テレビ番組のリサーチ領域①ネタ出し編
テレビ番組のリサーチ会社フォーミュレーション今井です。
今回は前回に続き、では具体的にどのようにリサーチをしているのか?を書いていこうと思います。
■①ネタ出し編
テレビ番組の”ネタ=素材”を探すのがリサーチの役目と書きました。
日テレ「イッテQ」だと海外の珍獣や絶景をリサーチしたり、フジ「ホンマでっか!?」などでは出演して頂ける専門家や海外論文などを探したり、また「せかほし」などでは出演して頂ける魅力的なバイヤーさんを探したりします。
ラインナップにはまる(=OAできるネタ)「新ネタ」を探すのはリサーチ会社にとって一番のボリュームのある領域だと思います。
■リサーチ発注(仮)
では実際にどのような過程を経て「ネタ出し」リサーチをしているのでしょうか?
仮にこんな発注があったとしましょう。ドキュメンタリーに近い番組かと。
■リサーチャー今井の頭の中
<リサーチャー今井の頭の中①>
まず動き出す前に、発注の内容を理解と整理します。
この発注のポイントは、
①海外で活躍する日本人で「アーティストやスポーツ選手以外」
②10代、20代(30代もOK!)
③ファクトがあること
「違う価値観?」これはちょっとよく分からないので置いておこう。
さらに噛み砕くと
①「アーティスト、スポーツ選手以外」
ということはどういう職業だろう。例えば、料理人、ベンチャー、社会貢献、YouTuber、教師、医師、パイロット、弁護士?最近だとゲーム実況者なども話題ですね。
②「10代、20代ということは?」
まだ若いので記事になる前に、SNSなど発信をしている可能性が大ですね。
③「ファクトがあること」
ということは何かしら権威性のある受賞歴があったり、権威性のあるメディアに出演していたり、「次世代の〇〇」とか言い回しで記事になっていたり、ある程度「お金を稼ぐ」などの実績があるかなどが考えられますね。
■検索ツールの選定とキーワードの想起
この辺を想定しつつ、リサーチの検索ツールとキーワードを想起
【検索ツール】※優先順位
→1)SNS(Twitter,instagram)
→2)インターネット検索(Google検索)
→3)新聞記事検索
【検索ワード】
国名+受賞+日本人
リサーチャー今井「まずTwitterで調べてみよう!」
(0.5h経過)
過去1年分だけでリサーチしてみると以下のような方々が見つかりました。
★八木禎治
グラミー賞を3度受賞した日本人レコーディングエンジニア
★西川博嘉
がん免疫療法。2020年アメリカ科学振興協会(AAAS)のフェローに選出
★ダイスナガオ
ハーレダビットソン勤務の唯一の日本人
どの方も素晴らしい実績・経歴ですが、今回の条件には合致しないのです。よって「国名」をチェンジしてどんどんリサーチしてみよう!
(1.5h後)
その結果、見つかった方々を列挙させていただくと
★園田大也(カナダ)2019年米アカデミー賞作品「スパイダーバース」の”キャラクターアニメーター”
★田島光二(カナダ)2018年米アカデミー賞受賞作品「ブレードランナー2049」の”コンセプトアーティスト”
★小林圭(フランス)2020年日本人初ミシュラン・三ッ星シェフ。現在故郷長野に戻っている。
★齋藤幸平(ドイツ)2018年日本人初ドイッチャー賞受賞。マルクス研究。大阪市立大学准教授。日本在住。
★今堀拓也(フランス)2020年フランスの国際作曲コンクール1位受賞。
<リサーチャー今井の頭の中②>
色々調べてみたけど、なかなか求められている年齢とジャンル(スポーツとアーティスト以外)が出てこないです。小林圭さんは受賞時によくテレビでも取材されていますのでリサーチ会社からわざわざ提案資料を作成するほどではないかと思いつつ。
■漠然と検索するのではなく「関係性の近いサイト内で検索」で絞り込もう!
少し方向性を変えてみよう。BBC,CNNなど海外メディア(ウェブメディアも含む)や近しい情報がありそうな国内メディアの「サイト内検索」で探ってみよう。
「サイト内検索」とは、CNNのニュースサイト全体の中でキーワードで検索することをさします。
「サイト内検索」は「site:ドメイン キーワード」でできます。
例えば、CNNのサイト内検索の場合「site:https://www.cnn.co.jp/ 検索したいワード」、これで「日本人」で検索した結果、
10P目で1人見つかりました。
★レイコ・タカハシ(海洋生物カメラマラン)
ナショナルジオグラフィックの大賞ってすごいですね。とても気になります。さらに彼女の名前で深掘りすると「半導体の会社を20年間エンジニアとして勤務。退社後、海洋生物カメラマンに転身」とのこと。条件に合致しないけど人生は大変興味深いです。
(さらに1h)
★竹内亮(中国)「AFP通信」のサイト内検索
武漢のドキュメンタリーで話題になった監督。
★福森大喜(シンガポール)ICPO(インターポール)で働いてる日本人サイバー捜査分析官 「wedge」のサイト内検索
<リサーチャー今井の頭の中③>
しかしどうしても2,30代の方が出てこない。
もう少し「職業」を決め打ちしながらリサーチしてみよう!と考えました。
「料理人」「トレーナー」「スタートアップ系」「医師」「ドローン」「プロゲーマー」「ゲーム配信」「ゲームプログラミング」…
(さらに1h)
★宇井野詩音(NYで活躍する寿司職人)29歳
★牛尾剛(マイクロソフトのエンジニア)??歳
■困ったときはヘルプを出す!(個人プレイヤーではない特権を活かして)
<リサーチャー今井の頭の中④>
しかしまだまだ数が全然数が足りない。この時点では発注者(制作)が満足するレベルと量と残された時間などを計算しています。
そうだ、みんなに相談しよう!
リサ―チャー今井「(Slackでみんなにヘルプを投げかける)」
こういうお題の時の「リサーチの方法」「キーワードの想起」「この発注に関して近しい答えの人物がいそうなサイト」などヒント下さい!
みんなに教えてもらったサイトにアクセスし、コツコツリサーチ…
(さらに1h経過)
その結果、以下の方々を見つけることができました。
★近藤那央(シリコンバレー起業家兼ロボットクリエイター)
★千葉康由(カメラマン・ケニア在住2020世界報道写真コンテスト大賞)
★荒島由也(ベトナム起業家 ベトナム初のクッキングスタジオ創業)
★中ノ瀬翔(宇宙での遠隔ロボット「GITAI」のCEO)
★大内啓(米病院の現役ER医師「医療現場は地獄の戦場だった」著)
★小林泰平(ベトナム起業家 ITベンチャー)
★吉野美幸(紛争地で活躍する女性外科医)
■テレビ番組で絶対的に求められる条件。
2つのキラーワードとは?
この2つのワードは制作から何度も言われます。数えたことはないですがリサーチャー歴20年の間で1万回以上は言われたのではないでしょうか。
「なぜ今、放送するのか?」と「どんな映像が撮れそうなのか?」自分の中で自問自答しながら、制作へのプレゼンする際のシナリオなども考え、答えが見つかるネタだけをGOするようにしています。
■とはいえ最終的には「自分が出したい人」も入れる
もちろん番組制作サイドからの条件というものはありますが、最終的には自分が「いま興味があるネタ」を必ず入れるようにしております。その方がプレゼンにも熱がこもりますし。
今回の発注の中でパッと思いつく方で言うと、
★リサ・ニシムラ(Netflix/映画プロデュサー)
→TIME 誌「2020 年 世界で最も影響力のある100 人に選抜」
→両親は日本人で日本語が話せるそうです。日本のテレビではNetflixの特集はなかなかできないと思われますが一度話を聞いてみたい方です。「NO RULES」を読んだので。
★矢野祥(「僕、9歳の大学生」で話題になりました)
→9歳で大学生になったことで一時日本で話題になりました。そんな彼も現在30歳。シカゴで小児科ドクターになれているようです。このコロナ禍において、彼から見たアメリカの医療現場など話を聞いてみたいです。
★福山太郎(起業家)
→現在32歳。20代半ばで渡米。2012年全米で福利厚生のアウトソースを手がけるAnyPerkを創業。その後「FOND」に変更。
→数年前からスタートアップ界隈をリサーチしている中でずっと気になっています。海外しかもシリコンバレーで起業してというストーリーにオリジナリティがあり興味があるのですが日本のテレビではまだ拝見したことがないので是非話を聞いてみたいです。
以上でリサーチは終了です!
そしてここから最後の仕上げです。笑
■最終的なネタのラインナップは一番最後に考える
今までみんなの力を借りながらなんとか「ネタ出し」できました。当初はこのnoteもどうなるか?ドキドキしながら書いてましたが、おかげさまで★印が23名みつかりました。
ここから制作の条件を優先しながら、自分が出したい人もおりまぜながら取捨選択をしてまいります。時にはチームでブレストして「今出す意味?」「どういう画が撮れるのか」という2点を意識して、より確度の高いネタを決めます。この工程はリサーチの最後にしないと途中で考え出すとリサーチがとまってしまうのです。
そこで今回は最終的には「12名」をピックアップしました。
全ての方が今回の条件を満たしていないですが、大丈夫です!
提出してみないと「正解」は誰にも分かりません。
恐れるに足らず「ネタ出し」で死ぬことはありません。笑
(ここまででさらに3h追加)
そしてここから有料の新聞記事検索などを使い、個別で深掘りをしていき
複数のソースを見比べ、複眼で客観的に資料を作成して参ります。
(※資料作成の段階で取り上げる方のSNSをチェックしたり、コンプライアンスだったり、他番組の露出などは気にしております)
■【まとめ】リサーチの「総時間は7h」
リサーチ業の達成感とは?
ここまでで費やした時間は一体何時間でしょうか。
計算すると「7h」!
大変と感じる方もいらっしゃるかもですが、それでもネタが通った喜び、OAされた時の世間の反応はうれしいものです!そしてOAされた方の人生が好転していく様を仕事帰りのスマホニュースなどで発見したりして、
ニヤリと”一人悦る”のもこの仕事ならではの達成感だと思います。誰も褒めてくれませんが…。笑。
またこの仕事は1人では何もできないと感じることが多い職種でもありますね。コロナを経て改めて「会社があること」「チームがあること」に感謝する日々です。
以上、テレビ番組リサーチにおける「ネタ出し編」でした!