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読まずにわかる!「記憶と認知症」本

読まずにわかる! 生物学・医学の一般書から医師がセレクトした3冊をテーマごとにレビュー「3冊でわかる」シリーズと銘打っていましたが、レビューだけでもそこそこわかる!という声が多いので読まずにわかる!シリーズに改名しました・・もちろん興味を覚えたら実際の本を読んでくださいね!

母の認知症をきっかけに自分自身の対策を考えた

今回は3冊でわかる「記憶と認知症」。私にももはや他人事ではない「認知症」。さらに、そこから「記憶と人生」のつながりまで、広がる世界を3冊の新書で追ってみました。

80代後半の私の母親が認知症になり、今はホームでお世話になっています。エピソード記憶ができないというのがメインの症状。

昔の大家族の時代なら、家族の中で子どものようにのんびり過ごして死を迎えられたのかもしれませんが、核家族の時代になって少人数家族では抱え込めない、独居もできない―そういう事情で「認知症」と病名をつけられての施設暮らしです。

高齢になってまったく新しい環境に放り込まれるストレスはいかばかりか…と、息子の私にも忸怩たる思いがあります。

認知症の人の心の中はどうなっているのか?

さて、今回の1冊目「認知症の人の心の中はどうなっているのか?」は、著者が心理学系の人ということもあり、薬物治療ではないアプローチがなされています。

「認知症の人の心はどうなっているのか」、「その記憶の欠落を上手にカバーするにはどう対応したらいいのか」というケアする側や家族の側が必要とする、認知症の人の心のありようを教えてくれます。読むと気が楽になり、読後に、母のところに出かけて、話をしてみたくなるようなやさしさを感じる本です。

例えば、「他者には自分と異なる心があることがわからなくなる(心の理論)」「認知症は、自己と他者のアイデンティティをめぐる闘い」「明日がどうなるかわからない苦しみ」などなど、認知症の人の心がどうなっているのか示唆に富んでいます。

逆説的に、人間の自己アイデンティティの多くが記憶に依存していることに気づかされるのも事実です。記憶が欠落していけば、アイデンティティそのものが壊れていくのか・・・と最後は我が身を危ぶみました。

習慣形成を後期高齢者になるまでに済ませておくこと

続いて2冊目「老いと記憶 加齢で得るもの、失うもの」は、認知症となる前の段階、老化の中での記憶の問題を取り上げていますので、まさに還暦世代へのアドバイス満載の1冊です。

では、記憶障害で困惑しないためにはどうすればいいのでしょう。

本書によれば、60代の私にとっては今から認知症になるのか・ならないのかは、すでに脳内では決まっていて、その運命を変えることは無理らしいです。そんな世代にとっては、記憶の衰えをどうマネージしていくかということが主眼になります。

そこで本書では、「生活習慣を変えることで、記憶しなくてはならないことを減らす」、「スマホのリマインダーを利用する」などの具体的なアドバイスが示されます。

一番大切なのは、こうした習慣形成を後期高齢者になるまでに済ませておくということです。そこを過ぎたら習慣そのものが変えられなくなってしまうようです。日常に追われて習慣の変容に取り組めないドタバタした60代ではダメだということですね。ある種の終活とも言えます。

ITや電子ガジェットを取り入れ記憶の外部化をはかる、そんな習慣を身につけたいと思いました。

記憶こそが自己アイデンティティ―新しい視点からの気づき

3冊目にご紹介する「なぜイヤな記憶は消えないのか」は今回の一押しで、若い人にもおすすめの1冊です。

日々の出来事が人生をどう形作るか――考えさせられる好著と言えます。

今あなたが自分の人生の成り立ちを説明しようとしたときの、その物語(著者は自己物語と名付けています)。それこそがまさに、皆さんが自分の記憶の中から振り返り得る、皆さんの人生そのものなのです。

自分自身の人生とはリアルなものではなく、自分の中にある記憶に過ぎないという視点の新しさ。考えてみれば当たり前なだけに、新鮮な驚きでした。

われわれは人生において無数の出来事を経験しますが、それらすべてを記憶するわけではなく、今の自分=自己物語に都合のいい記憶だけが選ばれて残り、それによってさらに自己物語が改訂・強化されていきます。

つまり記憶と人生観の間にはフィードバックの環があり、記憶は事実そのものというよりも、事実から自分が認知して意味づけしたものを記憶したものなのです。

ゆえに、現在の自己物語が明るければ明るい記憶が残り、さらにポジティブなフィードバックを起こすことができます。たとえ悪い出来事だったとしても、それが将来のより良い出来事につながる・つながったと認知しなおすことで、記憶自体も変容させられます。

人生を肯定的に振り返ろう、記憶をポジティブに回そう――それが過去だけでなく、未来の人生をも明るくしてくれるのです。

今の自分は、自分が記憶している自分にすぎないという視点に立てば、明るくハッピーな記憶を強化できる生活習慣を、習慣変容力が残っている間に身につけることが大切です。

そして、その先、記憶が失われてアイデンティティも失われていき、認知症の世界に入ったとしても、自分の中にハッピーな気分を持ち続けることが可能かもしれない、そうすれば、いわゆる好々爺といわれる老人になっていく・・・と記憶に関するこの3冊の書籍はきれいに連環しました。

まとめ

認知症になる・ならないは中年すぎればもはや変えられない運命なのです。それならば、明るい記憶をポジティブにフィードバックしながら前向きで溌剌として日々を過ごすこと、これしかありません。いずれは死んでいく身なれば、明るい日々を!

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