#19 “らんまん“と、あいみょんが奏でる三拍子のギターストロークの話
最終回を迎えた”らんまん”
いやあ、とうとう完結してしまいましたね。もちろんそうです、朝ドラことNHK朝の連続テレビ小説、2023年4月から6ヶ月にわたって放送されていた、”らんまん”がおととい最終回を迎えました。特に毎回朝ドラを必ず観てます、とかそういう感じでもないんですけど、植物学者の牧野富太郎とそのパートナーの寿衛子をモデルに描かれた今回の”らんまん”、気づいたら最終回までフルで観ていました。
そもそも、日本の中で大きな変化が起きて、それに伴っていろんな人物や出来事が起きた明治〜大正〜昭和初期をテーマにして描かれた物語が、ドラマでも小説でも元々好きってのがあるので、全く何の後ろ盾もなく、過去の前例もないような偉業をイチから成し遂げていった牧野富太郎を描いた今回の”らんまん”も、当然大好物な感じなんですが、それにも増してこのドラマを観続けた理由の一つ、ってもう言い切ってしまいたくなるのが、主題歌であるあいみょんの”愛の花”の存在だった、ってこと、それを割と、声を大にして言いたい気分で。
大らかな性格の植物学者がテーマのドラマに合わせて、花や空といった自然をモチーフにした歌詞が、シンプルながらなんとも壮大で美しい三拍子のアコギのストロークに乗せられて、軽やかに朝のテレビからリビングで鳴る、その幸せったらなかったんですよ本当に。
NHK朝の連続テレビ小説と主題歌
NHKの朝ドラ、これまでも印象的な主題歌っていくつかあって、多分ミュージシャンの皆さんもキャリアの中でそう多くはないであろうその機会に、普段とはちょっと違った側面を見せてくれたり、1分とちょっとだけだけど毎朝流れる、っていう割と特殊なフォーマットの中で、多彩な工夫や趣向を凝らした名曲が生まれてると思うんです。
なんといってもまず思い出すのはスピッツの”優しいあの子”。東映アニメーションをモチーフにした、広瀬すずさん主演の”なつぞら”の主題歌だったこの曲、ちょっと裏ノリが効いた軽やかな2ビートで始まって、コーラス、いわゆるサビに行く瞬間にいきなりちょっとスローになる、不思議な構成がなんだか印象的で、だけど気づいたら”あー、スピッツだよなぁ”とも思わせてくれる名曲なんですよね。
それからこの、滋賀県を舞台に、陶芸がモチーフになった”スカーレット”の主題歌だったSuperflyの”フレア”。Superflyって割と、大文字のロックサウンドに乗せてパワフルなヴォーカルをガツンと、みたいなイメージがあって、何ならちょっと苦手だったりもしたんですが、すごくいい意味で裏切られたのがこの曲で。軽やかだけどすごいパーカッシブで印象的なリズムを響かせているヴァースを経て、コーラスに行く瞬間からビートがちょっとセカンドラインっぽくなる感じ、そして普段のパワフルなイメージとはちょっと違う、伸びやかなのにちょっと繊細なフィーリングのヴォーカリゼーション。いやー、この曲まじ大好き。
あとはこの、永野芽郁さん主演の”半分、青い”の主題歌だった星野源の”アイデア”。北川悦吏子さん脚本の”半分、青い”、特に漫画家を目指した前半部分が最高の青春映画みたいな感じで今も好きなんですけど、この”アイデア”は、最近の星野源のトレードマークにもなってる、ちょっと性急なビート感と木琴のリフが印象的な曲なんですけど、これ、ドラマでは1コーラスしか流れないので気づかない仕掛けがされていて、2コーラス目でいきなりSTUTSが現れてビートが全く別のものになるっていう、朝ドラのフォーマットをちょっと逆手に取ったみたいな面白い作りになってる、まさに”アイデア”な曲なんです。
”愛の花”と三拍子のリズム
ということで、このあいみょんの”愛の花”が特にいいなぁ、印象的だなぁ、と思ったのが、三拍子のアコースティックギターのストロークがとっても効いてるってところで。あいみょんの音楽って、どちらかといえば歌詞やメロディとフックが印象的な、”歌を聴く音楽”って感じがしていて(もちろんそれが悪とかじゃないんですけど)、そのかわりリズムやビートは割とシンプルな感じになっていて、そこが個人的にはちょっと物足りない感じだったんですよ、この曲を聴くまでは。
普段聴いている音楽のほとんどは、いわゆる4や8、16のビートがベースになってるんですけど、この”愛の花”、それとはちょっと違う、割とゆったりした三拍子のリズムが素晴らしくて、花や植物、自然をモチーフにしたこのドラマに無茶苦茶ピッタリで、個人的にも初めてあいみょんの曲の”リズム”が印象に残った曲です。
オリジナルバージョンももちろんいいんですけど、公式で公開されている、このアコースティックバージョンがその魅力をより伝えてくれるのでこちらを。
三拍子について語りたい
三拍子のリズムって昔からあって、クラシックの分野ではよく使われてるものと言われてるんですけど、特にワルツ曲でよく知られてるってことで。あの、”ズン・チャ・チャ”っていうやつですよね。チャイコフスキーの”くるみ割り人形”、誰でも聴いたことある、The 三拍子のワルツをまずは聴いてみましょう。
ポップミュージックの世界でも、三拍子の曲ってもちろん色々あって。日本の歌謡曲なんかでも”ああ、この曲もそうやったなぁ”みたいなものたくさんあるんですけど、元々クラシックやジャズの中でよく使われてきたパターンであることもあって、そうしたバックグラウンドを持ったミュージシャンの名曲がやっぱり印象的で。例えばジャズをルーツにシーンど真ん中に登場したノラジョーンズの2曲目のシングルだったこの曲とか。
みんな大好き、日本で歴代最多動員数を誇る、あのジブリ映画のテーマソングも、そういえばクラシカルな三拍子ですよね。
三拍子を初めて意識したロックバンドの曲
クラシックやジャズを幼少期から叩き込まれたわけでもないただの学生だった自分が、初めて普段聞いてる曲とリズムパターンが違う、ってことで印象に残ってる三拍子の曲が2曲あって、しかも両方ともアメリカのロックバンドの曲なんですよ。
いやぁ、久々に聴いたらやっぱエエ曲ですねぇ。グーグードールズ屈指の名曲、確か映画のサントラか何かだったと思うんですけど、ラジオから流れてきたこの曲にガツンと食らった記憶があります。サウンドはロックですけど、ちょっと壮大で後半に向かって盛り上がってく感じに三拍子がピッタリ、お手本みたいな曲ですね。
そして2曲目はWeezerのこの曲。言わずもがなの1stアルバム、いわゆる青盤の1曲目に収められているこの”My Name Is Jonas”。いやぁ、もう何回聞いたかわからないこのアルバム、Weezerのキャリアで最初のアルバムの、しかも1曲目が三拍子なんですよねぇ。アコギのアルペジオから一転、ヘビーなギターをかき鳴らしながら後半に向かってエモーショナルになってく感じ、これも三拍子のリズムの理想的な使い方でしょうか。
三拍子の名曲
…とまあ、”らんまん”とあいみょんの話から大幅に脱線しながら、長々とまた書いてしまっているんですが、最後にどうしても届けたい、三拍子の名曲を紹介しておきたいなと。
一曲目は、京都が産んだデュオ、キセルきっての名曲”ビューティフルデイ”を。ああ、忙しい日々が続いたり、ちょっと気持ちがダウンしたり、そんな時に何度も聴いてきたこの曲、壮大というよりは日常、って感じなんですけど、声とサウンドとリズムがもう完璧で。大きなヒットとかはあまりないかもしれないんですが、淡々と、ゆっくりと、だけどしっかりとキャリアを重ねている印象のキセルのライブを、雨のなか初めて体験した2019年の苗場のフィールドオブヘブンでのライブバージョンを。
で、2曲目はくるりです。毎回書いてる気がするんですけど、くるりってキャリアを通じてほんっとにいろんな音楽を吸収しながら、新しいチャレンジを続けてる偉大なバンドだと常々思ってるんですけど(繰り返しますが、大事なことなので何度でも言います)、そのくるりがクラシック音楽に接近し、何ならウィーンまで行って録音されたアルバムである”ワルツを踊れ/Tanz Walzer"に収められた、こちらも屈指の名曲”ブレーメン”。当時やっていた、交響楽団を招いてのライブ映像が公式で公開されてるんですが、それがもう、なんか1曲の中でいろんな感情が押し寄せてきて、最後はなんか涙を目に溜めながら走り出したくなるような、素晴らしすぎる仕上がりですので最後まで必ず観てください。そしてこれが”最高やんけ!”と思ってくださった方は、その頃のライブが音源化されているライブアルバム、”Philharmonic or Die”を必ず聴いてください。
朝ドラと音楽
まあとにかく、あいみょんの”愛の花”って曲が素晴らしくて、毎朝リビングで聴いては幸せな気持ちになってた、ってことだけ言いたかったはずなのに、いつもの悪い癖で長々と書いてしまいましたが、最後までお付き合いいただいた方は本当にありがとうございます。NHKの朝ドラ、これまでにもジャズがテーマの”カムカムエブリバディ”とか作曲家の古関裕而をモデルにした”エール”とか、何ならまた次は笠置シヅ子をモデルにした”ブギウギ”だったり、主題歌も含めて音楽との関わりも何かと多くって、今後もどんな作品が、音楽が、日本の朝を彩ってくれるのか、楽しみにしたいですね。
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