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仕事に直結する分野の専門性よりも学ぶべきものとは?

以前、ベストセラーとそれが売れた原因を調べ、一覧にしてまとめていたことがあります。それらを分析すれば、より売れる確度の高い企画を立てられると考えたからです。

ベストセラーデータベースの一部。
さまざまな統計をとればもっと実りのある資料になったかもしれませんが……。

一覧にしてみると、「インフルエンサーの第1作は売れる可能性が高い」「ChatGPTのような新たなムーブメントをテーマにした1作めは売れやすい」とか、なんとなくの傾向ようなものはわかります。
売れた本の著者やテーマだけではなく、構成やレイアウトが素晴らしいと思った本は、他ジャンルでの水平展開の可能性も追究できます。
「酒×ビジネス」のような、一見接点がなさそうなテーマの掛け合わせのベストセラーも、他にも化学反応を起こせそうな組み合わせはないかと、思考のヒントになります。
一方、明らかに「大量の広告出稿によるゴリ押し」で売れている本だったり、たまたまテレビで取り上られた本などは、再現性という面であまり参考になりません。
上記以外で売れている本の大半は、「企画の切り口が斬新」という理由がほとんどだと考えられますが、そもそも「斬新な企画を考えることは当たり前」ですし、斬新だと思っていたテーマも、月日とともに古くなります。
そんなことを考えていたら、結局、過去のベストセラーを分析したところで、あまり意味がないのでは……、というか、データベースを活かす器量が自分にはないのでは……と思えてきました。
結局、モニター上でベストセラーを検証するという作業自体が、舌先で天下国家を転がすような実感を伴わない虚しい行動に思えてきたのと、面倒くさくなったこともあって、途中でやめてしまいました。

そもそも、私の場合は売れ線を研究するよりも、全然知らないけど個人的に興味関心があるテーマや、その周辺分野を探って、その道の専門家や研究者に語ってもらった企画のほうが成功している印象があります。それがたとえニッチなテーマだったとしても、ナポリタンのピーマンに刺したフォークをクルクル回すと、パスタやまわりの具が絡みついてくるように、見えなかった読者をピックアップできるようなイメージをもっているのです。

さて、こんなことを考えたのは、国分峰樹『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』という新刊(おかげさまで早くも4刷!)から「専門性が身につかないパターン」について、このnoteで紹介しているからです。

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すぐに役立ちそうな知識を吸収しようとする 
*専門性が身につかないパターン1

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年収をアップさせるために勉強する 
*専門性が身につかないパターン2

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過去の実績や経験に価値を置いている 
*専門性が身につかないパターン3

「専門性が身につかないパターン」は本書では4パターン紹介されており、今回は最後の4つめを、本記事用に一部抜粋・改編しておとどけします。


仕事に直結する専門分野しか目に入らない 
*専門性が身につかないパターン4

 専門性を身につけようとして、ビジネスパーソンが良かれと思ってやってしまう四つめのパターンは、今の仕事に直結する専門分野しか眼中になく、自分の興味・関心を吟味しないまま手をつけた結果、専門性がなかなか身につかずアップデートもされていかないことが発生します。
 専門性を身につけるためには、「やらなきゃ」「やったほうがいい」ということよりも、「やりたい」という気持ちを推進力にして取り組んだほうが、断然速いです。
 自分が今やっている仕事に関わる専門分野が、本当に自分の好きなことであれば、知的好奇心をエンジンにして専門性を身につけることができるかもしれませんが、自分の時間を使ってやろうと思えないことに頑張って時間を費やしても、専門性が身につかない可能性が高いといえます。
 またこれまでみてきたように、今の仕事に必要な専門性を身につけたとしても、専門性の移り変わりが速くなっているため、今後もずっとその領域で生きていく可能性よりも、これからの仕事人生のなかで全然違った領域に携わることになる可能性のほうが大きいと考えられます。
 したがって、現在の仕事に直結するような専門分野しか選択肢に入れないのではなく、より自由な視点で、自分が面白いと思える分野に目を向けて、「専門性の身につけ方」自体を習得することが、長い仕事人生においては強力な武器になります。
 今の仕事に関わる専門分野以外の領域に目を向ける必要性に関して、東京工業大学リベラルアーツセンター篇『池上彰の教養のススメ』(二〇一四)では、ビジネスの世界において、ルールや制度があっという間に変わっていくことを意識するのが重要だとしています。これまで当たり前だと思っていたルールが簡単に変わってしまうケースはしばしば起こるため、与えられた条件を疑って、自らの力で新しい市場を生み出す発想をもち、ルールをつくる側に回ることを目指すべきと指摘します。
 すなわち、ルールや条件はすべて誰かがつくったものであって、あっけなく壊れたりそのまま続いていかないことを前提に、あらゆる変化が想定外ではなくなるような視座をもつのが大切だということです。
 企業会計における制度改正がたびたび行われることからもわかりますが、ルールが変更されれば企業の行動はガラリと変わりますし、新しいネットビジネスなどではルールがないことを利用したり、ネット広告においてルールの抜け穴を狙った不正とその取り締まりのいたちごっこが起こったりもします。
(中略)
 こういった明確なルール変更だけではなく、ビジネスにおいては画期的な商品・サービスの登場によって、世界が一変することが起こります。ゲームチェンジャーと呼ばれる、iPhoneやAmazon、Netflixなどが、その例です。(中略)

 企業やビジネスを取り巻く現在の市場環境、および、その根底にある常識とルール、そしてビジネスパーソンとしての自分が置かれている立場などは、いつなんどき、そのすべてが変わってしまう可能性を常にはらんでいます。
 そんななかで、今、自分がやっている仕事に関わることだけにしか目が向けられないのは、あまりにも視野狭窄で、大局観がないといえます。ゲームチェンジによってあっという間にルールや前提が変わり、自分が旧に属する者になってしまうかわからない時代のなかで、今の仕事に直結することしか目に入らないという視座の低さは、大変危険です。
 この点に関して前出の本で池上彰さんは、〈今の時点で自分にはいちばん役に立たなそうな学問にアプローチしてみる〉もしくは〈自分の専門分野からなるべく遠い分野の学問に手を出してみる〉ことを勧めています。そうすれば、複眼的思考を身につけることができるからです。それを実践した事例として、アップル創業者のスティーブ・ジョブズさんを挙げます。
 スティーブ・ジョブズさんは、大学をドロップアウトして起業しましたが、ドロップアウトした後に大学に戻って唯一ちゃんと学んでいたのは、コンピュータでもITでも経営学でもなく、カリグラフィー(ペンによる西洋書道)でした。この経験についてスティーブ・ジョブズさんは、「カリグラフィーの面白さにハマった。カリグラフィーに傾倒したからこそ、アップルの初代コンピュータ、マッキントッシュを生むことができた。文字フォントの見栄えに徹底的にこだわること。ユーザーインターフェースを妥協なくデザインすること。持って触って気持ちのいい製品デザインを体現すること。カリグラフィーが私の原点だ」と語ったそうです。
 このような観点を踏まえて、自分の専門性を近視眼的に捉えるのではなく、未来に向けて広がっていく世界を見据えながら考えることが大切だといえます。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部 い し ぐ ろ)

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