Minato

純文学を読むのがライフワークのようなものです。読書好きの方の書評を読むのが大好きなので…

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純文学を読むのがライフワークのようなものです。読書好きの方の書評を読むのが大好きなので、私の落書きのようなものも、誰かの読書人生を少しでも豊かにすることがあればうれしいです。

最近の記事

アーサー王文献(6)クレティアン・ド・トロワ「獅子の騎士」

(5)のマーリン本以外にも、アーサー王周辺のキャラクターを主役にした本があることを発見し、いくつか読んだ中の一冊。 この本の主人公はイヴァンという人物なのですが、アーサー王の甥にあたる騎士です。具体的には、アーサーの母イグレーヌが、前夫ゴーロイスとの間に産んだ三人姉妹の末娘、モルガンの息子…ややこしい。 ちなみに、アーサー王はさまざまな言語で書かれていることもあり、カタカナの人物表記がいろいろあるんですよね…。この本はクレティアン・ド・トロワというフランス人が書いているの

    • アーサー王文献(5)「西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン」

      アーサー王物語について詳しくない人でも、「魔術師マーリン」の名前はなんとなく聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。私もなんとなく昔から聞き覚えがあり、また、昨今のアーサー王物語をモチーフにしたキャラクターが登場するゲームの影響で、Twitterのトレンドに突然その名が登場するところを目にしたことなどがあります。 それほど有名人物であれば、アーサー王物語を読めばさぞかし華々しい活躍がみっちりと描かれているのだろうと思っていたのですが、「アーサー王の死」やサトクリフ3部

      • アーサー王文献(4)創元社「アーサー王伝説」

        これまでずっと文字ばかり読んできた私は、そろそろアーサー王関連の美術に触れたくて仕方がなくなっていた。もともとが美術館で絵画を見ていた時に興味を持ったアーサー王物語なので、その世界を目でも堪能したくなったのだ。 そんな時、ビジュアルが豊富に載っていそうな本を探して見つけたのが、この創元社の「アーサー王伝説」。アンヌ・ベルトゥロというフランスの研究者が書いた本らしいが、なんとフルカラー! ページすべてにアーサー王関連の絵画や史跡の写真が載っており、まさにこれを探していた~とあ

        • アーサー王文献(3)ローズマリ・サトクリフ「アーサー王と円卓の騎士」

          そしてついに、ローズマリ・サトクリフに辿り着く。今までのマロリー版、ノウルズ版とはまったく別物の、ロマンチックで華やかな世界に感銘を受けて、この作品がさらにアーサー沼に引き込むきっかけになったのは間違いない。 このシリーズは3冊組で、もちろんすべて読んだのだが、本当に物語として流れるように読み進められるし、キャラクターの個性が際立っていて魅力的だ。 ただし、初心者の方にこの作品を最もお勧めするかと言われれば、個人的にはそうでもない。私が偶然にも、マロリー→ノウルズ→サトク

        アーサー王文献(6)クレティアン・ド・トロワ「獅子の騎士」

        • アーサー王文献(5)「西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン」

        • アーサー王文献(4)創元社「アーサー王伝説」

        • アーサー王文献(3)ローズマリ・サトクリフ「アーサー王と円卓の騎士」

          アーサー王文献(2)ノウルズ版「アーサー王物語」

          「アーサー王の死」から始まった私のアーサー沼だったが、次に手にとったのは、ジェイムズ・ノウルズによる「アーサー王物語」だった。 この作品を紹介してくれたのは友人だったと思うが、「アーサー王物語というものは、「アーサー王の死」のマロリー以外にもいろんな人が書いている」という話を聞いて、単純に興味が出て読み比べをしてみようという気になった。 そして悟ったのだが(そして、この後もいろんな人の作品を読んでさらにその気持ちが深まるのだが)、本当に書く人・編集する人によって、物語の切

          アーサー王文献(2)ノウルズ版「アーサー王物語」

          アーサー王文献(1)「アーサー王の死」

          正直なところ、「アーサー王物語」なるものがあるらしいという程度の認識はあったが、きちんとしたものを読んだことはなかった。 うっすら興味を持ったのは、2019年に三菱一号館美術館で開催されていた「ラファエル前派の軌跡展」を観に行った時だったように思う。ビアズリーら有名な画家がアーサー王伝説のシーンを絵画に描いていたのを見て、絵はすばらしいのだけど「この物語を知っていたらもっと面白いのにな...」と思ったものだった。 それから約2年経ち、いつも一緒に読書会をしている友人が課題

          アーサー王文献(1)「アーサー王の死」

          ドメニコ・スタルノーネ「靴ひも」ー私たちは、人生に何を望むべきかを決して知りえない

          2019年に翻訳版が出版されてすぐ読んだ作品だったが、知らないうちに本国イタリアで映画化されており、先日イタリア映画祭でオンライン視聴をすることができた。 本で読んでいた時は、家族の生々しい衝突や苦しみを描いている作品であるものの、わりと淡々としていてカラっとした印象だった記憶があるが、映画版は感情がもっとダイレクトに伝わってきて、正直、ただただ観るのがキツかった。しかし、代わりといってはなんだが、原作だと淡々としているが故に見落としていた細かい仕掛けのようなものが映画だと

          ドメニコ・スタルノーネ「靴ひも」ー私たちは、人生に何を望むべきかを決して知りえない

          クレア・キーガン「別れの贈りもの」(「青い野を歩く」収録)-何気ない日々の延長からふっと切り離される瞬間

          実家に帰省した時、母が図書館で借りてきてくれていた本で、気に入って自分でも買い求めた一冊である。(母は私の趣味を分かってくれていて、帰省に合わせてよく素敵な本を見繕って借りてくれている。ありがたい) 作家はアイルランド出身の方で、この短編集が2作目らしく、日本ではおそらくこの作品しか出版されていないはず。早く次の作品が読みたい・・・。 8つの作品が収録されているこの短編集の、最初が「別れの贈りもの」だ。 この短い作品を読んだ読者は、著者がどんな作家なのかすぐ分かるだろう

          クレア・キーガン「別れの贈りもの」(「青い野を歩く」収録)-何気ない日々の延長からふっと切り離される瞬間

          アリス・マンロー「発作」(「愛の深まり」収録)-平穏な日常という幻想

          アリス・マンローはお気に入りの作家だが、一つ一つの作品がとても噛みごたえがあるため、なかなか一気に読めない。 短編集を少しずつ読み進め、反芻し、悶々と考え、また読み返し・・・というように、ずっと口の中でもぐもぐしながら少しずつ自分の中で理解を深めていくという感じがする。 マンローという作家はいつも、現実を切り取る目線があまりに鋭く、描写の解像度が高すぎるため、消化するのに時間がかかるのだ。 この短編集「愛の深まり」に、「発作」という短編が収録されている。 彼女の作品は

          アリス・マンロー「発作」(「愛の深まり」収録)-平穏な日常という幻想

          生きるための読書について

          通勤途中に乗っている電車で、よくベストセラー小説の広告を見かけます。 胸を揺さぶられる、感動する、泣ける、涙が止まらない・・・。 そんなワードが大きく記載されていることが多いですが、自分はずっと、「読書」という言葉に、「感動」「泣ける」という言葉がなかなか結びつかないのです。 あと、スリラー小説でよくある、「驚異のどんでん返し」「あなたは二度驚く」というような、「驚きの体験」を期待させる煽り文句。 こういうのも、なかなかピンとくることがありません。 本屋の平積みの売

          生きるための読書について