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海外ポスドクに応募してオファーを貰う可能性を高める3つか4つか5つの方法

本屋のビジネス書コーナーに行くと「20代・30代が成功するための3つの方法」というような本が多い。著者は3つ方法を挙げて成功するためのそれらしい理由を述べるが、それを読んだ私は「それは著者がやったらたまたま成功したというだけでは・・・ただの自分語りじゃないか!」と思って、本を閉じるのである。でもまた同じような本を手にとってしまうのが人間のさが

以下では、そんな本の著者と全く同じことをしようと思う。つまり、私が2020年に海外ポスドクのポジションに応募した際にやったことの中から3つないしは5つほど適当に書き並べ、それらしい「海外ポスドクになる方法」を自分語りも含めて書く。

可能性を高めるためにやっておくべき3つのこと

私は2021年1月から2022年12月まで、東スイスに位置するザンクトガレン大学のコンピュータサイエンス学科の暗号グループでポスドクとして研究生活を送った。それまで東京の研究機関で働いていたのだが、転職を思い立った理由については以下の記事に書いた。

ここでは、転職活動の際に採用の可能性を高めるためにやったほうが良いことを3つ記す:

その1. 応募すること

なにをふざけたことを!応募するのは当たり前じゃないか、と思われるかもしれない。しかし、以前の私がそうであったように、「海外留学したい」「英語の試験で高得点とりたい」と頭では思っていても、実際の行動がともなわないと欲しい結果は得られない。
野球では一流のバッターでも打率3割で褒められるのだそうだ。2000本安打を打って名球会に入るには?・・・そう、打席に多く立つことが大事になる。

ポスドクに応募しようと思っている研究者は、オファーを貰う確率を有意に操作することはできないかもしれない。しかし、打席に立つ回数は好きなだけ増やすことができる。三振すればするほど、ヒットやホームランに近づくんだと考えを改めよう。三振すればするほど、腕と心が鍛えられる

正確に書き直そう。「その1.応募すること」は正しくは「その1. (落ちることに喜びを感じながら)応募して応募して応募しまくる」である。

私は様々な海外の大学や研究機関に手当たり次第に応募した。2020年の夏前から転職活動を始め、自分の関連する分野での募集のある大学を20校選び出し、2ヶ月ほどの間にそのうち16校に応募書類を送った。オファーが得られなければその後も応募を続けて50校でも100校でも応募したと思うが、最終的には2校からオファーをいただくことができ、スイス生活を選んだ。

手当たりしだいに応募しては落とされる、ということを繰り返すメリットとしては、

  • 提出する書類のクオリティが徐々に上がっていく(の筋肉)

  • 落とされ慣れ、面接にも慣れる(の筋肉)

  • 自分の存在を知ってもらえる(+α)

ということだ。落とされてもあなたが悪いわけではない。結婚と同じで相性の問題なので、今回は相性が合わなかったと割り切って、次々と応募することが大事になる。面接に呼ばれたのに落とされたとしても、いい面接の練習になったと思うこと。何よりもまず、あなたという存在が応募書類や面接を通して世界の研究者の目に入ったというだけで儲けものではないだろうか。今後、国際会議などの場で出会うことがあるかもしれないし、共同研究が始まるきっかけになるかもしれない(心のどこかでそんなことなさそうと思っても、落とされた後にはこう思うことにする!)。

その2. 応募先の研究室から出ている論文を読む

【その1】を愚直に実行する中で、尊敬する先生のいるところや同じような研究をしているポスドクが多いグループ、つまり本当に行きたい研究室が分かってくる。その場合、より一層真剣に応募書類を準備するわけだが、そのときにやると良いのは、その研究室から出ている主要な論文を読んで自分に何が出来るかを書類に反映させることだ。

大学ごとに必要な応募書類は異なるが、大抵は

  • CV(履歴書やpublication record)

  • 研究計画書

  • モチベーションレター

  • 推薦書3通(または推薦者の名前)

が求められる。その中でも、研究計画書やモチベーションレターに、応募先の研究室に自分が何をもたらすことが出来るかを書くのだ。
具体的には、「○○という論文に使われているXXという手法は、私がいまやっているYYという研究に応用するとこうなったりああなったりする」ということを書き添えると、例えそれが的外れだとしても応募先の先生の目に止まりやすくなる。
実際に自分は研究計画書に上記のことを書いた上で、zoom面接まで進んだときにその研究室から出ている論文についての考えを述べた。その時の教授のリアクションが良かったので、このことが採用につながったと思っている。

その3. 面接では社交性スイッチをONにし、つまみを最大にする

普段日本で生活しているときは物静かであったり淡々と話す人でも、面接で英語を話すときは社交性スイッチを最大限にONにしたほうが良い。教授にとったら、採用すること=共に働く人を見つけることなので、この人に職場にいて欲しいなと思われたほうが得をする。なので、なるべく明るく話し、ネガティブなことを言わない、些細なことでもポジティブつまみを最大にして話すように心がけたい。

海外ポスドクに応募してくるのは英語圏の人や欧米での対人対応力に秀でた人ばかりだから、そういう多くの候補者の中で、日本にいるときのようにおとなしくしていたら、なんだか暗そうな人と思われてしまう。面接が始まってHow are you? と聞かれたら、自分の今のテンションの4倍くらい上のテンションで、べりーーーぐぅぅぅっっどぅぅぅぅ!と言ってみて欲しい。

わかります。これは恥ずかしい!できることならこんなことしたくない。しかし、英語圏の人のやりとりをつぶさに観察していると、彼らは普段から日本人がgoodと言うものにはgreatといい、日本人がgreatと言うものは声のトーンを4倍上げてワンダホー!!と言っている。つまり、我々日本人が聞くと、「随分誇張しているな」と思うような単語の選択とテンションの上げ様なのだ。なので、日本人の我々も英語で話す際は誇張して答えないといけない。

研究計画に自信がなくても、私がやらないと誰も解けないと思いますけど?という態度でいること。わかります、横柄に見えやしないかと思いますよね。でも、欧米の人にはこれが通常のことなので、そういう風にはとらえられません。

芝居というのは4倍誇張して演技してようやく舞台上で通常のやりとりのように見えるんだとか(「しばい」なだけに)。英語での面接も同じと心得ましょう。日本人同士でのやりとりの4倍高めのテンションで臨もう!

採用されてから、思う存分に大人しくしていればいいのです。

3つに収まらなかったのでもう2つ

方法が3つあります!と言っておきながら、実はまだまだたくさんあるパターン。あと2つだけ!
やったほうが良いこと以上に、これをやってしまうと印象が悪いからやらないほうがいいということにも気をつけたほうが良いかもしれない。また、転職活動で精神をすり減らされるので、別の道を準備しておくのは大切なことだと思う。少し説明を加えよう:

おまけ1. これをやってはいけない

私はスイスでポスドクをしているときに、暗号グループに応募してくるポスドクや博士課程の学生の応募書類に目を通し、10人以上の候補者の面接にも参加した。
そこで経験した、これをやってはいけない!ということを思いつくままに書く。

  • 様々な大学に応募書類を送るからといって、大学名と教授名だけコピペして変換した書類を送ってはいけない。ひどい書類では、そこだけフォントが違ってるものがあった。メールでも、リッチテキスト形式を使っている人は要注意。教授の名前だけフォントが変わっていませんか?要チェック!(上に書いた「その2」も試してみよう)

  • 自分のことをあまり知らない人に推薦書を頼んではいけない。熱意のない推薦書はないのと同じか応募者にネガティブな印象さえ与える。一方で、熱意のこもった推薦書は応募者の印象をポジティブにすることがある。数人の候補がいた場合、こうした熱意のある推薦書を持っている人が一抜けするかもしれない

  • 応募書類を指定された言語(英語など)以外で提出するのはやってはいけない。成績表などはこの限りではないけれど。

おまけ2. 背水の陣を敷かない

2020年に私がスイスへポスドクを決めたときには、決まらなかったとしても少なくともあと一年間は東京の研究機関で働く契約が残っていたし、その後、予算の関係でさらに2年間は働ける環境だった。なので、転職活動がうまくいかなくても生活はできる、と心の片隅で思いながら転職活動ができた。
また、具体的に書くことは避けるが、今回のデンマークへの転職活動をした2022年にも似たようなバックアッププランを持って臨んだ。応募しては落とされてを繰り返すと精神がすり減っていくが、自分にはプランBがあるという余裕はそのすり減った精神を幾分かは守ってくれる。

世間では、背水の陣を敷くとか退路を絶つということが良いことかのように言う人もいるが、ポスドクの転職活動においてはそれは悪手だ。バックアッププランは必ず用意しておくこと。
用意したバックアッププラン、それが国内のポスドクなのか研究職以外の職なのかはともかく、もし転職活動がうまく行かなくても自分はこうやって生活していこうという計画を持っておくことが大切だ。

まとめ

以上、3900文字に渡って書いてきたことをまとめると、

  1. 落ちるのは当たり前と思ってひたすら応募する。応募して落とされながら腕と心を磨け

  2. 応募先に合わせて応募書類を適応的に書く。提案する研究を研究室の既出の研究結果に関連させよ

  3. 面接ではとにかく明るく、大げさに。日本人はそうしてようやく他の候補者たちと同じレベルで社交的に見える

  4. コピペで一斉送信は厳禁。書類は一度、全選択してフォントを統一しておこう

  5. プランBを持って精神的な余裕を確保する。「逃げ道」ではなく「バックアッププラン」だ

あら不思議。200文字で書けてしまいました。
是非、これを読んだ人の中から海外でのポスドクポジションに応募して、今まで見たことのない新しい景色を見る人が現れて欲しい。

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