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Homo Deus(ホモ・デウス)要点

原書を読んだ際に作成した要点メモです。

自分の理解を確かめるために作成したもので厳密なものではありませんが、
この本に興味を持たれた方にとって何らかの参考になれば幸いです。
読書後ですが、トランプ現象やシンギュラリティなど、
次々に世界で起きている不可解なことに対し、心の備えが出来たような気がしています。

1.人類(Homo Sapiens)は新たな課題に直面している。従来は「飢饉・疫病・戦争」が克服すべき課題だったが、科学革命以降、人類がこれらの課題を解決していった結果、今や人は飢餓ではなく肥満に苦しみ、戦争よりも自殺で多くが亡くなっており、従来の人生の概念自体が見直される時代に入った。

2.かつて人類が狩猟・採集を生業とした頃、動物は身近な存在だった。多数の神様が存在する中には動物神なども居た。しかし、農業が生まれ、生産力を得た人類がより強大な集団となっていく中、人間と動物との関係はどんどん疎遠になっていった。

3.そのうちに、人類は、一つの神が世の中を支配しており、自らのことを神に似せてつくられた、永遠の魂をもつ、神と対話の出来る特別な存在と考えるようになった。動物の存在感は益々霞む一方、家畜化された動物は増加の一途を辿る。

4.一神教の神の啓示に従い人類が繁栄してきたところで、ダーウィンの進化論の登場は人類に大きな衝撃を与えた。人は永遠の魂をもった特別な存在などではなく、単にサルが進化しただけというのだ。もしその考えが正しいとすれば、人を特別な存在ならしむものとは一体何か?

5.この問いに対する答えがサピエンス全史より著者が主張する、架空の事実を皆で信じることで協力し大集団で一つにまとまる能力、と言えよう。親密な人の集団の規模は最大でも150名を超えることは出来ないと言われている(この規模を超えると集団は分裂する)。

6.しかし架空の事実、たとえば宗教のような共同幻想を皆で抱くことで、遥かに大きな集団の形成が可能となることは歴史が証明している。宗教だけでなく民族や国家、人文主義や民主主義、ひいては貨幣という概念すらも、皆が共同で信じることで可能となるものである。

7.大量の人員を動員するには斯様な架空の物語が必要だった。壮大なエジプトのピラミッドは、決して超能力や先進的な道具があって築かれたのではなく、ファラオ(生き神)を中心とした架空の物語によって動員された多くの労働者の手作業で造り上げられた。

8.文字の発明は記録を残すことで大きな集団を統治することを可能にするだけでなく、架空の物語に権威を与える役割も果たした。聖なる記録の代表例であるキリスト教の聖書は、それ自体が絶大な権威を生み出し、ここに書かれていることそのものが重視されるようになった。架空の物語の事実化である。

9.科学革命が起き、化学・物理学・生物学が発達する一方で、架空の物語である宗教はその基盤を揺るがされるどころか、むしろその勢力を増した。科学革命は産業革命をもたらし人類に絶大なる力を与えたが、人生の意味は何かというような問いには答えられず、依然宗教は人類にとって重要な役割を担った。

10.しかし科学の更なる発展により、人類にとっての積年の課題、「飢饉・疫病・戦争」が、神への祈りでなく、科学革命によって克服されるにつれ、課題を解決する力を持つものは神ではなく実は人間自身であるとの自覚が生まれた。人間中心主義のヒューマニズムの誕生である。

11.ヒューマニズムとは、物事の答えは神ではなく人間自身が一番よく知っているという考えである。各人それぞれが異なる個人であり、皆が自由に考え議論することで最適解が生まれるという考え方で、現在に至るまで世界を席巻する根底の思想となる。人の自由意思こそが最も重要で尊重されるべきものだと。

12.ヒューマニズムが普及する中、政治の代表を個人の投票が決める民主主義、消費者がモノの価格を決める自由主義経済、大衆の心を掴む様々な形の芸術が生まれていく。産業革命以降の経済成長で人々の生活は物質的にも豊かになり、ヒューマニズムという架空の物語は世界で益々支持されるようになった。

13.20世紀は三つのヒューマニズムの争いとなった。欧米の自由民主主義、ソ連・中国の社会民主主義、ナチスドイツの進化民主主義の争いである。一見大きく隔たる立場にあるようだが、人間を中心とした世界観という点ではどれも共通していた。

14.第二次世界大戦後、残った二つのヒューマニズムが冷戦でにらみ合ってきたが、ソ連崩壊により自由民主主義に軍配が上がった。自由民主主義が勝利を遂げ、経済成長に支えられた豊かな社会が実現したのだが、今度は新たに、飢えではなく肥満、戦争ではなく自殺、という課題に人類は直面している。

15. そうすると人類は健康で、幸せで、且つその状態を永遠に維持したいと思うようになる。これが新たに生まれた人類の課題であり、これをキーワードに纏めると「不死・幸福・神性(自ら神になる)」ということになろう。ヒューマニズムもここに極まれりという感じである。

16.しかしヒューマニズムがその拠所としてきた人の自由意思というものは実在するのか。人は感じ、感情を抱き思考を巡らせるが、これは所詮、サバイバルと生殖を目的としたアルゴリズム(定式化された問題を解決する手順)に過ぎないのではということが、生物学の発達により言われるようになってきた。

17.この考えを突き詰めると人間は特別な存在であるどころか、単に複数のアルゴリズムが組み合わさった有機体に過ぎないのかもしれず、たとえば恐怖は逃げろというサバイバルのための、愛は確実に生殖を実現するためのアルゴリズムかもしれない。

18. 実のところ、人間の自由意思はおろか、意識の実在も未だ証明されていない。そうすると、人間と動物を本質的に区別するものはなく、特殊な能力を有することで他の動物に対して優位に立った進化したサルにすぎないのであれば、人類が世界の頂点に君臨しているのは単に生存競争の結果ということになる。

19.もしそうであれば、より優れたアルゴリズムが世界に登場したときに、人類が引続き世界の頂点に君臨し続けられるのだろうか。その意味でAIの登場は衝撃的。人類史上初めて非有機物の知能が登場した。それらは意識も感情も持たないが、高い情報処理能力を有する優れたアルゴリズムである。

20.そこで「不死・幸福・神性」といった人類の新たな課題を誰が解決できるのかを考えてみる。たとえば人の能力を科学技術で補強した超人であれば、通常の人より長生きし、感情に左右されず、これらの新たな課題を解決し、世界の新たなステージに入っていけるかもしれない。

21.しかし一方で、このような超人が世の中を支配するようになれば、一方で大量の役に立たない階層が生まれることになる(Unemployable and Useless Class)。恐ろしい話だが、この階層の人たちは社会の進歩を優先する斯様な超人たちに滅ぼされるかもしれない。

22.しかし、このような考え方すら楽観的かもしれない。所詮、人はアルゴリズムに過ぎないということであれば、アルゴリズムの根幹である情報処理能力に最も優れたAIが世界を支配することになるかもしれない。ヒューマニズムからDataism(データ中心主義)の世界への転換である。

23.一部のHomo Sapiensは超人であるHomo Deus(神に昇華した人)に進化できるかもしれないが、そもそもHomo系の生物が世界に存在する意義が無くなり、Dataismが支配される新たな世界のステージに入るのかもしれない。


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