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これまで得た知識やキャリアは、不良債権化、陳腐化、果ては有害化する

過去2回にわたって、7月発売の新刊『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』(国分峰樹)から、「専門性が身につかないパターン」として2つを紹介してきました。

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すぐに役立ちそうな知識を吸収しようとする 
*専門性が身につかないパターン1

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年収をアップさせるために勉強する 
*専門性が身につかないパターン2

ありがたいことに、上記2つの記事は多くの方にお読みいただきました。やはり、「自分のキャリア、このままでいいのか?」と悩んでいるビジネスパーソンがそれだけいらっしゃるということでしょう。
さて、「専門性が身につかないパターン」は本書では4パターン紹介されていますが、今回は3つめのパターンを、本記事用に一部抜粋・改編しておとどけします。


過去の実績や経験に価値を置いている 
*専門性が身につかないパターン3

 ビジネスパーソンが陥りがちな三つめのパターンは、学びよりも過去の実績や経験に価値を置いていることで、専門性がアップデートされずに錆びついてしまうといった事態です。
(中略)
 コンサルタントの山口周さんが『知的戦闘力を高める独学の技法』(二〇一七)において、「知識の不良債権化」という現象を指摘しています。
 知識の不良債権化とは、〈学んだ知識が富を生み出す期間がどんどん短くなってきている〉すなわち〈知識のおいしい時期、いわば「旬」が、どんどん短くなっている〉ということです。したがって、〈自分が過去に学んだ知識をどんどん償却しながら、新しい知識を仕入れていくことが必要〉になります。
「旬の寿命」が短くなっているのは、知識だけでなく、企業や事業も同様です。多くの産業において「イノベーション」が最重要課題となっており、これまでの価値提供の仕組みを根底から覆すような変革を実現することが求められるため、さまざまな領域で急激な産業構造の変化が引き起こされて、そこに携わる多くの人々は望むと望まざるとにかかわらず、自分の専門領域やキャリアドメインを変更していくことを余儀なくされると示唆します。
 つまり、現代社会では「知の陳腐化」が加速しており、ビジネスで価値を生むような専門性の移り変わりがますます早くなっているということです。
 ですから、自分が専門家として過去に携わってきた仕事の実績や経験にいつまでも価値を置いていると、専門性がアップデートされていきません。知識が陳腐化していくことを前提として、専門知識をアップデートしつづけようという気持ちがないと、過去の時点では専門家だったとしても、現在や未来における専門家ではなくなってしまうということになります。
 特にマーケティングの専門領域においては、デジタルマーケティングが主流になって以降、デジタルを中心にまわる世界を前提に置いていないようなマーケティングの理論は、ほとんど使い物にならなくなっているといった変化が、その象徴的な例です。
 こうしたビジネスの環境変化が激しい時代においては、ビジネスパーソンは自分の専門性が賞味期限切れになっていないか、あるいは、旬の時期を過ぎてお客さんにとっておいしくないものになっていないかを、ちゃんと棚卸しする必要があります。
(中略)

 専門性を身につけるためには、自己革新を念頭に置きながら、過去よりも未来に目を向ける必要がある理由として、現代のビジネスでは「すでに答えが存在する問題」に取り組むのではなく、「まだ答えがない問題」に取り組むことが求められているという点が挙げられます。
 前出の山口周さんは『ニュータイプの時代:新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(二〇一九)のなかで、二〇世紀後半は「正解を出せる能力」が労働市場で高く評価されて高水準の報酬を得ることにつながっていましたが、現代社会においては「正解のコモディティ化」が起こっており、与えられた問題を解くことは人工知能の得意領域でもあるため、今後は正解を出す能力の価値が認められなくなっていくと予見しています。つまり、ビジネスの価値を創出するポイントが「問題を解く」ことから「問題を発見する」「問題を提起する」ことにシフトするということです。
 また、ビジネスの環境変化がこれまで以上に速くなっていくことによって、過去に蓄積された経験の価値がどんどん低減していく「経験の無価値化」が起こると指摘します。経験豊富といった要件が無条件に評価されることはなくなり、〈過去に蓄積した経験に依存しつづけようとする人は早急に人財価値を減損させる一方で、新しい環境から柔軟に学び続ける人が価値を生み出す〉ことになるのです。
 とりわけ日本企業においては、経験豊富ということが水戸黄門の印籠のように使われており、過去の成功体験から抜け出せなくなるケースが頻出しています。
 マーケティングの世界でも、テレビがメディアの王様だった時代に活躍したマーケターの知見は、経験豊富として評価されるようなものではまったくなくなっており、今となってはむしろそうした成功体験は有害といわれてもおかしくありません。
 一度うまくいったやり方は、瞬く間に世界中で研究されて模倣されることになりますので、いったん世に出た成功事例は、これから行われる競争においては、その対応方法が織り込み済みになっていると考えたほうがいいです。よほどマネするのが難しい要因や、まだバレていないポイントがない限りは、「あ、その戦法ね」ということで、それを踏まえた次の局面をどう戦うかが重要になります。
 ビジネスの世界でも、まずは他社のベストプラクティスやロールモデルを調べて集めてといったことが、あらゆるところで行われていますので、それらを知ること自体は競争優位性を生むことにはつながらず、「で、どうする?」を考えて、これまでにない知恵を編み出せるかどうかが勝負の分かれ目になるといえます。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部 いしぐ  ろ)


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