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フードスコーレ不定期連載『食の未来仮説』#005 不要不急のツナマヨおにぎり(書き手:平井萌)

不要不急の外出を控えるように、と言われた時期。どこに行くにも正当な理由を見つけないと外に出ることが許されないような暗黙のルールがありました。

わたしは幸いにも、職場が4月からオープンした商店街のような場所だったため、仕事を言い訳にお店のごはんを食べたり人と対面で会話をしたり。

それでもやっぱり、不自由さは感じていました。

休みの日に映画を観に行くことも、友だちを誘ってごはんに行くこともできない。生活に「できない」が溜まっていけばいくほど、仕事で大変なことがあっても自分の機嫌をとれる切り札がなくなっていく。

それが転職したばかりのわたしには堪える状況でした。きっと、全く外出ができなかったひとたちは、また違ったストレスを抱えていたんだろうと思います。

そんな生活の中で、ある日ひとつの食べ物と目が合いました。ツナマヨおにぎりです。

ツナとマヨが出会う

補足しておくと、ツナとマヨはそれぞれ食べたことがあります。

ツナはあんまり得意でなく、最後に食べた記憶は10年以上前。マヨもそんなにすごくすきなわけではないので、2ヶ月くらい前でしょうか。

ツナとマヨが混ざり合うと、こういうことになります。

ツナ×マヨ=(あんまりすきじゃない)×(あんまりすきじゃない)=(あんまりすきじゃない)²

「あんまりすきじゃない」の2乗。これはもう絶対に避けなくてはいけない食べ物です。


ところが4月4日、避けるべきあいつと出会ってしまいました。

職場のBONUS TRACKにある「ANDON」。メニューに記載されたツナマヨの文字。

「うちのツナマヨはツナも自家製だよ〜」と店主の武田さんに言われ、食べた方が良さそうだなと思い注文します。

ぱくり。海苔とおこめが美味しいなあ。ぱくぱく。ん?

ん?!

「ま、まろやか味だ!!」

なんと、ツナとマヨは一緒になるとツナでもマヨでもなかったんです。ツナマヨという新しい味になっていました。

天気が良くても気分が晴れない日々の中で久しぶりに感じた喜びでした。

「バスク」が怖い

徐々に外でならひとと会うことが許されているような雰囲気になった5月の終わり。近所に住んでいる先輩がお茶に誘ってくださり、近くの公園で集合することになりました。

こじんまりした公園で、キャッチボールをする親子。膝に絆創膏を貼りながら、お姉ちゃんに連れられて帰ろうとする小さい女の子。日常は小さい円のなかで、できることから戻りつつあるように見えます。

先輩と落ち合うと、すぐそばにカフェがあると教えてもらい、お店の階段を登りました。入ってすぐ目の前に並ぶぴかぴかのケーキ。特別でもない日にケーキを眺められるのはしあわせなことです。すると、ケーキがある種類で分かれていることに気づきました。

「バスク」がついているケーキと、「バスク」がついていないケーキです。わたしにとって、「バスク」と聞くといつも思い浮かぶキャラクターがいました。

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引用:TVアニメ「笑ゥせぇるすまんNEW」公式サイト

そう『笑ゥせぇるすまん』です。怖い。このキャラクター、すごい「バスク」っぽくないですか?

そんなわけで、バスクチーズケーキってとんでもなく怖い味がすると思っていました。

先輩に「バスクって何ですか?」と質問したら代わりに店員さんに聞いてくれたのですが、何だったか忘れてしまいました。でもやっぱり『笑ゥせぇるすまん』の味がしそうだったので、結局ピスタチオのチーズケーキに。

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先輩は『笑ゥせぇるすまん』を物ともせず、バスクチーズケーキを買っていました。

これ、実は画期的で、飲み物をこんな風に持てるようになっています。

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テイクアウトの需要が増えたことで、こういう画期的な資材も増えているのかもしれないなあなんて思いました。

いざケーキを食べてみると、ピスタチオのなめらかな木の実っぽい味とチーズのまろやかさが合わさって、すべり台を滑っているような円滑な味がします。アボカドとちょっと似ていました。

先輩が例のバスクを分けてくれるというので、おそるおそる食べてみると、全身に衝撃が走りました。世界中のチーズケーキの旨みをこのひとつのチーズケーキに集合させたのでは?!というくらい濃厚で美味しかったんです。

心配していた『笑ゥせぇるすまん』の味もしませんでした。ほっ。

感電しないビリヤニ

段々と以前の日常に近づくに連れ、6月には職場でも賑わう光景が見られるようになりました。

ある日曜日、施設の中にあるシェアキッチンでビリヤニを振舞ってもらえるという情報を耳にします。

ビリヤニは、なんかぱらぱらした味のついてるごはんということまでは知っています。でも、インドとか香辛料が色々ある国の出身だろうということから、舌がびりびり痺れるんじゃないかとイメージをしていました。

からいのは苦手です。ビリビリのビリヤニ食べられるかな、と心配していたら、からくないと教えてもらいます。大人の「からくない」は信用なりませんが、美味しそうな匂いがしたのでいただくことにしました。

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細いおこめです。辛みのある香辛料とかも入っていなさそう。

一口食べると、ふわっと優しい味が広がります。お、おいしい〜〜〜!

おこめはインディカ米だそうで(後から知り合いの方が教えてくれました)、すごく何かに似てるなと思ったらしらすでした。なんでもない感じがしらすみたいで美味しいなあ。

普通外で食べるビリヤニは驚くほどすごい量が出てくるらしく、つぎにどこかお店で食べるときは、お腹をぺこぺこにして行こうと思いました。

必要至急のなかで遊ぶこと

何もできなくても、ごはんを楽しむことは許されている。それならば、いつもはできないことをやってみてもいいんじゃない?「食べることは、必要至急です」と言い訳をしながら。生きるために必要なんです、と自分の心のバランスを保つために。

たくさんの「できない」で積まれた道のすきまを見つけて通り抜けるためだったのかもしれないし、こういう状況だから挑戦してみようという気持ちになったのかもしれません。


どちらにせよ、食わず嫌いだった食べ物を初めて食べてみることで、またさらに食の世界が広がったことは嬉しい出来事でした。

つぎはコンビニでツナマヨのおにぎりを食べてみようかな。

『食の未来仮説』は、さまざまなシーンで活躍されている方たちが、いま食について思うことを寄稿していく、不定期連載のマガジンです。次回もおたのしみに!

今回の著者_
平井 萌/Megumi Hirai
1992年茨城生まれ。2020年4月にオープンしたBONUS TRACKの事務局。20年間たまごのシールを集めています。一番すきな食べものはメロンパンとかんぴょう巻き。一番すきな本は瀬尾まいこさんの『卵の緒』です。


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