ダジャレ好きですよね!」

「まぁそういわずに。ガッツリお金も
 出してもらえるんだしさ」

「実はその労力の見返りに、
 私のトレカも勝手ながら作らせて
 いただきました!」

「またそんな勝手なことを…
 まぁ1枚くらいいいけどさ」

「ちょっと開封して測ってみて
 もらえます?パイセン」

「いいけど僕は結構平熱低いから、
 アイウォン虫は出ないと思うよ?」

「……出ましたねw」

「えっ!?何この虫」

ゲッ虫です。きゃ〜パイセンに
 捕まっちゃった!もう!やっぱり
 パイセンは私にお熱!ってことなんですね!」

「やれやれだぜ……てかこの
 求Rコードの遷移先は?」

「美味しいイタリアンのお店です!
 Rはレストランですw さ!行きましょ!
 クロージングしたお祝いに、
 おごってくださいね〜パイセン!」

「……あざとい!!」


ということで今回は全編会話劇でお届けしました。劇中のデザインのアイデアなどは架空のものですので、リアルに実現可能かどうかの検証などはおこなっておりません。

また一部、漫画などからの引用などあり、わかりにくかった点はあるかと思いますが、印象に残る名刺デザインの「落とし穴」という本質の部分はご理解いただけたんじゃないでしょうか。

え?わかんなかった?じゃあこれだけは最後にご理解いただきたい。

僕は、浜辺美波が、大好きだ!!

・・・・・・

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ずっともやしを食べて生活してます。。。サポートしていただけたら野菜炒めに昇格できます。よろしくお願いします。