見出し画像

候補者の本音は「微表情」で読み解け

フォレスト出版の寺崎です。

「小池優勢」が予測され、いまいち盛り上がりに欠けた東京都知事選挙が終わりました。結果、小池さんの続投が決まったわけですが、つくづく思うのは、政治家にとって「言葉は武器」ということです。

小池知事はパフォーマンスがうまいと言われていますが、そのパフォーマンスに欠かせないのが「言葉」「ネーミング」「キャッチコピー」。

たとえば、小池さんが環境大臣のときに提唱したネーミングである「クールビズ(coolbiz)」。これってけっこう普通にいまも浸透してますよね。ノーネクタイ=クールビズ的な。

これと同じようなノリで小池発で人口に膾炙したのが、以下のトレンドワードたちでした。

3密
クラスター
オーバーシュート
ロックダウン

これらのフレーズを連呼してマスコミの話題をさらい、ネット住民の「なんで横文字?」のツッコみどころをかっさらっていったのが小池百合子知事でした。とにかく話題作りがうまい。

島国日本は「横文字という外圧」に弱いです。そのことを小池さんは熟知しているはずです。

「仕事のプライオリティは・・・」
「今日の会議のアジェンダは・・・」
「弊社が提案するビジネスのスキームは・・・」

こんな風に言うと、なんかカッコ良さそうですよね。英語が苦手な島国ニッポンのコンプレックスの表出といえます。

プライオリティは「優先順位」だし、アジェンダは「議題」だし、スキームは「枠組み」「しくみ」くらいな意味だとは思いますが、なぜか英語で言いたがるのは、民族的性質としか思えません。

政治家の言葉がわかりやすくなってきている

この手の「ワンフレーズ政治」で一世を風靡したのが小泉純一郎でした。

「自民党をぶっ壊す」と構造改革を訴えて、最大派閥の橋本派率いる元首相の橋本龍太郎を破ったのが小泉さんですが、郵政民営化をめぐって「反対する勢力は抵抗勢力だ」 とぶち上げたワンフレーズ選挙で勝ちます。

結果、総理大臣になったわけですが、現代の政商と呼ばれる竹中平蔵(現・パソナグループ取締役会長)と手を組んで、民営化を進めていきます。

かつて、大衆の心をグッとわし掴んで離さなかった田中角栄という政治家がいましたが、小泉純一郎はまた違った形で大衆のハートを掴みます。今回、都知事選に出馬して話題となった山本太郎しかり、平成以降の政治家の言葉がどんどんわかりやすくなってきている気がします。

ただ、これはいいことなのか、よくわかりません。「白か黒か」で切り分けることが難しい「グレーゾーン」をどう取り決めるかが政治の役割だと考えると、「これは白!」と言い切る人も怪しいし、「こっちが黒!」とはなかなか言えない世界なのではと思う部分もあります。

極北のわかりにくさ、竹下登の修辞学

昔の政治家はとにかくわかりにくかったです。

このような「政治家の言葉」をすこぶるおもしろく分析した本があります。いまでは手に入りにくい書籍ですが、文藝春秋から2007年に出ているユタ大学の東照二教授が書いた『言語学者が政治家を丸裸にする』という本です。社会言語学の観点から政治家の発言をバッサバッサと斬り込んでいます。丸裸にされる政治家は、小泉純一郎、安倍晋三、小沢一郎、鈴木善幸、竹下登、田中角栄、浅沼稲次郎、戦前の尾崎行雄や犬養毅……。

「言語明瞭、意味不明」と揶揄された竹下登は「わかりにくい言葉の使い手」の典型でした。

 ここでは、東京佐川急便スキャンダル(自民党の実力者である金丸信が、東京佐川急便から5億円を受け取っていたという事件)に関連して、1992年12月7日、参議院予算委員会で証人喚問をうけている際の当時の首相・竹下登のことばをみてみよう。竹下が総裁選立候補のあいさつに田中角栄邸を訪問すると決断した際に心の「葛藤」があったと以前に証言していたのだが、その「葛藤」について説明するよう求められ、答えているところである。

竹下:
 葛藤ということは、字引きで引いてみましたら、これはまさに相反する二つの意見が譲ることなく対立する状態と、こう書いてありますのでいささか文学的表現であったかなという反省もありますが、行くべきだ、行かなきゃならない、それをどういう日程に調整するかというまず第一義的なものにそれが条件ととられる誤解を生じやしないかなという不随したものが私の葛藤という言葉になったと、こういうことであります。
 したがって、葛藤という言葉は必ずしも文学的に適切でなかったというふうに思います。そして、懸念を持っておったかということにつきましては、最初お答えいたしましたとおり、もし私がこのような懸念というものがあれば総裁選挙に厚かましく立候補するようなことはしなかったということの事実が懸念がなかったということになりはしないかと、このように思います。

さっぱり意味がわかりませんね。この竹下登の答弁を著者は以下のように論じています。

竹下の答えは、否定形を3つも入れて『しなかったことということの事実が懸念がなかったということになりはしないか』というふうに、一見、格調高く、修辞的に凝らしたようにいっている。もちろん、意味はなんとなくわかるが、聞き手にとって少し混乱を招くような言い回しだといえるだろう。

もう一つ、竹下登のすごい話法があって、それが「渦巻き型スタイル」です。以下、お楽しみください。

次の例では、質問者が「記憶にない」ということばの意味をただしているところである。石井会長とは、暴力団稲川会の会長のことで、渡邊調書とは、東京佐川急便元社長渡邊氏に対しする調書のことである。

質問者(上田耕一郎):
 しかし、あなたは衆議院の証言で、10月5日夜の会談で石井会長の名は出なかったという問いに対して、記憶がないと答えた。否定じゃないんです。渡邊調書によれば、「私は三先生に」、竹下、金丸、小沢三氏のことです、「石井会長からの話を伝えた」とはっきりなっている。記憶がないという言い方は、石井会長の名をそのとき聞いたこともあり得るということになりますか。

竹下:
 実際、今難しい質問、尋問でございまして、記憶にないという言葉が議院証言法が昭和22年の12月できまして以来クローズアップしましたのは、このロッキード事件のときにクローズアップして、記憶にないというのは、その事実があったこともなかったことも含めてあるのかないのかという議論を何回もしたことがございますので、適当な言葉であるかどうか私も疑問に思いますが、この間は、覚えてないということは記憶にないということかというようなお尋ねでありましたので、記憶にないという言葉を、イメージとしては余り使いたくない言葉でございますが、使ったわけでございます。
 したがって、今の、上田さんと私が、記憶にないとは何ぞやという問題を尋問者と証言、証人という立場でなく議論すれば、これまた一つの論点になりますがこれについて今そういう立場にきょうはあるわけではございませんので、非常に難しいことだと、表現は、ということをお互いが認識したら一番いいなと思います。

この本では「所信表明演説、議会答弁、街頭演説、党首討論、はては記者のぶらさがり取材のテープまで収集し、分析しました」とのこと。政治家の文末表現(「と思います」「なのであります」「(体言止め)」など)を統計的に分析して論じてみたり、とにかく面白いです。

麻生太郎がトンデモ発言してもなぜか許されてしまうのは、発言の末尾に唐突に「〇〇〇〇だぜ?」をさしはさむ親近感にある、とか。

小池さんもこの本を読んで研究していたかもしれません。

「表情」「動作」で相手を見抜く技術

ところで、政治家にとって「発言」「言葉」以上に重要なコミュニケーションの要素があります。それは「表情」と「声」と「動作」です。もしかしたら「言葉」よりも内面がダダ洩れてしまうかもしれないのが「表情」「声」「動作」です。

みなさんは「微表情」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

微表情とは、「抑制された感情が無意識の内にフラッシュのごとく現れては消え去る微細な顔の動きのこと」です。『ライ・トゥ・ミー  嘘は真実を語る』というタイトルのアメリカの連続ドラマがあります。

このドラマは、微表情を読みとるエキスパートである主人公のカル・ライトマン博士が、犯罪容疑者の微表情を次々と読みとり、事件を解決に導いていきます。ドラマの内容は、実在するアメリカの心理学者ポール・エクマン博士の研究に基づき制作されています。

私たちは巧みに表情をコントロールして本音を隠そうとするのですが、微表情はそのコントロールのすきまを一瞬だけすり抜け、一瞬だけ本音を露呈させてしまうのです。顔に表情として表れている時間は0.2秒ほどで、注意していないと見抜くことはできません。しかし微表情を読みとくことができれば、相手の感情を明確にキャッチでき、本音をうかがい知ることができるのです。

万国共通の表情として考えられている微表情は全部で7種あるそうです。

①幸福
②軽蔑
③嫌悪
④怒り
⑤悲しみ
⑥恐怖
⑦驚き

この7つです。

さて、いきなりですが、クイズです。下の①〜④はそれぞれ何の表情を示しているか?上記の万国共通な7つの表情の中から特定してください。

画像1

【答え】
①驚き
→額全体に水平のしわが広がっているのがわかると思います。これは眉が引き上げられることによって形成されるしわです。しわが額の両端まで広がっている点に注意してみてください。

②恐怖
→額中央部に波型のしわが刻まれているのがわかると思います。これは眉が引き上げられ、同時に中央に引き寄せられるという動きによって形成されるしわです。驚きのしわとは異なり、しわが中央部にしかないのが特徴です。また通常、弓型の眉がカギ型をしています。これも恐怖表情の特徴です。

③悲しみ
→額中央部に山型のしわがあるのがわかると思います。これは眉の内側だけが引き上げられることによって形成されるしわです。通常、悲しみの場合、眉の形はハノ字になるのですが、このモデルのように眉がハノ字を形成しない場合があります。様々な特徴を手掛かりに表情を特定しましょう。

④怒り
→眉間にしわがあるのがわかると思います。これは眉が中央に寄りながら引き下げられるために形成されるしわです。眉は逆ハノ字の形をとります。

このように、おでこの表情だけでも、これだけのことがダダ洩れてしまうわけです。恐ろしいですね。

また、無意識にしてしまうかすかな動作にも真実はダダ洩れます。

 ある男性スポーツ選手がドーピングの容疑をかけられました。その選手はテレビのインタビュー番組に出演して身の潔白を訴えていました。そのときの選手と質問者とのやりとりは次のようなものでした。

質問者:あなたはステロイドや筋力増強剤を使いましたか?
選手 :いいえ。
質問者:そうした薬物を使いたいという誘惑にかられたことはありませんでしたか?
選手 :んーん、いいえ。

 言葉のやりとり自体はこうしたものでした。
 しかし、「いいえ」と答えている選手の顔の動きに注目すると、微表情やその他の顔の動きが起きていたのです。最初の「いいえ」のときの選手の顔には、左の口角だけが引き上げられる軽蔑の微表情が浮かびました。次の「いいえ」のときの選手の顔には、口の周りに力を入れた感情抑制の顔の動きが浮かびました。
 これらの微表情と顔の動きという情報から彼の心
を読んでみてください。
 彼は黒でしょうか。
 彼がドーピングをしたと断定できるでしょうか。
 答えは、「わからない」です。
 それはなぜでしょうか。
 彼の軽蔑の感情を解釈してみたいと思います。
 軽蔑という感情は、他者を道徳的に低く見ているときや優越感を主張したいときに生じます。
 彼はどうして軽蔑を感じたのでしょうか。主に2つの解釈があり得ると思います。

①自分はドーピングなどしていないのに、それを疑う質問者や世間を道徳的に低い存在として見なしている。
②自分はドーピングをしたけど、証拠が絶対に出てこない自信があるため、優越感を抱いている。

 いずれの解釈でも軽蔑の微表情が生じる可能性があります。注意すべきことは、2つの解釈が全く相反しているということです。こうした場合、微表情という情報だけからは、彼の心、つまり、ここでいう①もしくは②を決めることができないのです。
 それでは、どうしたら彼の本音に迫ることができるのでしょうか。
 ここで動作が感情解釈の大きな助けとなります。
 ずばり、彼が最初に「いいえ」と言ったとき、彼の首がわずかに縦に動いたのです。
 このわずかな身体の動きを微動作と言います。微動作とは「抑制された感情が『無意識』のうちに提示範囲外に表れる断片的な身体動作」のことを言います。提示範囲とは、アゴの下から腰の上を指します。私たちが通常ボディランゲージをする範囲だとされています。
 彼の身体はステロイドを使ったかという質問に対して「うなずき」で反応してしまったのです。
 このスポーツ選手のドーピング疑惑の結末がどうなったかと言いますと……黒でした。このインタビューの放映後、少し期間を置き、彼は自らドーピングしたことを認め、謝罪しました。

こうした「微表情」「声」「微動作」を見抜くためのテクニックをまとめたのが『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(清水建二・著)です。

顏としぐさ

この本を読めば、相手の0.2秒の一瞬に漏れる本音、真実を見抜くことができます。都知事選の立候補者たちの「本音」も、投票前に見抜くことができるかもしれません。

ところで、今回も投票率が低かったですね。投票率55・00%。前回の59・73%より4.73ポイント下回ることが報道されていました。雨が降っていたからでしょうか。

「選挙なんか行っても世の中変わらない」
「政治なんて誰がやってもおんなじ」

実は自分も20代前半ぐらいの頃はこんな風に思ってました。そんな当時の自分にURLリンクを送りたい動画をみつけたので、最後にシェアして筆を措きます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?