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アーサー王文献(6)クレティアン・ド・トロワ「獅子の騎士」

(5)のマーリン本以外にも、アーサー王周辺のキャラクターを主役にした本があることを発見し、いくつか読んだ中の一冊。

この本の主人公はイヴァンという人物なのですが、アーサー王の甥にあたる騎士です。具体的には、アーサーの母イグレーヌが、前夫ゴーロイスとの間に産んだ三人姉妹の末娘、モルガンの息子…ややこしい。

ちなみに、アーサー王はさまざまな言語で書かれていることもあり、カタカナの人物表記がいろいろあるんですよね…。この本はクレティアン・ド・トロワというフランス人が書いているのですが、「イヴァン」という人物は、別の書籍だと「イウェイン」「ユーウェイン」などと記載されていることもあり、私はずっと「イウェイン」と「イヴァン」が結びつかず、まったく別の人物だと勘違いして読了したのでした。よくあること…。

この物語は、とある美しい泉を非常に強い騎士が守っているという話があり、その騎士に挑んで負かされてしまったという従兄弟の仇討ちをするため、イヴァンが冒険に出るというところから始まります。

イヴァンは見事騎士を打ち負かし、相手の騎士は命を落とすのですが、イヴァンはその騎士の妻ローディーヌに激しく恋をしてしまいます。その後、妻の侍女のアシストもあり、見事結婚にこぎつけるのですが…。というようなストーリーです。夫を亡くして取り乱し、泣き崩れる美貌の妻に恋をするという場面はなかなか倒錯的です。

ちなみにこの話で個人的に興味深かったのは、このイヴァンが主人公の物語をアーサー王物語のスピンアウトであるとすれば、本筋の方の物語で起きる、とある大事件と同時並行で起きていたという時系列が明記されている点です。その事件は、アーサー王の妻グウィネヴィアが、彼女を愛するメリアグランスという騎士によって略奪されるという事件なのですが、その事件を解決するためにガウェインを始めとする騎士たちが出払っており、そのおかげでイヴァンはトラブルに巻き込まれてしまうという構成になっています。

アーサー王の物語はさまざまな人が記しているため、時系列は曖昧になることが多いため、このように並行して起きる出来事が関連しているという作りは珍しく、またこの物語の深さに魅力を感じるきっかけにもなったのでした。

物語自体も面白いのですが、このような理由もあり、ある程度アーサー王物語の世界を楽しんだ方におすすめの一冊です。

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