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編集者には、たまに根気のいる仕事があるんです

こんにちは
編集部の稲川です。

師走のいま、多くの方が忙しくされていると思いますが、書籍編集にとっても、年末年始は大忙し。
年末進行と言って、年末に刊行される本と年明けに刊行される本を、時期を待たずに編集しなければならないからです。

年明けすぐに取次に卸される本を“初荷”というのですが、初荷の本を担当した編集者はだいたいクリスマス前には校了していなければならず、12月に出す通常の進行の本も担当していれば、およそ2週間のうちに、もう1冊仕事を終えていなければならないのです。

逆に、初荷の本を編集して1月に出す通常の進行を担当していれば、年内か、ギリギリでも年始の仕事始めには校了していなければならず、年を越した感がなくなってしまいます。

ということは、12月と1月に3冊など編集したら・・・。
恐ろしいことになります。

かつて、この間に連続の3冊編集という経験をしたことがありますが、正月を迎えたのは2月でした。
さすがに若い頃の話ですが、あまり変わらない進行は編集者になってずっと続いております。

と、ここまでは一般的な編集者の話。
今回は、その逆で1冊の本になるまでに何年もかかる根気が必要な部分を、新刊発売秘話として書いていきたいと思います。

◆本が出版されるまでに、通常どれくらいかかるの?

本にはさまざまなジャンルがありますが、企画が通ってから本になるまでにどれくらいかかるのか。
あくまで私の経験上のビジネス書の例ですが、だいたい半年から1年といったところでしょうか。

しかし、これも平均値的なもので、「本を一緒につくりましょう」と著者と意気投合しても、本にできる企画が生まれずに何年もかかるという場合もあります。
もしくは、そうした企画が生み出せず、本の出版がポッシャってしまうことも。

ので、先にも書いたように、“企画が通ってから”の期間が、早くて半年、1年以内という感じでしょうか。

ただ、これにも1つ注文がつきます。
著者の執筆期間です。

著者が原稿を書き終えて編集者にわたすことを“脱稿”と呼びますが、企画が通ってから脱稿にいたるまでの期間が・・・これは著者によってまちまちです。
取材をして、それをライターさんが執筆するというケースがありますが、これですとだいたいの刊行時期が読めますが、ご本人が執筆する場合は別。

脱稿が早い人で、2週間で書き上げた方がいましたが、私はおおよそ半年を設定しています。
半年の執筆であれば、編集に2カ月、刊行スケジュールを調整しても、1年以内には本になる計算です。

編集者は、こうした流れで企画を何本も走らせて本が生まれていくのです。

◆本が出版されるまでに、最長どれくらいかかるの?

編集者には特別な本を編集している方がいます。
それは、辞書の編集です。

まあ、単行本ではないので本というべきかわかりませんが、辞書の編集者は1冊出来上がるまでに10年くらいかかります。

有名なのは、ベストセラーにもなった『船を編む』(三浦しをん著、光文社、2011年)でしょうか。

この本は映画化かもされたので、ご覧になった方もいらっしゃると思います。

本の編集には、校正ゲラという紙に印刷された本の体裁をなした原稿(ゲラ)が出て、それを編集者、著者、校正者でチェックしていきます。
初めにゲラになる初校ゲラ、その次に出る再校ゲラ、その後に三校、四校、五校・・・と続くのですが、単行本の場合、三校くらいで校了して、最後に白焼きと呼ばれる校了ゲラを見て終わります。

しかし、辞書の編集者はこの校正ゲラが延々と続くのです。

まず、辞書に携わる監修の先生が多く、その赤字をまとめるだけでも相当な量です。
しかも、何年も編集しているうちに新語や若者が話す流行語などが登場しては消えていき、どの言葉を辞書に載せるか載せないかでも、どんどんゲラが変わっていくのです。

映画でも、主人公・馬締光也扮する松田龍平さんが、ファストフード店で若者の話す言葉に耳を傾けているシーンがありましたが、辞書編集者の変わった生態が描かれています。

“船を編む”とは、「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいく」ということでつけられたタイトルだそうで、さすがに私はここまでは到底言えません。

ともかく、1冊の本を10年以上も携わる編集者に敬意を表します。

◆私の場合、3年かかって、やっと1冊の本が生まれた

辞書の編集者は、こと編集においては特殊だと思いますが、今回、私が編集させていただいた本は、出版までに3年の月日が経ってしまいました。

それが昨日、取次店によって搬入された『昨日の自分に負けない美学』(ひすいこたろう/矢野燿大/大嶋啓介著)です。

昨日の自分に負けない美学

2018年6月、日本人が昔から知っていた最強の引き寄せ法、予祝のススメを説いた『前祝いの法則』(ひすいこたろう/大嶋啓介著)がベストセラーになってから、いわゆる予祝本を企画してきました。

そのおかげで、第2弾は「予祝ドリームノート」(書店さんでは販売されておりません)を、第3弾は予祝を活用した結婚相談所で結婚成約率9割を誇る、白鳥マキさんを著者人に加えた『1分彼女の法則』を編集させていただきました。

また、「予祝ダイアリー」(大嶋啓介著)という手帳も2年続けて編集し(これも書店さんでは扱っておりません)、これまでに計5冊、予祝に関する本(出版物)を担当してきました。

そして、単行本としての予祝本3冊目に、阪神タイガースの矢野監督を新たな著者人に、本を編集させていただくことになったのでした。

ということで、矢野監督にお会いしたのが3年前、2軍監督から1軍監督に就任が決まった頃のことです。

もともとは、予祝の素晴らしさを世に広めようとしていた大嶋啓介さんが、矢野監督のよき相談相手としてつながったのがきっかけでした(のちにメンタルコーチとしてアドバイスもされています)。

実は、矢野監督は大のひすいファンで、ひすいさんの本をすべて、それも何度も何度も読んでいらっしゃって、大嶋さんを通じてひすいさんと矢野監督がお会いすることになりました。
その際に、ひすいさん、大嶋さんから「矢野監督と3人で本にしたら、最高にいい本ができると思う」と提案され、喜んで賛同。その席に同席させていただいて、矢野監督と初めてお会いしました。

お会いしたのは、甲子園ヒューイットホテルの1階のレストラン。朝食をかねての面会でした。
ホテルは甲子園球場の前にあります。それまでに、予祝を活用して甲子園に出場した高校の応援で何度も行った甲子園球場でしたが、さすがに本家本元、阪神タイガースの監督にお会いするということで、少しばかり緊張していました。
しかし、矢野監督はとても優しいお人柄で、監督というよりは先生といった物腰。初回から「なんでも話しますよ」と瞬時に好きになってしまいました(かっこいいですし)。

もちろん、この時点で正式に企画が決まったわけではありませんが、矢野監督も著者として3人で本を書くことに快く承諾いただき、さっそく取材が始まったのでした。

と、ここから3年かかるとは正直思いませんでした。
これまで何度取材したかわかりません。

その3年の制作秘話を、ぜひともお伝えしたかったのですが、ここにくるまでに話の枕が長すぎました。
制作秘話、ぜひ語らせてください。

ということで、次回は3年かかって誕生した本『昨日の自分に負けない美学』について書かせていただきます。

もう数日したら、書店さんに本が並ぶと思います。

もし、もし・・・事前に読んでいただけたら、次回のnoteは数倍面白くなると思います(となるよう書きたいと思います)。

オチもないのに、根気強く読んでいただいた方へ感謝。

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