フードスコーレ不定期連載『食の未来仮説』#006 健康維持のためのミスド(書き手:平井萌)
どうしてもドーナツの朝
4月下旬のある朝、事は起こりました。
「全身がドーナツを欲している...」
日当たりが良すぎる寝室で朝6時にぱちっと目を覚ましたわたしは一年に数回しかないドーナツウェーブに巻き込まれていました。
こうなってしまうと、浮き輪のようにドーナツがからだにすぽっとはまってしまい、離れてくれません。
はてはて困ったな、と最寄りのミスタードーナツをスマホで検索していると、恋人もむくりと起きました。
今住んでいるところの最寄り駅にはミスドがありません。
調べた結果見つかったのは、かろうじて2km圏内に2件。
まだ外出は控えるように言われているけれど、「健康維持のための散歩」は推奨されています。徒歩で行けばいいかしら......
ミスドまで、歩けばちょうど30分。
早朝に行けば人もそんなにいないだろうし、などと色々言い訳を見つけて結局行くことにしました。
一度も行ったことないまちまで行く道は、一度も通ったことのない道ばかりです。
へえ、こんなお花が咲いてるんだ。道の幅が広いなあ。
すれ違う女の人と小学生くらいの女の子が話していたり、まちの人がみんなマスクをしていたり。
日常があって、でもこの状況がどこまでも、こんな風に今まで来たことのないまちにも続いていて、本当に本当なんだな、と改めて思いました。
お店に着くと、イートインスペースは閉まっていて、ショーケースのドーナツだけがぴかぴかと光っています。
暗くなっているお店の奥を見ると寂しい気持ちになりましたが、ドーナツがたくさん並んでいる様子はわくわくします。
なんだか無限に食べられる気がするからです。
でも実際は無限に食べられるなんてことはないので、よかったら半分売りとかにしてほしいです。
それだとドーナツの穴がなくなっちゃうからだめなのでしょうか。
うっかりインディアンとドーナツ
ドーナツの穴って不思議ですよね。なんであるんだろう、とずっと気になっていたので調べてみました。
① クルミがなかったから
くるみを生地の真ん中にのせたオランダの揚げ菓子「オリーボール」を作るはずが、たまたまくるみが手に入らなかったから真ん中に穴を開けた。
② 偶然矢が当たったから
アメリカでは先住民であるインディアンの放った矢がたまたまパン生地の真ん中にあたり、油の中に落ちたのが始まり
③操舵輪に引っ掛けるため
船乗りのハンソン・グレゴリーという人物が船の操舵輪にパンを引っ掛けるため穴を開けた
④ 生焼けを改善するため
子どもだったグレゴリーの母が作った揚げパンがいつも生焼けだったことから中心に穴を開けた
(参照)ガジェット通信 GetNews
意外と諸説ありました。
有名なのが①のようですが、個人的には②だったらいいなあと思ってしまいました。
③もかわいくてすきです。いつでも食べられるように、実用性と美味しさを追求した結果のかたちなのだとしたら、それが未だに残っているのは素敵です。
小さい頃は今よりずっと食いしんぼう将軍だったので、ドーナツを食べるたび損した気持ちでいましたが、穴があったからこそこんなに長く愛されている食べ物なのかもしれません。
ポン・デ・リングの大発見
その日は穴の開いてないカスタードクリームのやつと、抹茶のポン・デ・リングと、えびのパイを選びました。
ポン・デ・リングを食べるのは人生で5回目くらいです。
浮き輪みたいで美味しいなとは思っていたのですが、その日は歩き疲れてお腹も空いていたからか、ものすごく感覚が研ぎ澄まされていました。
ポン・デ・リングってもしかして......
もしかして......
穴の開いてないドーナツが円形にくっついたドーナツなんじゃない?!
今まではずっと穴の開いているドーナツだと思っていましたが、実は穴の開いてないドーナツの集合体なんじゃないかと気づいたのです。
ということは、ミスドでいちばんお得なドーナツということです。
なんということでしょう。
こんな大発見ができたのも、朝からずっとドーナツのことを考えていたおかげかもしれません。
抹茶のポン・デ・リングは期間限定で今はもうないのですがとっても美味しかったです。抹茶味の浮き輪でした。
わたしたちが歩いて行けるところ
今まではどこかに行くためにわざわざ30分歩いていく、なんてことは滅多にしたことがありませんでした。
目的地が駅からアクセスしづらかったり、とりあえず近所をぶらぶら歩いてみたいときくらいしか徒歩を選ぶことがなかったから。
ところが外出を控えるようにしていた当時は、行動範囲が徒歩で行ける円の中だけになりました。
裏を返せば、わたしたちは歩けさえすれば、どこにだって行けるのかもしれない。
実際に、あの状況下でミスドが食べたいと思わなければ、初めて行ったあのまちまで歩いて行けるなんて考えもしませんでした。
歩くことしか許されていないようで、歩くことの可能性は想像していたよりもずっと奥行きのあるものだったんだと。
自分の足で意外といろんなところに行けるんだ、と知ることができたのはとても嬉しいことでした。
健康維持のための散歩を名目に、今度は道の途中で出会ったお店でごはんを食べてみようかな、と思います。
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『食の未来仮説』は、さまざまなシーンで活躍されている方たちが、いま食について思うことを寄稿していく、不定期連載のマガジンです。次回もおたのしみに!
今回の著者_
平井 萌/Megumi Hirai
1992年茨城生まれ。2020年4月にオープンしたBONUS TRACKの事務局。20年間たまごのシールを集めています。一番すきな食べものはメロンパンとかんぴょう巻き。一番すきな本は瀬尾まいこさんの『卵の緒』です。
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