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マネジメントと戦術と 〜グループステージの日本代表でおしゃべり〜

カタールW杯を戦う日本代表のグループステージについて、サンフレッチェ時代からお世話になっていたライター・寺田弘幸さんとおしゃべりしました。

今回の日本代表に対して、私はどっちかというと戦術そのものよりも、チームが戦術を遂行する上でのベースとなるマネジメントに注目して見ているので、どっちがライターでどっちがアナリストかよく分からない話にもなりました笑。

今夜のクロアチア戦に向けて、お楽しみいただけるとうれしいです。

グループステージ3試合を振り返って


久永 「グループステージ3試合を通して振り返って話していきたいんですけど、寺田さんはどういうふうに見てました?

寺田 「僕はもう純粋に応援していたし、ただただグループステージの突破はすごいな、と。どういうことが起こっているかをしっかりと理解するというよりも、楽しんでました」

久永 「僕は森保さんと一緒にやってたから、どういう現象が起きているのか、どういうマネジメントをしているのかを考えてみていたけど、森保さんのチームのポジティブな部分とそうでない部分が出た3試合だったかなと思ったんです」

寺田 「僕もドイツ戦に勝った後にいろいろ理由を考えたすけど、なんか森保さんらしい勝利だなって感じた部分もありましたね」

久永 「それってどういう部分?」

寺田 「まず失点が早かったですけど、それでも崩れなかったところ。それと交代選手が活躍するところ。主にこの2点ですね」

久永 「崩れないっていうと?」

寺田 「焦ったりして、選手がバラバラになっている感じはなかったなと」

久永 「なるほど。交代選手が活躍する、出場した選手が活躍するっていうのは確かにありますね。森保さん、その辺やっぱりうまいなと思う」

寺田 「僕の森保さんの時代の最強のチームは、もう久永さんはおられなかったですけど、2015年のチャンピオンシップの試合のときなんです。あのときのチームは本当に強かったから、あのときのサンフレッチェのようなチーム状態でワールドカップに臨めれば勝てるんじゃないかなと思っていたんすけど、今の日本代表はあのときのサンフレッチェに似ているところがあるなとも感じるんです。何が起こっても崩れない強さとか、交代選手が活躍する一体感とか、そういうところが」

久永 「そういうことね。僕はそのときは外から見ていたけど、確かに森保さんのマネジメントという意味では、あのときと似てるんだろうなって思いますね。でも正直ね、ドイツ戦の前半を見ていてやべえなと思ってたんですよ。始めはけっこう選手の配置や相手との嚙み合わせとか、戦術的な視点でも試合を見ていたんだけど、前半は明らかに日本の右サイドがやられていた。ドイツの左SBのラウムが高いポジションを取って3バックっぽくして攻めてきたけど、あれは4バックの相手を崩す定石みたいな戦い方。5レーンにポジション取ったら崩れるっていうのはすぐに分かることで、戦術を理解している人が見ていると、失点するのは時間の問題だと思っていたと思う。」

寺田 「PKでの失点も完全に立ち位置で崩されたような感じがありましたし、それ以降もかなりピンチがありましたね」

久永 「僕、2失点目をする可能性がかなり高いと思っていて、これはヤバいと見ていたけど、試合後に選手が『0-1だったらOKだと思っていた』と言っていて、すげえなと。僕が持ってる基準と、今の代表で森保さんと選手たちが持ってる基準が違うのかなと思ったんですよね。僕はもうあそこまでアタッキングサードに入られて、ああいう崩され方したら、どんどん失点しちゃうと思っていたけど、最後のところで体を張ってやれば大丈夫。0-1でいけばいい。そういうことを共有できていたんだと思うし、ヤバいっていう基準がちょっと違うのかな?」

寺田 「森保さんは相手へのリスペクトがすごくありますよね。おそらくですけど、ドイツに対してもそれはすごくあったと思うんです。だから、ドイツ戦はあれくらいやられることも監督と選手たちで想定できていたんじゃないですか」

久永 「それはある思うけど、2失点目が入らなかったから良かったっていう結果論で言えそうなこともありますよね。前半終了間際にオフサイドで取り消されたゴールがあったけど、あれも完全にやられた形だったけど、あそこまやられてても最後のところで守ればOKって思える森保さんのマネジメントというか、選手たちに『最後のところで守ればOK』『俺たちはまだいける』って思わせられるところがすごいなと思ったんですよね」

寺田 「後半は配置を変えて戦術的にも改善されたんだと思いますけど、選手たちが勇敢になっていた。そこがすごいなと思いましたね」

久永 「ただ、90分通して考えて最後の方で日本が有利に立てる自信はあったのかなと思うんですよね。サンフレッチェのときもそうじゃないですか。良いパフォーマンスじゃなくても、失点さえしなければどこかで点を取って勝てるっていう自信をもってみんなでサッカーしていたけど、その辺の選手の気持ちの持たせ方がうまいなと思うんですよね。監督が実際にそう思っていたから、選手にもそれが伝わってたのかなと思うんですけど、前半にあそこまでやられても慌てずに耐えられる監督がすごいなと。もう1点取られていたらワールドカップが終わってる可能性もあったと思うんで」

寺田 「2失点目をしたら、チームもさすがにバラバラになっていたかもしれないですし」

久永 「そうそう。だから僕が言いたいのは、戦術云々っていうのも、ピッチの上で選手たちがどうプレーして勝利をつかみ取るか。それを実現するための方法の1つの部分でしかないから、今回の日本代表を戦術からだけで見ていたら、まったく本質がつかめないだろうなと思うんです。どう選手にアプローチするか。チーム全体をどうマネジメントするか。そういう観点からも見ないと理解はできないと思うんですよね」

クロアチア戦に向けて


寺田 「今晩はクロアチア戦です。この大一番を久永さんはどういう視点で見られるんですか?」

久永 「今の日本代表は最初は様子を見ながらやると思うんですよ。なので、森保さんの頭の中と選手の頭の中を僕は想像しながら見ようと思っています。その瞬間の状況を選手がどう捉えながらやっているのか。それに対して森保さんはどういうアプローチをするのか。試合で起こっている戦術的なところも踏まえつつ、森保さんと選手たちの関係性も想像しながら、どうやってクロアチアに挑んでいくのか見たいと思っていますね」

寺田 「一方的な試合になることはイメージしにくいですよね。ブラジルのような、それぞれの局面で圧倒的に負けちゃうことが多くなる相手、選手の対応力だけじゃ対応し切れない相手だと、きちっと戦術的にも対応していかないと厳しい試合になると思いますけど、クロアチア戦でそういう現象が起こるほどの試合にはならないと思うんで、僕はある程度やれると思いますし、0-0でいければ後半は優勢な展開に持ち込めるんじゃないですかね」

久永 「そうでしょうね」

寺田 「でも、だから逆に難しいのかなとも思います。ポゼッション率が20%になるほどの試合展開にはならないと思うんです。30から40%くらい、クロアチアの出方次第では50%ぐらいになる可能性も十分にあると思うんで、そうなるとアタッキングゾーンに入れる回数は増えるでしょうけど、逆に決定的なピンチの数も増えそうですよね」

久永 「ボールを持って攻めていけば、ピンチも増えるでしょうね。クロアチアはそういう戦い方をしてくる可能性も高い気がします」

寺田 「じゃあ、日本がボールを持とうと思えば持てるのに、ボールを持つことを放棄するのか。どこから奪いに行くのか。そこの戦略がクロアチア戦の最初の見どころですよね」

久永 「めっちゃアナリストみたいな見方ですね(笑) 僕は今回はそっちよりも、マネジメント面の方に目がいくんですよ」

寺田 「僕はクロアチア戦もあんまり深いことを考えずに純粋に応援しようと思いますけど、アルゼンチンとオーストラリアの試合を見ていて、ボールを持つことが良いことなのか悪いことなのか。そこら辺がすごく難しいなと思いましたね」

久永 「そうですね」

寺田 「前半のアルゼンチンは圧倒的にボールを持ってたんですよ。でも、オーストラリアは慌てることなく守っていた。4-4-2でしっかりとスペースを消して守れていたんで、これを崩すのは難しいなと。ボールを持っていないオーストラリアの方が試合をコントロールしているように感じたし、アルゼンチンはボールを持つことを放棄して縦に速く攻めた方がメッシの脅威を最大化できるんじゃないかと思いながら見てたんですけど、セットプレー崩れでメッシにチャンスが来て先制して見せたんですよね。ボールを持って敵陣でプレーしていれば、偶発的な形でもメッシにチャンスが来る可能性がある。だからボールを持っていることの意味はあったなと思ったんです」

久永 「なるほどね」

寺田 「それで後半、オーストラリアはビルドアップしてボールを持つことにもトライするようになったし、プレスの位置も高くした。負けているから当然の戦略ですけど、GKからつなごうとして奪われて0-2にされてしまった。ボールを持つことのデメリットが出てしまったんですよね。もし前半の戦い方を継続して0-1のまま試合を進めていたら、試合終盤に追い付けたかもしれない。実際にシュートが相手にあたって1-2までは持っていけたんで」

久永 「だから、クロアチア戦もスコアが動いたときにどうするかは大事ですよね。今回、日本はまだ1試合も先制できていないんで、先制した後に選手たちと監督がどういう共通認識をもって試合を進めていくのかも大事ですし」

寺田 「スコアが動いたあとは楽しみです。1発勝負なんで、点を取られたら取り返さないといけない。なのでグループステージよりも絶対に早く仕掛けていかないといけなくなるし、先制された後にアタッカーに我慢をさせるのは難しいでしょう」

久永 「そこら辺を1つにできるかですよね。延長もあるから、また森保さんの考え方も変わってくるんだろうし」

寺田 「森保さんは延長OKで入るんじゃないですか。最初から延長も頭に入れて、0-0は全然悪くない。0-1でも1点取れば延長があるっていうイメージをもって挑むんじゃないですかね」

久永 「でしょうね。だから、立ち上がりからガンガン出ていくイメージはないかな」

寺田 「前半は動きが少ない展開になる可能性は高いですよね」

久永 「そうすると、眠くなっちゃうじゃん?(笑)24時キックオフだからみんな寝ちゃいますよ」

寺田 「森保さんのサッカーは決して面白いサッカーではないですよ(笑)」

久永 「試合が始まってから、選手の肌感覚を大事にしながら戦っていくことになるんでしょうね」

寺田 「クロアチアもモドリッチをはじめ経験のある選手が要所にいますから、0-0はOKで試合を進めてくる気がしますし、守備は堅いのでリードしたらバタバタせずに1-0で逃げ切ってきそう。技術の高い選手も多いから、ボールをうまく持ちながら逃げ切られそうな気がします」

久永 「先制されるときついでしょうね」

寺田 「だと思いますけど、ドイツにもスペインにも逆転勝ちしているチームですから、日本が逆転勝ちしても驚くことはないです」



クロアチアとどう戦うのか、選手が力を発揮するために森保監督がどうマネジメントするのか、楽しみです!

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