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眠れる女 #1/6

理不尽な職場で残業残業の毎日で、楽しみといったら夜な夜な胃にガツンとくるものばかりを食らってAV見て寝るくらいのオレ。ところがどういう経緯か隣の空き部屋に眠る女を囲うにいたり、行きつけのスナックのチーママには袖にされるしビデオ屋では自称息子に難癖つけられた挙句AVコーナーで年寄りたちと奇怪な輪舞を踊らされるしで、いよいよ眠る女を慰めに思ってここで一念発起したオレは汚部屋をすっかり片付けて清い心身で眠る女との生活に邁進しようと決意するのだった。しかしそんな矢先スナックのチーママことマチコさんの殺害の報に触れ、すると眠れる女がマチコさんが訪ねてきているみたいなことを言うものだから居間に戻って見てみると、いかにもソファーにはマチコさんのと思しき首が向こう向きに横たわっていてそれは眠れる女の後ろ姿と正しく相似形を成しており、首は問わず語りに究極の愛と消費されることの宿命とすなわちその即物性について上下の唇を削がれたせいの不明瞭な発音で滔々と語る。いたわるオレの気も知らず首は最後にオレのことをつまらない人間だと評してうんともすんとも言わなくなり、妙に思って目を凝らすと首だと思ったのがソファーの上に脱ぎ捨てたままにしていたスーツのパンツでマジかよってなったんだが休日明け早々出社するなり次長が飛び降り自殺したと知らされ何が何だかわからなないまま遺体の確認のため部長のお供をすることになって福岡へ発ったオレは、警察署で死んだ次長の妻と対面するに至り、この人と道ならぬことになりそうだとの予感に苛まれるのだったが果たして福岡の夜はいかに更けていったのか。

本編あらすじ


隣の部屋で気配がすると思って覗いたら見知らぬ女が布団を敷いて寝ていて、こちらに背中を向けて寝ていて、昨夜は深酒して遊ぶどころかハードワーク(くそクレーマー対応)の残業で終電間際に帰ってきて小便黄色くなるのやだなと思いながら遅くまでやってる個人事業主の弁当屋で懲りもせず味の濃い惣菜あれこれ買って食って酒は一滴も飲まずにAV見て抜いて寝て、寝たのは一時前、だからどこかの飲み屋で酔っ払って酔っ払った女をお持ち帰りしたなんてことはないわけだしだいたいオレがそんなことしたらキャラ変もいいとこでそんな度胸も甲斐性とやらもないわけだからそいつは百パー知らない女で。でもどういうわけか起こすのも可哀想というよりめんどくさくなってそれよか二月のこの寒い時期に女は半袖Tシャツで肩が掛け布団からあらわになってなんだか心許ない感じだったからオレは布団をかけてやったんだがそれをして優しいとかなんとか言われてまんざらでもない顔するような安い人間ではオレはさらさらねえから、まぁ、オレの家で風邪引かれちゃイヤだな、そう、要するにめんどくせえなと思えばこその偽善だったわけ。

仕事から帰ったらいなくなってんだろうと朝のうちは思ってたんだが、昼飯食ってそのあと会議資料の件で上司につまんねえケチつけられたせいで家のことなんてポーンと飛んじまって、役員に言われたからってスゴスゴ引き下がるんじゃなくてちょっとは戦ってこいよとイライラを募らせながらなんとかエクセル駆使しまくって会議資料を整えて上に呼び出されて六時過ぎに退社した上司の机の上に叩きつけるようにして置いてきたのが夜の十一時過ぎ、しかしそれにしてもあのバカ上司、「団塊の世代」を「だんこんの世代」と読んでしまうようなバカで、そのクセお偉いさんの前ではとんだ幇間気質、今の社長がまだ東北は岩手だか山形だかの営業所所長だった時代に直属の部下だったのが自慢で酔っ払ってちんこ出して所長の頭の上にチョンマゲ〜と言って載せた、その載せた写真が出回ってなんか憎めない奴とかいう好評価になっていて、そんなことよりコイツの机上には天童で買ったとかいうバカでかい将棋の駒が置いてあってこれが飛車駒でしかも馬って字が左右逆さに書かれているのがなんとも意味深で、オレは中国では職場に馬の置物を置いておくと出世するとかいう験担ぎのあるのを知ってるだけに、コイツの俗物ぶりだよね、ホトホトうんざりする。

で、またまた帰りは終電近い電車で、自宅の最寄駅の駅前に二十四時間営業のスーパーもなくはないがほかのスーパーに比べて割高だし店内は暗くてなんとなく薄汚くて昼も夜も同じBGMかけてるのもなんだかだらしない感じだし置いてある野菜や魚なんか鮮度がちょっと落ちる気がするしで、そんなことより自炊する気力も体力もないしともかくめんどくさいしこういうつまらない一日の締めくくりはがっつり背脂ニンニクこってりラーメン(濃いめ固め=こいかた)を特盛で食うに限るし、メタボとかなんとか、オレはあんなものは医者の陰謀と思ってるから食いたい物食ってぽっくり死んで本望と思ってて、医者の食い物にだけはなるまいと思ってる。

背脂こってりラーメン特盛のほかしば漬けをアクセントにラーメンの残り汁かけながら飯を大盛り二杯かき込み生ビールも二杯煽るように飲んでいい感じに酔いが回って時計を見たらまだ一時前、おおこれならまだビデオ屋やっとるなと浮き足立ってさっさと店を出るとビデオ屋の夜番はれいの顔馴染みの貧血くん、むろん口など聞いたことないがコイツ何歳やねんオレとあんま変わんなくねと尻目に暖簾くぐってAV物色しようとしたらなぜか似たような年恰好背格好の年寄りが五、六人と椅子取りゲームの最中みたいに互いに互いの位置をゆっくり交代しながら棚の前でかがんだり背伸びしたりで熱心にDVDのパッケージを吟味する様子にはとても張り合う気など起こらず手近にあるのを適当に数本かっさらってそそくさとレジに向かった。

コンビニでポテチ二袋と缶酎ハイ二本買ってようやく家に着いたのが二時過ぎで、このときまで迂闊なことにオレは女のことなんかすっかり忘れていて廊下ってほどでもないが玄関からリビングに行くまでのちょっとした通路さね、右にバストイレ、左が独り身には持て余す和室の六畳間で、ドアの向こうに人の気配を感じてまさかと思い出してそっとドアノブ回せば寝息が聞こえる、果たして女が寝ていて、こちらに背を向けて寝ている、薄暗がりに見えたシルエットは今朝方見たのとそっくりそのまま変わらなかった。

誰だよと悪態つくのも心のなかでのこと、どういうわけだか腹も立たず気味が悪いとも思わずましてや顔を拝んでやろうなどという気も起こらず部屋の明かりはつけぬまま開いたドアから漏れ入る通路の明かりだけを頼りに忍足で近づいてオレのしたことといえばずり落ちた掛け布団を肩までかけてやること、朝したようにしてやることで、してやってからそっとドアを閉めスーツを脱いでハンガーにかけシャツやら下着やらは洗濯機のなかに放ってシャワーを浴び生乾きの匂いプンプンのバスタオルでからだを拭いてスッポンポンのまま借りてきたDVDをプレイヤーに入れティッシュ箱をかたわらに引き寄せてどっかとソファーに座りつき買ってきた缶酎ハイのプルトップを開けグビグビやり出してようやく人心地ついたと安堵するのも束の間、なんだか全然気が乗らず画面に映し出された絡みはいつになく単調でわざとらしく陳腐で紋切り型でブスでゲスで退屈なものに感じられいっかな萌えず勃たずで二本目を見る気力も萎えて早々に右手をリモコンに持ち替えて電源をオフにすると寝巻きに着替え念入りに歯を磨いて床に就いたらあっさり寝落ちした。

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