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「テスラが変える車のKPI」の記事を読んで。

フォレスト出版編集部の寺崎です。

先日、日本経済新聞に興味深い記事がありました。7月14日朝刊のDeepInsightというコラム記事「テスラが変える車のKPI」です。

ざっくり要約すると、次のような内容です。

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時価総額が売上高の何倍に達しているかを示す「プライス・トゥー・レベニュー」という指標があるそうですが、トヨタを含めた主要自動車メーカーの倍率は1倍を割り込むものの、一方のテスラは10倍超になるとのこと。

つまり、従来の自動車メーカーは成長を期待されていないが、テスラにはかなり大きな期待が見込まれているということがわかります。

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記事では、このコロナ禍の混乱の中でテスラの評価が急激に上昇した背景の要因として3つ挙げています。

(1)非接触
(2)ソフトウエア
(3)ARPU(ユーザー平均単価)

このうち、とくに「なるほど!」と思ったのが「ARPU(ユーザー平均単価)」です。

ARPUはAverage Revenue Per Userの略で1ユーザーあたりの平均的売り上げ(ユーザー平均単価)を示す指標。

「車がソフト化する時代」に向けて、例えばテスラは自動運転機能のアップデートに数十万円に上る課金をすることもあるそうです。基本的なハードをあらかじめ搭載して、ソフトウェアの技術革新に応じて、継続的にキャッシュポイントを設ける。

これって、まさにアップルやアマゾンの商法と同じです。

iPhoneをはじめとするApple製品は基本ソフトのアップデートには課金をしないものの、定額サービス「アップルミュージック」などでユーザー平均単価を上げていく戦略です。

アマゾンの「アマゾンプライム」も同様ですね。

自動車産業におけるKPIの変化

このことがなにを表しているかというと、「自動車産業におけるKPIの変化」だと記事は指摘していました。

KPI=Key Performance Indicator(重要業績評価指標)

これまでの自動車業界のKPIは「販売台数」「売上高」「利益率」が重要視されていたと想像されます。しかし、「企業の将来性」を計る株式市場においてはAmazonやAppleのような「ARPU(ユーザー平均単価)」が自動車メーカーのKPIになるという話です。

なるほど、これからは自動車メーカーも大変です。

でもこれって、自動車メーカーに限らない話だと思いませんか?

たとえば、われわれ編集部が携わる「書籍」も、これまでは「注文数」「売上冊数」「返品率」「売上金額」といった指標がKPIだったわけですが、今後はもしかしたら「ARPU(ユーザー平均単価)」が出版社の命運を左右する時代がくるかもしれません。

飲食業、小売り、アパレルなど、コロナ禍で大変なことになってる業界も然り。

そんなことを考えさせられる記事でした。

一億総IT企業時代にはKPIが欠かせない

テスラが評価される背景には、「すべての業種がIT化する時代」の波を感じます。

「データ・ドリブン」
「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」


このところのバズワードです。

「デジタル企業に生まれ変わる最後のチャンスだ」

これは業界全体が苦境に立たされているアパレル業界の雄オンワードの社長の言葉です。

これまで営業の現場などでは「カンピュータ」と呼ばれる「現場の勘(カン)や経験値に基づく判断」が主流でしたが、いまやそれではかなりヤバいことになる時代です。

一方、そうした「デジタル化」と連動した形で、日本のビジネスマンの働き方が劇的に変化しています。

テレワークが普及して、時間と場所に縛られない働き方が市民権を得始めました。ただし、問題もあるようです。

「社員がちゃんと仕事しているかわからない」という悩みです。

そこで解決のヒントとなるのが、やっぱり「データ」なのです。社員ひとりひとりの「ジョブ」を明らかにして、自由裁量制の結果主義で運営するためには「データ・数値」で仕事を見える化しないと「社員がちゃんと仕事しているかわからない」という悩みは解消されません。

「経験や勘に頼らない」
「仕事をデータで見える化する」

この課題に答えるのが「KPI」です。

「何をKPIにすればいいか分からない」という悩み

KPIは設定した事業のゴールに到達するために、目標とする「数値」を決め、メンバー全員でその数値の達成を目指すものです。

KPIは業界ごと、業種ごとにさまざまです。

ところが、「当社のKPIをどれにすればいいのか、そもそもわからない」という悩みが多いのも事実。その悩みに答えるため、2018年に出版したのが『最高の結果を出すKPIマネジメント』(中尾隆一郎・著)でした。

おかげさまでこの本は好評を博し、5万部を超えるヒットとなりました。海外でも話題となり、ベトナム語版がすでに出版、これから中国語版も出版予定です。

「この本を読むだけでKPIの本質が理解できた」
「KPIマネジメントを導入、実践できた」

こうした声をたくさんいただきました。

出版後、著者の中尾さんのもとにはさまざまな業種からKPIマネジメント支援の依頼があったそうです。

「すでにKPI マネジメントをしているけど、うまくいかない」
「今からKPIを本格導入したい」
「経営者はKPI を入れたいと考えているけれど、現場が反対しているので、説得してほしい」

そんななか、うまくいかないケースに共通する問題点、どこを深く説明し、よりシャープにすると分かりやすく、より実践的になるのかというポイントが見えてきました。
 
そこで、このたび、より実践的な内容にフォーカスした新刊『最高の結果を出すKPI実践ノート』を出版することとなりました。

Amazon発売開始は明日8月25日(火)です。

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前作『KPIマネジメント』が理論編・入門編としたら、今回の新刊『KPI実践ノート』は実践編の立ち位置です。

古くからデータ経営で知られるリクルートで11年間にわたりKPIの社内講師を務め、自身でもKPIマネジメントを駆使して業績を上げてきた著者が、リクルート独立後さらに磨きをかけたKPIマネジメントの実践手法をシンプルにまとめ上げました。

「はじめに」全文公開

 2019年に出版した『最高の結果を出すKPIマネジメント』(フォレスト出版)は、おかげさまで9刷を数え、すでにベトナム語版が出版され、2020年には中国語版も出版の予定です。「この本を読むだけでKPIの本質が理解できた」「実践できた」という声をたくさんいただきました。
 本当にありがとうございました。
 また、1年間で30回ほどの企業、組織からKPIに関しての講演やKPI作成支援の依頼もいただきました。業種も規模もさまざまです。IT、教育、旅行、流通、物流、人材ビジネス、化学メーカー、広告代理店、エンターテイメント、設備器機メーカー、サービス業、税理士の団体、公認会計士の団体、中小企業の支援団体、新聞系イベント、市役所などです。
 規模もさまざまで、一部上場企業から従業員100名以下の企業までありました。支援の対象も、会社全体の話もあれば、特定の事業や新規事業の立上げなどいろいろでした。
「すでにKPI マネジメントをしているのだけれど、うまくいかないので何とかしたい」という会社もあれば、「今からKPIを本格導入したい」という話もあれば、「経営者はKPI を入れたいと考えているけれど、現場が反対しているので、説得してほしい」というかなり難易度の高いものまでありました。
 変わり種は市役所です。市長、副市長、市の幹部の方々と「市の人口を増やす」をゴールにKPI 設定の考え方を講義しました。幸い、同市は人口が増加し始めました。
 この1年の活動を通じて、KPIマネジメントは、ほぼすべての組織で活用できる可能性が高いことを実感できました。
 そして、さまざまな組織、団体とKPIについてディスカッションをする過程で、うまくいかないケースに共通する問題点も見えてきました。
 大半は、想定通りのポイントでした。ですので、講演・ワークショップ、KPI作成支援の中で、解決できる問題でした。そして、どこを深く説明し、よりシャープにすると分かりやすく、より実践的になるのかというポイントも分かってきました。
 それらの学びを受けて、本書『最高の結果を出すKPI実践ノート』では、今からKPIマネジメントをスタートする、あるいは改善したい企業、個人の両方に対して、より実践的な内容に仕上げることができました。
 最初のDAY1から順番に読んでいけば、自社、自組織のKPIマネジメントがスタートできるような実践的な構成にしました。DAY1からDAY5まで、ちょうど1日ずつ読んで、1週間で習得できるつくりになっています。
 前作『最高の結果を出すKPIマネジメント』を読んでいない方向けに、DAY0にKPIマネジメントの概要もまとめました。
 前作を読んでいただいた方は、復習として読んでください。
 それでは、さっそく始めましょう。

『最高の結果を出すKPI実践ノート』もくじ

Day1 KPIマネジメントの勘所
    KPIの定義をおさらい
Day2 MC4確認のためのワークショップ
    やってみると分かる「Goal」「KGI」の不統一
Day3 KPIマネジメントのステップ
    事業シナリオを描く手順
Day4 CSFの見つけ方とその事例
    KPIマネジメントに応用できる「制約条件理論」
Day5 ケーススタディから学ぶKPIマネジメント事例集
    事例① 成約課金型ビジネス
    事例② グループの戦略IT子会社
    事例③ サブスクリプション・モデルのビジネス
    事例④ 大手物流業
    事例⑤ 自動車販売会社
    事例⑥ 大手建設会社
Day5 KPIマネジメントの体制と進め方
    管理会計としてのKPIマネジメント
    共通理解と用語の統一
    MC4確認ワークショップで現状を把握する
    Goalと現状のギャップで進め方を決める
    進捗管理をグループコーチングで実施する
【付録】KPIマネジメント実践シート
よくある質問

よりシンプルに、より深く。

前作『最高の結果を出すKPIマネジメント』をよりシンプルに、より深く、より実践的にしたのが新刊『KPI実践ノート』です。

KPIの設定に進む前に、「CSF(Critical Success Factor=最重要プロセス=事業成功の鍵)がわからない」というケースが現場では非常に多いそうですが、本書の「Day4 CSFの見つけ方とその事例」を読めば、目からウロコかと思います。

著者の中尾さんはCSFの見つけ方において「制約条件理論」を応用するのですが、この考え方がめちゃめちゃ理解しやすい。

さわりをご紹介します。

KPIマネジメントに応用できる「制約条件理論」

 ここがKPIマネジメントの肝の部分です。
 各論に入る前に、CSFを見つける時に重要な考え方を紹介します。
 それは「制約条件理論(TOC=Theory of Constraints)」です。
 制約条件理論という言葉は知らなくても、エリヤフ・ゴールドラット教授の著書『ザ・ゴール』シリーズを読まれた方は多いかもしれません。
 制約条件理論はさまざまな場面で役立つ考え方です。
 もちろんKPIマネジメントにも有効です。プロジェクトマネジメントでもそうです。予算管理や時間管理でも役立つ応用範囲の広い理論ですから、ぜひポイントを確認しておきましょう。
「制約条件理論」を理解してもらうために、私は2つのたとえ話をよくします。1つは「ネックレス」の話。もう1つは「工場の組立ライン」の話です。

「ネックレス」で一番弱いところはどこ?

 図8のようなネックレスを引っ張ると、どこが切れるでしょうか?
 典型的な回答が「留め金の部分」と「ペンダントトップの部分」というものです。
 実際はどうかというと、どちらもそうかもしれませんが、そうでないかもしれません。スッキリした回答ではなくて申し訳ないです。
 正しい回答は「一番弱い部分」です。
 ですので、一番弱い部分が「留め金の部分」あるいは「ペンダントトップの部分」であれば、これらが回答になります。

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 なーんだって思うかもしれません。しかし、この「一番弱い部分が切れる」というのが最適な回答です。
 当たり前の話ですが、ネックレスは切れてしまったら使い物になりません。ですので、ネックレスを使うためには、この「一番弱い部分」を強化しなければいけません。弱い部分を強化して、引っ張ってもその箇所が切れないようにします。
 その後、このネックレスを引っ張るとどこが切れるでしょうか?
 もう分かりますよね。
 「次に弱いところ」です。
 そして、順番に弱いところを発見し、次々に強化していき、引っ張る力より全ての箇所が強くなれば、ネックレスはどんなに引っ張っても切れなくなります。
 最も弱いところを順番に強化していけば、ネックレスは強くなる。

 これが、最もシンプルな制約条件理論を理解するためのメタファー(たとえ話)です。
 そして、この弱い部分こそがCSF(Critical Success Factor)なのです。
 このメタファーから3 つの法則が分かります。

① CSFを強化するとネックレスは強くなる
② CSFは移動する
③ CSFを順番に強化し続けるとネックレスは切れなくなる

これほどシンプルなCSFの解説は他に類がないと思う。

本書ではこうした理論的な部分のおさらいから入り、具体的な実践手順を解説していきます。「Day5 ケーススタディから学ぶKPIマネジメント事例集」は各業態に象徴的な事例を集めました。読者それぞれが取り組むさまざまなビジネスに応用できるはずです。

KPI運用に悩む担当者の方の伴走者としてお役立ていただけると嬉しいです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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