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#322【ゲスト/翻訳家】ベストセラー『スマホ脳』翻訳者が語る、翻訳の世界

このnoteは2022年2月3日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。

編集者からのファンメールから始まった関係

今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める今井佐和です。本日は2021年最も売れた本である、『スマホ脳』の翻訳者、久山葉子さんと、フォレスト出版の稲川さんをゲストにお迎えしております。どうぞよろしくお願いいたします。

久山・稲川:よろしくお願いします。

今井:本日は、ベストセラー『スマホ脳』の翻訳の裏話あったり、スウェーデンのお話であったり、色々とお話を伺っていきたいと思うんですけれども、早速なのですが、自己紹介を簡単にお願いしてもよろしいでしょうか?

久山:はい。久山葉子と申します。今はスウェーデンに住んでいるんですけども、12年前に家族で移住しまして、その時に最初は失業者だったんですけども、どんな仕事がしたいかなと思った時に本の翻訳をしてみたいなと思って、出版社にスウェーデンの作品の持ち込みを始めまして、ありがたいことに、それから色々と翻訳させていただいております。ミステリーが数としては非常に多いんですけども、去年最も売れた本としてご紹介していただいた『スマホ脳』というノンフィクション、こちらも翻訳させていただきました。

今井:ありがとうございます。ところで、稲川さんは久山さんの大ファンということで、個人的にもお付き合いがあると伺っているんですけれども。

稲川:そうですね。私は北欧ミステリーの大ファンでして、スウェーデンの作品を結構たくさん読んできたんですけども、その中で久山さんが翻訳された本も読んできまして、スウェーデンのことを知りたいなと思って、直接Twitterでしたっけ?何かで連絡を。

久山:メールを。

稲川:メールでしたっけ?

久山:いきなり(笑)。

稲川:ファンメールです。ただのファンメールです(笑)。

久山:本当にファンメールでした(笑)。本当にうれしくて。まだ翻訳者としても4、5年目ぐらいの時で、あんまり直接感想とかいただいたことがなかったので、すごく励みになりました。

稲川:こちらこそ。それからもたくさん読ませていただいて、今もほとんど読んでいるという。結構なファンだと自負しております。

久山:ありがたいです。

稲川:そんなかたちで、今回お声掛けさせていただいて、ゲストにご登場いただいたという感じですね。

久山:ちなみに、私も御社の本が大好きで、これヤラセじゃなくて(笑)。本当に好きなんですけど、稲川さんから送っていただいたり、自分でも買ったりして、結構読んでいます。

世界的ベストセラー『スマホ脳』との出会い

今井:ありがとうございます。出版社としてお付き合いがあるのかなってはじめは思っていたんですけれども、まさか一個人的なファンで、メールを送られていたというところで、すごく響きました(笑)。ところで、もともとミステリーの翻訳家としてご活躍されていたということだったんですけれども、『スマホ脳』に出会ったきっかけっていうのはありますか?

久山:そうですね。普段、持ち込みって言って、自分が好きな本を日本の出版社に持ち込むことが多いんですけど、『スマホ脳』については、その前の作品が日本でもう出ていまして、『一流の頭脳』という作品なんですけども、それが英語から重訳になったんですけど、言語チェック、付け合せですね。スウェーデン語の原書と日本語訳がちゃんと合っているかっていう、そういう仕事もたまにありまして。それを一度依頼されてやった時に、仕事で読んだんですけど、もうすごく感銘を受けて。
その本はどういう内容かって言うと、記憶力とか集中力とか、要は脳をよく働かせるためには運動がいいっていう本なんですけど。それを読んだ翌日からこの運動嫌いの私がウォーキングに出始めまして。5年くらい前なんですけど、ずっとそれから続けていて、本当に頭もちょっとマシになったし(笑)。あと精神状態にもすごく運動が左右するっていうことも書いてあったので、気持ちも前みたいに落ち込まなくなったりして。
それから、このアンデシュ・ハンセンという著者の信者的な感じになりまして。スウェーデン人は結構みんなそうなんですけど、自分もすっかりハマってしまいまして、『スマホ脳』がスウェーデンで出た時も、すごくうれしくて読んだんですけど、日本でも有名になっていたので、一翻訳者が持ち込めるというような状態ではなかったんですね。やっぱりビジネスとして版権が取引されていくレベルまで著者がなっていたので、私は手出しと言うか、できなくて、すぐにエージェントさんの方から日本の色んな出版社に声がかかって、最終的に新潮社さんが出すことになったという感じですね。

稲川:そうですね。最初に久山さんに「『スマホ脳』って面白いよ」って、声をかけていただいて、私も出版社としてすぐにオファーは出したんですけど、さすがにもう売れっ子著者なので、フォレスト出版では落とせなかったっていうのが結果ですけども。

久山:多分、結構熾烈なオークション、入札だったんですよね。

稲川:いくらで落としたんだろうっていうぐらいですもんね。うちじゃ、なかなか難しかったんですけど。でもやっぱり大手さんで出されたので、本当にベストセラーなので、それもよかったなっていうふうに思っていますけど。

久山:本当にたくさんの方に読んでもらえて、私も信者として、布教者として、うれしい限りです(笑)。

近くにスマホがあるだけで生産性が落ちる

今井:私も実際に「カラフルな画面だと脳に刺激が強いから、白黒にするといいよ」っていうのを読んで、iPhoneを白黒モードに変えたところ、やっぱりスマホを見る時間が減ったりっていうので、実践的な内容、すぐできる内容が盛りだくさんなのも、すごく『スマホ脳』の見どころだなあなんていうふうに思ったりするんですけれども。改めて、多くの方がこの『スマホ脳』をお読みになっているかと思うんですけれども、久山さんからこの本の面白みですとか、興味深い点などを教えていただいてもよろしいでしょうか?

久山:そうですね。今、おっしゃっていただいた通り、今日からすぐ実践できる、もちろん無料でできることのたくさんのヒントが詰まっていて、しかも私とか佐和さんみたいに実感できると思うんですよ、違いを。だから、読んでよかったなって思える本だと思うんですけど。例えば私が面白いなあと思ったのは、この本に出てくるある実験で、学生を2グループに分けて、1グループはスマホを教室の外に置いて、教室に入ってテストを受けた。もう1グループはスマホを教室に持って入って、サイレントモードにしてポケットに入れておいて、試験中はもちろん出さなかったんですけど。それでもスマホを教室に持って行ったグループの方が成績が悪かったんですね。集中力のテストだったんですけど。というのは結局、スマホを取り出して見なくても、ポケットにあるだけで集中力が何パーセントか減っているわけですよね。それを聞いて、やっぱり仕事中に横に置いていたりとかするだけで、どれだけ自分の生産性が減っているんだろうって思って。残念じゃないですか。同じ時間をかけて仕事をしているのに、その分クオリティが下がるとか、時間がかかるとかっていうのは。それで自分も色々と仕事の仕方を考え直したりして。そういう、すぐ自分でも取り入れられるような、スマホは部屋に置かずに、1時間はよその部屋に置いて仕事をして、1時間ごとにチェックするとか。そういうことは皆すぐできることだと思うので、ぜひ役立ててもらいたいなと思います。

今井:ありがとうございます。私も最近、仕事をする時はスマホ用の隠すケースみたいなものを買って。

久山:そんなのあるんですね(笑)!

スウェーデンの本を翻訳するにあたり苦労した点

今井:まあ、適当な百均で買った箱なんですけど(笑)。見えない、自分の目に入らないだけで結構違うなあっていう実感があります。ちなみに、久山さんが『スマホ脳』を翻訳されていて大変だったことですとか、苦労したことっていうのはありますか?

久山:実はノンフィクションを翻訳するのが、初めてだったんですね。自分でもどんな感じになるか、ちょっと分からなくて、ドキドキしながらやったんですけど、この本に関しては原書がそもそも何も専門的なことを知らない普通の人が読んで、すごく刺さる、優しく説明してくれている本なので、訳す時も特に問題なく訳せたのは本当に著書の説明とか、紹介の仕方が上手なおかげだなと思いました。
逆に、『スマホ脳』の次作、日本では次の作品になるんですけど、『最強脳』っていうのも、去年の11月に出まして、これも運動で脳のレベルを上げようっていう話なんですけども、こちらはお子さんでも読めるような本なんですね。スウェーデンでは小学校4年生ぐらいからを対象にしている本なのですが、ただ日本語に訳した時にもうちょっと対象年齢を上にしようっていうことになって。というのも、スマホ持つ年齢がスウェーデンの方が低いのかな?もう小学生とかみんな持っていて、結構問題になっているので。日本だと中学生ぐらいからの内容かなっていうことで、日本語を中学生ぐらいに直したというか、年齢を引き上げて訳すことになったので、それはちょっと何度も編集者さんとやり取りして、正しい年齢層の日本語になるように訳したのは結構大変でしたね。でも、そのおかげで、日本でも『スマホ脳』を読んでくださって感銘を受けた親が、子どもにも絶対言うじゃないですか、「スマホは使い過ぎない方がいい」って。でも、親の言うことなんか子どもは絶対聞かないんですよ(笑)。うちもそうなんですけど(笑)。だから、子どもが自分で読んで「ああ。なるほど」って、自分からスマホとの付き合い方を変えたいと思ってくれる本が誕生したということで、スウェーデンでも我が家でも大歓迎だったんですけど。日本でも、読んでいただけたらうれしいなと思っています。

今井:対象年齢を考えて翻訳っていうところまで、考えたことがなかったんですけど、それを考えると本当に漢字の使い方から、語彙のボキャブラリーの選び方とか、色々大変になってきますよね?

久山:そうなんですよね。やっぱり日本語って、すごく幅が広いと言うか。スウェーデン語だとそこまで大人と子供で使う言葉って、例えば動詞とか同じなんですけど、日本語だと大人向けに訳するとこうなるし、子ども向けだと別の動詞になるしとか。改めて日本語の幅広さと豊かさを感じましたね。

スウェーデン発のおすすめミステリー作品

今井:そういったご苦労があったからこそ、全年齢じゃないですけど、多くの方に喜ばれるような本として日本で広がったのかなっていうふうに思うんですけれども、ところで久山さん、もともと北欧ミステリーの翻訳家としてご活躍されていて、稲川さんも大ファンだということだったんですけれども。まずは久山さんのミステリーの代表作ですとか、印象に残っているものを教えていただいてもよろしいでしょうか?

久山:そうですね。自分で一番印象に残っているのも、一番売れたのも同じ本なんですけども、『許されざる者』、レイフ・GW・ペーションという著者の方なんですけど、稲川さんは読まれましたか?

稲川:はい。もちろん読んでいます。

久山:ありがとうございます(笑)。もちろんと言い切っていただきました(笑)。スウェーデンでは本当に大御所の作家さんで、日本では初めてこの作品で紹介したんですけども、犯罪学の教授の方で、警察の組織内でも割と高いポジションで働いていたので、内部的なこと、組織的なこともすごく詳しくて、ちょっと翻訳は大変だったんですけど。そういう意味でも、面白い作品ですね。
どのぐらいスウェーデンでこの人が有名かと言うと、実はうちは猫を飼っているんですけど、今まで4匹飼って、全部保護ホームって言うんですかね?猫ホームって言うんですかね?そこからもらってきているんですけど、今、1歳半になった双子ちゃんが猫ホームで生まれた子たちだったんですけど、スウェーデンの建国記念日って言うんですかね?ナショナルデーが6月6日なんですけど、その日に生まれた子たちで、その猫ホームの人たちがスウェーデンで本当に愛されている有名人の名前を付けたんですよ。その1匹が、まさにこのGWペンションという作家の名前が付いていて、それを聞いた時に「その子もらいます!」って言って、もう即答した感じで。元気な男の子なんですけど、本当にかわいくて。そのぐらい有名な人なんですよね。スウェーデンで愛されている有名人って言うと、パッと名前が挙がるくらい。で、日本では3月にシリーズものとして、3作目も出るので、楽しみにしていただきたいんですけど。なんか猫の話をして、作品の話があまり出てこないんですけど(笑)。

今井:でも、自分の家族の一員になる子の名前が、その方の名前だと、やっぱりすごく思い入れが強くなりますよね、より一層。

久野:そうなんです。これはうちの子にしなきゃみたいな。

稲川:運命ですね。

久野:はい。

翻訳家が語る「翻訳の醍醐味」とは?

今井:ありがとうございます。では、本日の最後に久山さんにとって翻訳の魅力ですとか、翻訳をやってよかったなって思うことをお話しいただいてもよろしいでしょうか?

久山:そうですね、やっぱり何で翻訳しているかっていうと、自分が読んで面白かった作品を、他の人にも読んでほしいけれども、スウェーデン語だと日本の人は読めないから、「じゃあ、私が訳すので読んでください」っていう気持ちで最初から仕事をしていまして。だから、稲川さんみたいにファンメールをいただいたりすると本当にうれしくて。思い返すと、小学校の時も1年生、2年生くらいの時にお楽しみ会っていうのが学校であって、何でも好きなことやっていいんですよ。あるグループはダンスを練習してダンスを披露したりとか、そういうお洒落なことをしている女の子たちが多い中で、私は1人で本を持って、自分の好きな本を朗読したんですよね。それって先生にはすごく受けがいいんですけど、生徒は誰も聞いてなくて(笑)。誰も聞いてないのに『メアリー・ポピンズ』の1番好きなお話を朗読したりとかして。自分の好きな作品をどうしてもみんなに聞かせたいんですよね。で、その気持ちって、その時から今も全然変わってなくて、翻訳をしている感じですね。なので、ご感想は本当にうれしいですね。

今井:そのピュアな気持ちのまま今に至っているんだなって思って、今すごく感動しました。

久野:その時と変わってないです(笑)。

今井:ありがとうございます。

久野:ありがとうございます。

稲川:北欧のミステリーってピュアっていうよりも本当にすごく惨殺なシーンが多いんですけどね(笑)。

今井:ドロドロしているって、前に稲川さんがおっしゃっていましたもんね。

久野:暗いしね(笑)。

今井:ピュアな心がないと、そういったものには手が出せないんじゃないかななんて思ったりしました(笑)。

久野:結構、スウェーデン人の考え方とか、ライフスタイルとかがすごく伝わる作品が多いというか、ほとんど全部そうですね。なので、私は殺人事件自体というよりは、そういうのが面白いなと思って、読んでほしいなあと思っている部分がありますね。

今井:ありがとうございます。今、スウェーデン人のライフスタイルなんていうお話もあったんですけれども、次回は翻訳家としてだけでなく、スウェーデン在住のエッセイストとして、久山さんに北欧のお話を色々とお聞きしていきたいなと思います。本日は久山さん、稲川さん、どうもありがとうございました。

久山:ありがとうございました。

稲川:ありがとうございました。

(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)


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