⑤「けど、知ってた?結局僕の命は僕のものなのにね。」
前回の続きです。
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那留守(なるかみ)様の言葉は…
何の理解も出来なかった。
何一つ理解出来ない。
分からない。
呪ではない。
呪ではなく、中身(臓器)の衰え。
中身の衰えの意味もあまりわからない。
那留守様はまだ続ける。
「視えている者は分かっている。
これが呪いなのか、臓器の衰えなのか。
以前話しただろう。
私を守りたい者と私を殺したい者がいると。
もちろん呪いをかけてきている者はいる。しかし、その対処は今まで私を守りたい者が対処してきた。
この体調の変化は呪ではない。
だから、辞めよう。忌厄祓いは無駄だ。
それよりも、私はおそらく二ヶ月後死ぬ。
私もそう思うし、占いでもそう出ている。
しかし、私は覆したい。
誰にも決められたくはない。
このままだと二ヶ月。
何もしないと二ヶ月。
だから。
だから…、抗おうじゃないか。
関係のない神事はいらない。
私は考えたが、
私は適度に体を動かし、好きな書物を読み、ゆっくり寝る。
これをしている時が一番調子がいい。
神事はやらなくていい。
そもそもお前の神と私は合わない。」
思ったより喋る那留守様にあっけに取られていたが、理解できるよう考え続けた。
結果。「はいそうですか。」と言える話ではない。
視える、視えないの話をされてしまっては、私は視えない。
視えないゆえ、これが呪なのか呪でないのかは分からない。
しかし、那留守様の話は嘘のようには思えなかった。
だが。
そういうわけにはいかない。
私が何の為に来たのか。
一通り話を聞いてから私も答えた。
「私の立場としては、儀式を変える事はできません。確かに私は視えません。なので何が正しいのかは分からない。しかし、忌厄(いき)祓いを止めたり、神事を違える事はできません。私はその為に来たのです。
共に命がかかっている話だという事は理解して頂けますか?」
「保身か?
それなら心配しなくていい。私が死んだ後のお前の身は保証する。
準備もしている。
今は上の連中に巻き込まれ、今度は私に巻き込まれるのだ。」
保身…?
保身という言葉にとてもイラついた。
助けたいと思っている。
これも何かの縁であると。
「お言葉ですが。」
そう言いかけた時、遠くで鈴が鳴った。
朝食が置かれた音だった。
「飯にしよう。」
那留守様に言われ、言葉を飲み込みながら仕方なく準備の為に立ち上がった。
膳を用意し、いつものように並べ、失礼しようと頭を下げた瞬間、
「仁依雅(にいまさ)、お前の分は?」
「?…私ですか?
私は、まだ伏せております。」
「持って来い。一緒に食べよう。」
「…は?」
もう、何が何だか分からない。
共に食べる?何を?
しばらくボーッと那留神様を見つめていた。
あ…食事か?
理解するまで時間がかかった。
「いいから持って来い。」
身分や立場が違うのに、共に食べる?
なぜ?
そもそも、次の支度があるので早く食べて欲しい。
返す言葉を探したが見つからない。
反論した所で時間の無駄と思い、自分の食事を準備し持ち込み、那留守様の前に置いた。
普段なら緊張する場面だったが、ここまでくると何も感じなかった。
「いただきます」
先程から“なぜ?”
が多すぎて頭が痛くなってきた。
食の遅い那留守様を待ち、改めて声をかけた。
「那留守様。
忌厄(いき)祓いについてです。
今後も同様に続けていかなければなりません。那留守様の見立て通り例え効果が無いとしてでも、私がここにいるのは忌厄祓いの為です。他の神事も違える事はできません。」
まだ食事を口に運びながらであったが、那留守様は答えた。
「無駄だと言っているんだ。
無意味な上に私はその儀が不快であり、お前にも負担になる。
無駄な儀は命を削る。」
「私の事など気にして頂く必要はありません。」
「いいか、2ヶ月だ。2ヶ月が過ぎれば占いは違えたことになる。
このふざけた儀式は最低でも一年だ。私は一年ももたないが、もしもったとして忌厄払いを続けた一年後…お前は精神を削りボロボロになる。
今回のような払いの儀式とはそういうものだ。
そして、私に対して忌厄祓いは更に何の効力も無い。」
「…これは那留守様がお決めになる事ではありません。」
私ははっきりとそう言ってしまった。
その瞬間、那留守様の顔色が変わった。
そして、ゆっくりと箸を置き、こちらを見据えた。
「そうか…。
そうか。
分かった。
なら、私は夜に眠りにつかない。
眠らない。
忌厄(いき)祓いは深夜に行い、更に私が眠りについている事が大前提だ。
眠らなければ行えない。
私は決めた。夜に眠らない。
残念だったな。」
少し怒り含んだ言い方をしていたが…。
私は呆気に取られた。
何だ…この堂々たる屁理屈は…。
そして、那留守様はまっすぐにこう言った。
「仁依雅…。聞いてくれ。これは生きる為の選択だ。
私を信じてみてくれないか?
やらなかったらどうなるのか…やってみないか。」
今でもその時の彼の目の光を忘れられない。
そして、なぜか…わくわくしてしまっていた。
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