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日本発の自己啓発書が世界で売れている意外な理由

ビジネス書の世界には「自己啓発」という一大ジャンルがあります。われわれは略して「ジコケー」ともっぱら呼んでいます。

もともとはアメリカで生まれたジャンルであり、本国では「Self Help」と呼ばれます。自らを助ける⇒自己啓発というわけです。

この日本発の自己啓発書がいま世界で売れに売れているという記事が日経新聞に出ていました。


日本発の自己啓発書が1000万部突破

2024年、日本発の自己啓発書が世界で累計1000万部を突破したと分かった。6月時点で1180万部に上る。

2024/10/07 日本経済新聞朝刊の記事 ”自己啓発書「日本発」が席巻”より

いちばん売れているのが『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)。記事のなかで、売れている要因として「ありそうでなかった本」という分析がなされています。

めっちゃ陽気でラテン気質なイメージのブラジルでも33万部刊行されているそうなので、人の悩みに国境も民族も関係ないと思わせられます。

「ありそうでなかった」

これは自己啓発書に限らないヒットの法則かもしれません。

「左利きのユーザーに向けた文具・雑貨」というありそうでなかったアイデアで成功しているようです。

こんな本も出ていました。

中国で稲森和夫さんが大ベストセラーに

京セラの創業者・稲盛和夫さんといえば、日本でも大ベストセラーとなった『生き方』。これがちょうど高度成長の踊り場に立った中国で大ブームとなっています。

京セラ創業者・稲盛和夫が自身の哲学をつづった「生き方」(04年、サンマーク出版)は世界770万部のうち631万部が中国だ。サンマーク出版の小林志乃国際ライツ部部長はこれまで続いていた「中国経済の上昇基調と合致し、経営者が目指すべき心持ちとして読まれた」と見る。


2024/10/07 日本経済新聞朝刊の記事 ”自己啓発書「日本発」が席巻”より

これに似た動きが経営の神様と称される松下幸之助の『道を開く』(1968初版)でもみられます。こちらも国内で566万部にのぼる大ベストセラーですが、発行元のPHP研究所では改めて中国市場に着目した新訳版を刊行するそうです。

「こんまり現象」はなぜ起こったのか?

また、アメリカではNetflixの番組にもなった『人生がときめく片づけの魔法』(近藤麻理恵・著・サンマーク出版)。

アメリカでヒットした当時、「モノに魂が宿るなんて、なんてクールな思想なんだ!」とSNSで話題となったのを見かけましたが、物質主義のアメリカ人の心の変化にカチッとはまったという意味では、これまた「ありそうでなかった」のかもしれません。

世界1400万部超のうち23年時点で米国が584万部と日本の倍に上る。片づけのノウハウを記す同書だが生き方を見直す本として注目された。近藤氏は「米国では当初からビジネスパーソンの関心が高かった。心を整えることが重視される中で、それが片づけによって為しうると理解してもらえた」と語る。

2024/10/07 日本経済新聞朝刊の記事 ”自己啓発書「日本発」が席巻”より

自己啓発書が生まれる国は「成り上がり」「成金」になれる国

先にも述べましたが、いわゆる自己啓発書はアメリカに源流があります。それについても日経記事では結びにこう書かれています。

米国は自己啓発書発祥の地でもある。愛知教育大の尾崎俊介教授によると、米国では18世紀以降の宗教概念の変化から「運命は自ら切り開ける」との意識が醸成され、自己啓発思想につながった。日本でも明治期、身分制度の撤廃で同様の機運が生まれた。

2024/10/07 日本経済新聞朝刊の記事 ”自己啓発書「日本発」が席巻”より

自己啓発書は民主主義と歩を一にして発展してきたものなのかもしれません。たしかに、身分制度が固定的な国家であれば、貧乏人が成り上がることはできませんから、自己啓発もクソもないでしょう。

この記事を読んで思い出したのが、神田昌典さんの発言です。Voicy公式フォレスト出版チャンネルの1000回記念に神田さんにゲスト出演いただいたときに、こう語っていたのです。

 いまから考えてみると、自己啓発っていうのは、やっぱり日本においてはちょっとね、うがった「眉唾」みたいなところで見られるけども、ただね、自己啓発が受け入れられる国っていうの、僕、アメリカと日本だって聞いたんですよね。最近でようやく中国ですけども。それまでの間、アメリカと日本だけだった。
 というのはどうしてって言ったら、自己啓発もしくは能力開発の本が売れるっていうのは、基本的に「成り上がり」ができる国かどうかってことなんです。だから、前は日本はできなかったんだよね。(その後日本は)成り上がりができる国になったんですよ。これはだから幸せなことなんですよ。

#1001【祝・1000回突破記念】今だからこそ語れるベストセラー誕生の舞台裏【後編】より

この発言を聞いた時には「なるほど!」と唸りました。それと同時に、戦後の自由な日本に生まれた幸せをちょっぴり感じた次第です。

最後に神田さんが上記発言をされたゲスト回の放送を貼っておきますので、ぜひ聴いてみてください。

(フォレスト出版編集部・寺崎翼)

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