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【読書感想文】『株式会社タイムカプセル社』喜多川泰著

先日に引き続き、喜多川泰さんの著書を拝読しました。

訳あって株式会社タイムカプセル社で働くことになった45歳の英雄。

仕事中は用意された制服を着用するのがルールの会社で、用意された制服は上下真っ白のスーツとハット。

上司は同じように真っ白な制服を着た、年若い青年、吉川海人よしかわかいと

いったい自分はどんな仕事をするのかわからないまま、採用された英雄。

タイムカプセル社の仕事は、未来の誰かにあてて書いた手紙を、指定された未来の日に届ける仕事でした。

英雄が配属されたのは<特別配達困難者対策室>

様々な事情で届けることができなかった人たちに、直接手紙を届けに行くことですが、場所は日本だけではありません。

しかも配達順はあらかじめ決められていて、その通りに届けなければなりませんが、決して効率のよいルートではないのです。

真っ白な制服は、特別なシチュエーションをドラマチックに演出するために用意されたものでした。

2週間で5通の手紙を届けることになった英雄は、各地で様々な受取人と出会い、彼らの人生に触れるうちに自分の中の変化に気づきます。

未来の自分に手紙を書いた人はどれくらいいるでしょうか。

この小説にもタイムカプセルが出てきますが、学校でタイムカプセルを埋めた経験のある方はいらっしゃるかもしれませんね。

残念ながら私はありません。

何年か後の、とある日の自分に向けて書く手紙は、日々の出来事や夢などをつらつらと書き記す日記とはどこか趣が違うことだけはわかります。

小説の中では、受け取った手紙はまさにその時の受取人に必要であり、人生に影響を及ぼすこともありますが、受け取りたくないと考える人もありました。

現在の自分に至るまでの、どの経験も知ることがない過去の自分からの手紙。

順風満帆で幸せな人なら、懐かしい気持ちで当時を振り返るのでしょうが、理想通りの人生を歩めなかった人にとっては、その手紙に書かれた言葉はどのように映るのでしょう。

むしろ重く、未来への無責任な期待を持って書いた過去の自分に腹立たしささえ覚えるかもしれません。

手紙に書かれた言葉をどんな気持ちで受け止めるのか、それはきっと受け取ったその時のコンディションによるのでしょう。

だから配達する順番が決められているのかもしれません。

受取人が受け取るべきタイミングで手紙を届ける。

それこそがタイムカプセル社の最も重要な任務なのです。

言葉って不思議です。

ふだん気にもしていない言葉が、ある瞬間の自分をひどく傷つけたり、元気づけたりします。

それは人から発せられる生の声である場合もあるけれど、この小説のように手紙であったり、あるいは先人たちの残した言葉であったりと様々です。

その時に立っているアンテナに引っかかった言葉が、きっと最もその時の自分に響く言葉なのでしょう。

しかし過去の自分からの言葉の重さは格別のような気がします。

今、自分が必要としている言葉はなんだろう。

私には過去の自分からの手紙はないけれど、代わりに「本」があります。

本を読めば、先人たちの偉大な言葉を聞くこともできるし、物語という全体から何かを感じることもできるのです。

そこには学びがあり、癒しがあり、想像力をかきたてる種がちりばめられています。

小説の中で海人は、ある少女から10年後に父親に渡してほしいという手紙を託されます。

その手紙にあふれていたのは「愛」でした。

人を変える力があるのは言葉そのものではありませんでした。

そこに愛が宿っているからこそ、言葉には人を変える力があったのです。

書き言葉であっても、話し言葉であっても、その一言に愛を込めなければ届かないのだと気づかされました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

愛って難しい。

愛ってなんでしょう。

「愛」と綴ることは容易いことですが、こんなに難しいものはないように思います。

そして時にはたった一言で人を殺めることすらできてしまう、言葉の持つ力。

愛と言葉。

この二つが適切に結びつくことで、希望や未来が開けてくることもあると考えたら、自分が発する言葉にもっと注意を払わなくてはならないと感じました。

アンテナに引っかかる言葉を探すためには、普段から多くの言葉に触れることが大切だと思いました。

たくさんの言葉を知らなければ、今の自分の気持ちを表す言葉に巡り会えても気づかずに通り過ぎてしまうでしょう。

これからもたくさん本を読もうと思わせてくれる一冊でした。

みなさまにとって、良い週末となりますように。

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