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日本の木質バイオマスの熱利用の拡大に向けて

みなさんはじめまして!COMORIです。

COMORIは、京都大学大学院、森林科学専攻の学生で構成された「地域課題の解決」に取り組むチームです。

今回が初投稿ということで、地域経済循環に寄与しうる、ホットなトピックである「木質バイオマス」の利用についての記事を公開させていただきます。

これを読めば、今後の日本社会で重要になってくる「木質バイオマス」がわかります!

木質バイオマスとは、”木そのもの”のことで、枝、幹、木のごみ等なんでも全部木質バイオマスです!

図表を多く使ったわかりやすい記事になってますので、一読の価値ありです!

さて、ここから本編を始めていきます

疑問に思った点、課題等ございましたら気軽に聞いていただきたいです!



本記事の作成目的は


「国内外の木質バイオマス利用の現状を把握し、
日本の木質バイオマスエネルギーの熱利用推進における課題をわかりやすくまとめる」

ことです。そのことを少し頭の片隅に入れながら、読み進んでいただければと思います!


1.バイオマスエネルギーの果たす役割


「そもそもなんでバイオマスエネルギーなの?風力発電とかで良くない?」という問いに答えるところから始めていきたいと思います!


2015年、パリ協定の合意を経て、国際社会が一丸となって「脱炭素社会」を目指す方向性が示されました。脱炭素社会を目指す上で欠かせないのが、自然エネルギーの利用拡大です。その中で、バイオマスエネルギーのみに期待される役割が2つあります


➀家庭・業務・産業部門における高密度の熱供給
➁電化の難しい、運送部門の動力供給 

以上の2つです。木質バイオマスは、持ち運びが可能な分散的な資源であること、そして燃焼によって、高効率で高熱を供給できること、天候によって大きくバイオマス生産が左右されない(比:太陽光、風)という独自の価値を持ちます。以上の2つの役割を果たすことに、バイオマスエネルギーを使う意義があります。

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バイオマスエネルギーが社会において貢献するために、実現ハードルの低い➀の価値を発揮することが大切です。

SDGsの7つ目の目標↓に、そういった独自性を活かして貢献できるはずです!


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2.世界の木質バイオマスの熱利用の現状


今回は、バイオマスエネルギーで世界を牽引する欧州に焦点を当てます。欧州では、バイオマスエネルギーが最終エネルギー消費量の11%に上るエネルギーを供給しており、自然エネルギーの中で最も利用が進んでいます

すごいっすね、、

バイオマスエネルギーの中でも7割強は熱エネルギー利用が進んでおり、木質バイオマスエネルギーの熱エネルギー生産性の高さを活かしたシステムが構築されています。小規模分散的な熱供給と熱電併給が行われており、家庭用の熱需要をバイオマス熱供給で賄っています。家庭でも利用が進んでいる点が日本と大きく違うところと言えます。

太陽光発電、風力発電の発電コストが急激に低下しているため、バイオマスは熱供給が主軸となりつつあります。日本との大きな違いとして、➀年間を通して熱需要が安定している、➁利用者が多く、安価かつ手入れの必要のないバイオマスボイラーの施工体制、本体製造体制が整っている、➂バイオマス利用の補助制度設計の違い(後述)が挙げられます。

また、燃料に関しては森林・林業系の木質バイオマスを中心とした活用が進んできましたが、そのポテンシャルの上限に到達する程度まで利用が進んでいる国も多いです。そのため、今後は庭園、街路樹の剪定された木質バイオマスの利用も進めていくんだとか!

気候や地形の違いはあるものの、バイオマスの熱利用業界では日本の先をいく技術と経験が蓄積されていると言えます。


3.日本の木質バイオマスの現状―FIT制度―


そもそもFIT制度ってなんだよ!って感じですよね

FIT制度とは「再生可能エネルギー固定価格買取制度」のことで、

その説明に関しては、資源エネルギー庁のポップでかわいい資料があったので添付しておきますね↓(-p.6までなのですぐ読めます!)



ということでここから本題に入ります!


日本は2012年のFIT制度の導入以降、急速に木質バイオマスの発電用の燃料利用の拡大が進んできました。燃料となる木質バイオマスは、➀未利用木質➁一般木材・農作物残渣➂建設廃材の3つのカテゴリによって買取価格が決まっており、それぞれ32-40円/kwh、24円/kwh、13円/kwhと価格が設定されています。
表1 燃料区分と利用率

燃料区分と利用率

                筆者作成(山林誌(2019)P.20-P.25参照)

以下、順に定義と現状を説明していきます。
➀の定義は、「(森林経営計画等でその木材の出所が明らかなもの)森林における立木竹の伐採又は間伐に由来する未利用の木質バイオマス」です。

したがって、「山から持ち出したもの全て」がこの区分に該当します。枝葉やたんころ材のようなかさばる残材を利用するためには十分な路網の発達と林業機械の導入が欠かせません。しかし、日本の路網整備密度は欧州諸国と比較して低く、チッパー、ホイールローダー等の導入に必要な路網自体が存在しないのが現状です。

以上を踏まえると、おわかりいただけたと思いますが

「未利用木質」の区分で利用される材の多くは間伐材や主伐材です!

良質な材であっても、この買取価格の高さから燃料材として伐採されてまうケースもあります。また、本当に未利用な状態にある林地残材に関しては、発生量のうち9%しか利用されていません。したがって、この区分は燃料材の利用に際するマテリアル競合を生む直接的な原因と言えます。

➁の定義は、「製材工場で生じる残材」です。現状、これらの利用率は95%前後まで到達しており、その利用は順調と言えます。しかし、私が訪問した複数の製材工場の現場では大半、もしくは一部の材が廃棄or ボイラーで焼却されていたので、供給余力に関しては調査の余地があるかもしれません。

➂の定義は、「建築資材の中の廃棄物」です。こちらも、➁と同じく利用率は95%以上に上り、十分な利用が進んでいると言えます。建築資材の廃材は、多様な化学物質、金属が混入する危険性が高く、発電炉を傷める可能性が高いため、適切なガイドラインの策定が求められます。


日本のFIT制度設計で重要な点は、発電規模に応じた買取価格設定がなされていないため、補助を受ける事業者に「大規模化」する動機が強く働くことです。

欧州諸国では発電所が大規模化するほど買取価格も低く設定されているため「比較的小規模な発電事業への助成」という色が強いといえます。燃料に関しても、良質な燃料材が小規模の発電所に供給されることを目指し、各種制度設計がなされているわけです。日本では、大規模化するほど収益性が高まり、発電所の資金力も高まるため、燃料買い取りが集中した場合、より高い価格を提示できるのは大規模発電所です。したがって、国内の比較的高価格な良質燃料の買取り、国内生産で賄えない部分に関してはPKS(アブラヤシのヤシ殻)や外国産のペレット等を大規模な発電所が買い占める現状があります。(100%輸入バイオマスに頼った発電所の申請も多数存在します。)

本来、バイオマス発電計画を実行するうえで、まずバイオマスの持続的な供給計画を立てたのちに、適切な規模で発電所を建設することが必要不可欠ですが、先に大規模な発電所を建設し、燃料が見つからず稼働できないというケースも多数存在しています。

結果としてFIT制度は、大規模な発電所の建設を誘発し、マテリアル利用が可能な、良質な材の利用を吸収し、輸入バイオマスの利用の拡大を促進しています。まさに本末転倒な状況が生まれています。

現状として、地域の供給レベルにあった木質バイオマスの発電ができていないのです。また、PKSをはじめとした農産物残渣、欧州や米国から木質ペレットを輸入する際、燃料に求められる明確な基準はなく、その社会性、環境性の評価は一切求められません。(欧州諸国では輸入国として、環境負荷軽減に貢献するためにも、明確な環境基準を策定)今後、いかに大規模化以外のオプションを実現できるかが重要です。いずれにせよ、輸入バイオマスに対する基準の明確化、地域経済循環に寄与する制度設計の見直しが必要です。

まとめると、こんな感じになります↓

noteアイコン-FITの問題点


4. 日本の木質バイオマスの現状―熱利用―


上述の通り、木質バイオマスの利用価値を最大化するために、熱利用の拡大は非常に大きな役割を担います。詳細は以下の図に示す通りです!

木質バイオマスの発電利用は最大で40%程度の発電効率であるのに対し、熱利用は80%以上の変換効率を実現することができます。留意点としては、熱の保管は電気の保管に比べて非常に難しく、地産地消が基本となる点です。熱エネルギーは、汎用性も比較的低いです。したがって、安定した需要の確保が重要です。以上を踏まえ、地域内の化石燃料利用を木質バイオマスの利用に置き換えることができれば、地域住民の所得の域外流出を防ぎ、地域経済循環を促進することができます。木質バイオマスボイラーの利用用途は大きく3つあり、製造業、農業、宿泊業において利用されています。
日本の木質バイオマスの熱利用の現状の把握に必要なエネルギー供給量や消費量といったデータは現状存在しません。そこで、木くず、木材チップ、木質ペレット等を燃料とするボイラーの導入台数を図1に示します。

木質バイオマスボイラーの累積導入数推移

出典:三菱リサーチ&コンサルティング 高橋(2017) p.4
図1 木質バイオマス利用ボイラーの累積導入数推移


2014年時点での導入実績は2000台程度でありますが、この数値は小規模分散的な熱利用の進むオーストリアの導入実績の10分の1程度です。この現状を需要面と供給面に分けて考察してみます。まず、日本のバイオマスの由来の熱需要に関しては、今後拡大の余地があります。特に、産業用の熱需要に関しては、既存の化石燃料ボイラーを自然エネルギーに置換して利用することが必要です。これらの産業用の熱需要に関しては、高温の熱供給をする必要があるため、他の自然エネルギーでは代替が不可能です。したがって、脱炭素社会の実現に向けて、高密度に熱を供給できる木質バイオマスに対する熱需要は大きいといえます。供給面に関してはFIT制度との競合に留意して、燃料利用を進める必要があります。FIT制度には林業関係の高品質材、低品質材のいずれも利用されているのが現状です。ですので、FIT制度による燃料利用の傾向を把握したうえで、適切な熱供給を行わなければなりません。したがって、地域内での熱利用においては、利用場所近辺の広葉樹、小規模の製材工場の残材等の供給余力の開拓を中心に検討を進める必要がありそうです。
 熱利用に使われる固体木質バイオマスの利用形態は、薪、チップ、ペレットの3形態存在します↓。

表2 木質バイオマスの燃料形態と特徴

木質バイオマスの利用形態と特徴


                             筆者作成


表2に示すように、利用形態によって加工の手間に差が生じ、加工コストが高いほど、安定した燃焼性を持ちます。そこで留意する点は、加工コストが高くなるほど、事業性を担保するために、集約的に加工を行う必要があるということです。現状としては、林地の低質な残材を収集し、効率的に加工するシステムが存在しません。つまり、チップ、ペレットの利用に関しては、路網、作業機械(設備)、供給経路といった基礎的なインフラ整備が浸透しておらず、残材利用する体制が整っていません。にもかかわらず、日本ではチップボイラーやペレットに対する導入援助施策が中心的に行われてきました。したがって、製材工場での丸太のチップ化、ペレット化が常態化しています。このように、主産物を利用する方向性では、事業の採算性を確保することは難しいです。欧州諸国では、薪→チップ→ペレットという順で徐々に熱需要網を開拓していくことで、徐々に熱利用を実現してきました。日本においても、実現可能性が比較的高い、薪ボイラーによる小規模分散的な利用から順に進めていくことが望ましいです。また、現状のスギ、ヒノキの育林体制は用材生産を目的としており、初期コスト、初期リスク、維持管理費が大きく、それ自体が燃料利用に向きません。燃料利用において直木である必要はないため、新たな供給経路の確保も不可欠と言えます。


 
5.課題

以上を踏まえて、「日本の木質バイオマスを熱利用すること」に関わる諸課題をまとめました。
・FIT制度下での主伐材の燃料利用拡大の防止
・FIT制度下での、輸入バイオマスの利用における持続可能性の検証
・地域内の熱需要と供給力の調査→それらを結ぶ熱生産システムの導入
・チップ、ペレット利用促進に向けた、残材収集の効率性上昇
・薪ボイラーの普及、ノウハウ蓄積
・人工林以外の供給経路開拓(更新力の高い広葉樹林、公園等)
・失敗事例の共有→これはどの地域産業にも言えます!とにかくオープンに!

みなさんの思う課題等ございましたらぜひお教えください!


7. 出典(ざっくりですみません)
➀熊崎実(2010)「増加する林木蓄積と森林バイオマスのエネルギー利用」
➁熊崎実(2015)「中山間地における木質エネルギービジネスの展望」
➂熊崎実(2016)「木質バイオマス発電FITの問題点と改善策の提案」
➃山林誌(2019) 1月―12月号
➄日刊工業新聞社(2020)「地域ではじめる木質バイオマス熱利用」
➅梶山恵司(2012)「日本林業はよみがえる」(p227-p255)


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