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じぶんの原材料

子供の頃「自分は何でできているか」ということに興味を持った。

母親に聞くと「あなたが食べているものからできているのよ」と月並みな返事が返ってきた。いや、そういう事じゃないんだよな・・・と思いつつ子供なりに調べてみた。

どうやら自分は「細胞」という粒の集まりから形成されているらしい。

さらに調べると、細胞は核(DNA)、ミトコンドリアなどの器官からできている事を知る。なるほど、母親の外見・声、父親と後ろ姿が似ているのはDNAという両親から引き継いだ設計図で自分ができているからなんだな、と感心した。

しかし、また新たな疑問が生じる。

DNAも細胞も突き詰めると「原子」からできているらしい。高校の教科書に書いてある、原子核の周りをくるくる電子が回る図を見て、思わず笑った。

へー、人間って細分化して見ると、まるで宇宙みたいだな。

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人間だけでなく、海も地球も原子からできているのか。なんだか急に身の回りのモノたちに愛着が湧いた。

しかし大学生になり、「じぶんの原材料」は自分の理解を超えた。

どうやら「原子」を突き詰めて見ていくと「素粒子」という単位で構成されていることがわかった。

科学者いわく、ビックバン以前の原初宇宙では「大きなひとつの力」のみが存在しており、様々な事象を契機に「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」の4種類に分化していったとのこと。そして素粒子は、この4つの力によって支配されているらしい。

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うーん、人間が宇宙ってのもあながち的外れではないかもな。

自分を作る体の最小単位が「素粒子」で、それを支配しているのが宇宙由来の「4つの力」であるなら、もはや自分は本当に宇宙かもしれない・・・と、ロマンチックなことを思ったりもした。若かりし大学生の夏である。


ある休日、ホーキングの再来と呼ばれる物理学者カルロ・ロヴェッリ氏の「時間は存在しない」という本を読んだ。氏いわく、時間の謎とは、個人のアイデンティティーの謎、意識の謎と交わっており、これらの謎は絶えず私たちを悩ませ、その深みから哲学や宗教が生まれたとのこと。

ふと昔「じぶんの原材料」のこと、細胞や素粒子について考えていたことを思い出す。なるほど、僕があの時本当に知りたかったのは物質としての「じぶんの原材料」ではなく、もっと内在的な「個人のアイデンティティーの謎」だったのか、と腑に落ちた。

4歳の息子が人体の図鑑を見ながら、自分の体について興味を持つ。そんな彼に「きみはきみが食べているものからできているんだよ」と、なんの気もなしに教える僕。

かつての自分のように素っ頓狂な顔をする、彼。

彼もまた自分自身のアイデンティティーの謎を解き明かしたいと思っている、小さな哲学者なのかもしれない。


引用写真・参考資料:東京大学素粒子物理国際研究センターホームページ

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