見出し画像

コロナはどこ吹く風!? 今年最大の稼ぎ時を迎える“あの企業”

編集部の稲川です。

正直、東京五輪が開催されるのか、いまだわからないコロナ禍で、スポーツ界(?)で唯一ウハウハの業界があります。

それが、日本中央競馬界、いわゆるJRA

競馬界もコロナの影響で、最近までは無観客開催でしたが、年間を通じて開催を続け、なかでもネット投票での売上げが好調。
そのためか、お客さんにも大盤振舞いのサービスが展開されました。

有料競馬チャンネル(GREEN CHANEL)の無料視聴、払戻金の上乗せ、さまざまなキャンペーン(プレゼント)など、カネ余りなのかこれまでにないくらいのサービスを打ち出しています。

しかも、たまたまなのか、“競馬史上初”という歴史的記録が次々と生まれ、競馬ファンにとっては忘れられない年となりました。

・GⅠ8勝馬の誕生(その後、GⅠ9勝馬となる)
 (GⅠとは、レースの中でもっとも格の高いレース。これまで7勝が最高          で破れない壁とされていた)
・生涯獲得賞金の更新(GⅠ8勝とともに達成)
・クラシック牡馬(♂)牝馬(♀)の同時3冠馬誕生

 (クラシックとは、3歳の馬だけが挑戦できるGⅠ3つのレース。牡馬は、        皐月賞、東京優駿<日本ダービー>、菊花賞、牝馬は桜花賞、優駿牝馬       <オークス>、秋華賞で、このレースをすべて勝った馬が3冠馬の称号を        得る)
・無敗のまま牝馬クラシック3冠達成
 (クラシック挑戦までのレースから最後の1冠秋華賞まで無敗で達成)
・白毛馬による初のGⅠ制覇

競馬に興味のない方は、どれだけすごいのかわからないと思いますが、1年でこれだけ同時に史上初が重なる年は、おそらくこれからも生まれないのではというくらいなのです。

◆今年最後のGⅠレース、有馬記念って?

おそらく競馬ファンでなくても知っている“有馬記念”

年末最大のレースにして、宝くじを買うように競馬をしない人も誰かに頼んで一攫千金を狙う、夢を買うレースとして定着してます(2020年は12月27日開催)。

有馬中山競馬場

                  (2018年の有馬記念、中山競馬場)

競馬ファンの人気投票で出走する馬たち(すべての馬ではないですが)のレースで、1年間活躍した馬が登場するとあって、どの馬が勝つかということも去ることながら、それぞれが応援する馬に賭けるなど、売上げは膨れ上がります。

しかし、なぜ有馬記念というのか?
競馬をやらない人も多いとも思いますので、その歴史を探ってみました。

このレースの冠、有馬とは「有馬頼寧(ありま・よりやす)という人物名から取られたものです。
有馬頼寧氏は当時、中央競馬界の理事長をしていて、日本ダービーに匹敵するレースを年末にできないかということで、中山競馬場で「中山グランプリ」として創設したのが始まりです。

ちなみに日本ダービーは、今でも競馬界最高峰のレースで、3歳という一度しか挑戦できないレースで、その頂点立つただ1頭がダービー馬と呼ばれます(2020年では3歳馬7262頭が誕生)。その馬に騎乗した騎手も一生ダービー騎手と言われる名誉あるレースです。

話を戻しますが、この中山グランプリの第1回が終了した年明けすぐに、有馬氏が亡くなってしまいます。そこで、彼の功績を評して「有馬記念」という名前に変わり、それが定着しました。

有馬頼寧氏は旧筑後国久留米藩主・有馬家の第15代当主で、祖父が岩倉具視、第1次近衛内閣で農林大臣として活躍した政治家です。第2次世界大戦後はGHQにより巣鴨プリズンに拘置されましたが、無罪として釈放されます。その後、中央競馬会の理事長に就任しています。

また、プロ野球の球団オーナー(東京セネタース)も務めました。彼がファン投票で選ばれた馬が走るグランプリレースを考えたのも、プロ野球のオールスターゲームから得た発想です。

◆競馬はギャンブルを超えた夢とロマンがある競技

競馬はギャンブルゆえに大金が動きますが、競馬関係各者にとっては夢とロマンを賭けた、いや人生を賭けたと言ってもいい仕事です。

競馬は、馬を所有する馬主(オーナー)、競走馬として馬を育てる生産者、馬牧場、調教師、騎手がいます。
もちろん、競馬関係者は多岐にわたり、JRA周りで働く方(職員、コース整備、馬券売り、警備員、外郭団体など)、競馬記者やカメラマン、競馬情報サイト、予想有料サイトなど、数え挙げればキリがありません。

その中で、今回取り上げた書籍は、調教師・国枝栄(くにえだ・さかえ)氏の『覚悟の競馬論』(講談社現代新書)です。

覚悟の競馬論

国枝調教師は、冒頭で挙げたGⅠ9勝馬、アーモンドアイを育てた名調教師。東京農工大学農学部獣医科学科卒業後、調教助手を経て調教師に。1990年に自身が育てた馬を初出走させてから、2020年12月14日現在で931勝を挙げています。
うち重賞レース(グレードレースと呼ばれるもので、GⅠ、GⅡ、GⅢの3つを重賞と呼びます)を54勝、そのうちのGⅠレースで19勝を飾っています。

調教師の勝利数ベスト3は、こんな感じです。

調教師の歴代勝利数
1位 藤沢和雄調教師→1523勝(うち重賞123勝)
2位 国枝栄調教師→931勝(うち重賞54勝)
3位 音無秀孝調教師→868勝(うち重賞79勝)

とにかく、すごい数字です。

国枝氏が育てた馬がアーモンドアイという馬で、冒頭にも書きましたがGⅠ9勝を達成。生涯獲得賞金1位で19億1526万3900円。それまで1位だったキタサンブラックが18億7684万3000円(馬主は演歌歌手・北島三郎氏として有名)。
この2頭で37億9210万6900円ですから、ものすごい金額です。

アーモンドアイ&キタサンブラッグ

            (左:アーモンドアイ、右:キタサンブラック)

さて、本の中で国枝氏は「調教師の仕事は、競走馬を1着でゴールさせること」と言っています。
その昔の競馬界では、調教師は「詐欺師、ペテン師、調教師」などと揶揄されていて、調教するために馬を手荒く扱っている世界でした。

しかし、彼が師と仰ぐ藤沢調教師との出会いが、馬に対する考え方を変えていきます。
藤沢調教師は、上記にも挙げた通り、調教師界の先生(調教師は先生と呼ばれています)の中の大先生で、イギリスの名門ギャビン・ブリチャード・ゴードン厩舎で厩務員として働いていた経験をもとに、独自の競馬理論を形成した方です。

「厩舎村のいたるところで、馬を大声で叱ったり、ハミのついた引き手を手荒に引くといった光景が日常的に見られた。馬房から引き出そうとしても出ない、指示とは違う方向に行こうとする、馬具の装着を嫌がって暴れる、そういったとき、少なからぬ厩務員が怒ったような声で馬を威嚇し、人間の命令に従わせようとしていた」
            (『競走馬私論』藤沢和雄著、祥伝社黄金文庫)

藤沢氏は、こうした状況に疑問を抱き「動物の感性に立った」育て方をします。まるで運動会(レース)で良い成績を上げさせるような調教です(馬は動物の中でも繊細で怖がり。やさしい動物です)。

そうした師の教えを守りながら、アーモンドアイという日本競馬界史上、最強の馬をつくり上げた国枝氏の競馬哲学が書かれたのが、この『覚悟の競馬論』です。

私はこの馬を出走当初から応援していたのですが、そのきれいな走りは、まさに新幹線のようで(この馬に騎乗していたクリストフ・ルメール騎手は“フェラーリ”と呼んでいました)、ゴール前の直線でさらに加速する姿は美しすぎるほどでした。

国枝氏は「いかに競馬ファンに喜んでもらえるか」を第一に考え、本の中でも、これからの競馬界のあり方についても語っています。
このファンに喜んでもらうという考え方を象徴するのが、引退前の最後のレース、ジャパンカップでした。

もともとアーモンドアイは、レース間隔を開けて参戦する馬で、ジャパンカップ前のGⅠ天皇賞・秋で勝って、史上初のGⅠ8勝を達成しました。
普通ならここで有終の美としてもよかったでしょう。
実はアーモンドアイは、馬主(クラブ所有)の規定で6歳3月末までの引退がすでに決まっていました。そこで3月までにもう1走走ることのできるレースが、天皇賞・秋から3週間後のジャパンカップだったのです。

このレースには、これも冒頭で挙げた牡馬クラシック3冠馬のコントレイル、牝馬3冠馬のデアリングダクトが出走予定で、ここに現役最強馬アーモンドアイが参戦するという、夢の競演が繰り広げられることになったのです。

これには「ファンを喜ばせる」という国枝氏の意向もあったでしょう。
もちろん「競走馬を1着でゴールさせること」が調教師の使命ですから、馬の体調が悪ければ出走していなかったはずです(また、GⅠ8勝を挙げた際、一部のファンからは海外レース1勝を含めた8勝ということで真の記録ではないなどと言われていました)。

いろいろなことがありながらも、まさにタイトル通り“覚悟”が現れた調教師魂を見たように思います。

結果は、1番人気のアーモンドが見事勝ち、GⅠ9勝、生涯獲得賞金1位となって引退を迎えたのです(2着は2番人気のコントレイル、3着は3番人気のデアリングダクトと、実力通りの結果に)。

アーモンドアイ馬券

たかが馬に……と思う方もいると思いますが、私はアーモンドアイの最後の走り、そして有終の美に思わず涙しました。

そして、このアーモンドアイが母親になって、その子がまた最強馬の名乗りを上げる日を心待ちにする……。
まさに夢とロマンを乗せた物語こそが、競馬の楽しさなのです。

最後に、国枝氏の夢が書かれていました。
それはアーモンドアイが果たせなかった、世界の競馬の最高峰である“凱旋門賞”についてです(アーモンドアイがこのレースを断念した背景は本書に綴られています)。

「馬主、生産者、騎手、厩舎、調教師……すべてのホースマンガ夢見る“真の世界制覇”がそこにはある。叶うことなら現地に厩舎を開業してでも挑戦する価値があると思うが、現時点ではやはり日本からの挑戦という立場を貫きたい。
JRAの調教師の定年は70歳だ。
現在64歳の私に残された時間は少ない」

国枝氏、現在65歳。

夢はまだ、終わらない……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?