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海外のアドテク業界と比較した日本のアドテク業界の現状

株式会社FLUX Data & Communication事業本部のコワルスキーです!FLUXにジョインしたのは2021年頭ですが、1年半が経とうとしているこのタイミングで、初めて記事を執筆することになりました。僕は現在FLUXで経営企画担当の執行役員として、会社の成長戦略の策定と実行に日々向き合っており、そのために海外市場のことを調べたり、海外のマーケテックやアドテクの事業者と話すことがあります。

FLUXは「テクノロジーをカンタンに。経済価値を最大化する。」というミッションのもと、日本でさまざまな事業を展開してきました。これらの事業に共通している一つのポイントとして、世界最先端のプロダクトを見つけ、日本向けにカスタマイズして展開している、という特徴があります。そのために、米国だけではなく、欧州やアジアも含めて常に幅広くリサーチを行っています。これまでは事業やプロダクト、機能追加といった形でこのリサーチをアウトプットしてきましたが、今後はブログ記事という形で、デジタルマーケティングやアドテクなど、FLUXが関わる領域についてのラーニングを共有していきたいと考えています。

第1弾の記事として、日本と米国と欧州のアドテク市場にまつわるいくつかのテーマを取り上げて各国の市況を比較しながら、自分の考察も交えてシェアしようと思うので、是非ご一読ください!


インターネット広告市場

まずはインターネット広告市場全体について、前提知識を揃えさせてください。

皆様ご存知だと思いますが、日本のインターネット広告市場は順調に伸びており、今後もその成長が加速すると予測されています。矢野経済研究所が発表したインターネット広告市場に関する調査によると、2020年度の日本国内インターネット広告市場規模は前年度比7.4%増の2.1兆円で、2021年度は前年度比14.5%増の2.4兆円、2024年度には3.3兆円まで拡大すると予測しています(Impress)。

一方、米国のインターネット広告市場は日本の約5倍の規模となっており、成長速度も日本より早いです。米国のインターネット広告業界団体インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(IAB)と米プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が2021年にまとめたレポートによると、2020年の米国インターネット広告売上高は1398億ドル(約15兆3400億円)で、前年から12.2%増加しました。伸び率は19年の15.9%から低下しましたが、年前半のコロナ拡大パニックによる急減を補う需要が年後半にあり、2桁成長を維持しました(JBpress)。

続いて欧州のインターネット広告市場ですが、2021年に840億2000万ドルとなり、技術の進歩、デジタル広告費の増加、インターネットユーザーの増加、地域全体でのスマートフォンとデジタルメディアの普及により、2021年から2030年まで年平均成長率8.59%で成長する見込みです(REPORTOCEAN)。

上記3カ国の市場規模推移をこちらにまとめています。

図1:デジタル広告市場

基本のキという話でしかありませんが、日本、米国、欧州のデジタル広告市場はそれぞれ、かなり順調に伸びているという状況です。人口比率で表したのが次の図ですが、これを見ると少し面白いものが見えてきます:

図2:人口一人当たりのデジタル広告出稿額

上記のグラフでわかる通り、人口比率で見ると国民一人当たりに対して広告主がかける費用が、米国は欧州や日本よりも出稿額が高いです。図1では欧州の市場規模は日本よりはるかに大きく見えますが、これはほぼ人口規模で説明がつきます。あくまでも推測ですが、欧州を西と東に分けた場合、おそらく西側は日本より一人当たりの広告出稿額が高く、東側は日本より低く、平均として日本よりちょっと少ない状態になると思われます。

一方、人口比率で見た市場規模が圧倒的に高い米国ですが、企業が広告に対してかける費用の違いが差の大きな要因として表れています。。その違いについてはさまざまな説明があるかと思いますが、要因の一つとなる「広告費の使い道」を掘り下げてみたいと思います。

広告の目的について
一般論として、広告は主に「ブランディング(認知向上)」と「販促(売上向上)」という2つの使い道があるとされています。欧米では前からブランディング重視の傾向があり、広告出稿額を目的別で見るとそれが明らかです。少し古いデータですが、2017年の米国ではデジタル広告出稿額の70%程度がブランディング目的だったとされています(Statista)。そのため、広告主は自社の広告がどんな媒体で表示されるのかを気にします。同じく、媒体社もどんな広告が自社ページ上で流れるかを気にします。業界全体で広くブランドセーフティーの意識が浸透しており(官邸)、広告の品質に重点が置かれる傾向があります。

一方、日本の広告主はデジタル広告においてブランディングより販促を重視する傾向があり(Impress)、クリック課金型を希望することが多いです。そのため、媒体社側もクリック向上を意識した広告枠の配置などを優先し、自社ページ上にどんな広告が流れているかなどについては優先度が比較的低い傾向がこれまでありました。事実として、FLUXが2020年にブランドセーフティーを担保するためのプロダクトを日本で提供し始めたころは興味を持つ媒体社があまりありませんでした。ただ直近の動きとして、広告主はブランディングに割く広告予算を増枠するとされており(Impress)、FLUXの肌感覚としても、ブランドセーフティーのプロダクトの売れ筋が好調になってきたことからも、媒体社側の意識も年々高まっていると感じています。

デジタル広告の配信手段について
デジタル広告を媒体に流す際はざっくり分類すると「OpenRTB」と「PMP」があります。2020年の世界のプログラマティック広告費を取引方法別で見るとPMPが38%、OpenRTBが62%を占めるとされています(Pubmatic)。日本の事業者の視点では40%弱もあるんだ!と思うくらい高いPMPの割合です。この平均を引き上げているのが米国とイギリスで、2国におけるPMPのデジタルディスプレイ広告費予測は、どちらも広告費の割合として50%以上を占めていると報告されています(Pubmatic)。一方、2017年の日本ではPMPが広告費の12%程度を占めたとされており(AJA)、同報告で2021年は20%以上となる予測が立てられていましたが、肌感覚としてはその半分以下と思えるくらい、PMPはまだあまり普及していないように思えます。

米国の一人当たり広告出稿額が日本や欧州と比べて高い理由の一つは、PMPや純広告の普及率の高さがあると思います。PMPや純広告はOpenRTBと比べて媒体社による付加価値が高く、その分高い価格設定で配信できるのはもちろんのこと、トップの媒体社の広告枠を競う広告主もたくさんいるため、必然的に1インプレッションあたりの価格は高騰します。この仮説を裏付けるもう一つのデータとして、イギリスの事例があります。イギリスは日本と比べて人口はおおよそ半分にもかかわらず、同規模のデジタル広告出稿額となっていることが報告されています(Pubmatic)。言うまでもなく、ブランドセーフティーの観点でもOpenRTBよりPMPが望ましく、さらにPMPや純広告を盛んにする効果があると思われます。

媒体社向けのプロダクト市場


市場全体の話をしたところで、今度は媒体社向けのプロダクトという軸で比較してみたいと思います。アドテク業界では幅広いプロダクトやプラットフォームが展開されています。上記で述べた通り、海外と日本では広告の規定や広告主の意向などが異なることによりプロダクトの需要が異なります。以下に海外で複数のアドテク事業者が展開しているプロダクトで、日本では見ることが少ないものを挙げていきます。

ビデオ収益化ソリューション
せっかくなので、FLUXが今月リリースしたプロダクト「FLUX Video」を一つ例として取り上げさせてください。
インストリームのビデオ広告は収益性が高く、媒体社目線では魅力的な広告収益の1種ですが、自社でビデオコンテンツを保有していない場合はインストリーム動画の広告を扱うことができません。欧米ではこの課題を解決することを目的とした事業者が複数存在します。このような事業者は以下の要素を揃えているため、ビデオコンテンツを保有しない媒体社でもインストリーム動画広告を流すことができます:

  • 汎用性の高いビデオライブラリ(第3社から使用許可を得たもの)

  • ビデオプレイヤー

  • アドサーバー

例えばですが、ビデオコンテンツを保有しない記事メディア会社が米国テスラのCEOイーロン・マスクについての記事を展開した場合、ビデオソリューションはコンテンツ解析をしてイーロン・マスクについての記事であることを検知し、関連性の高いイーロン・マスクの動画をライブラリから見つけてビデオプレイヤーで配信します。その前後や途中でインストリーム広告を流すことにより、自社で動画を保有していない媒体でもインストリーム動画広告を扱うことが可能になります。

海外では、2007年程度からこのようなソリューションが展開されていますが、日本で普及しているプロダクトはまだないと思います。上記のような機能を取り揃えたソリューションについて、先月から弊社の営業チームやアカウントエグゼクティブチームが紹介を始めましたので、ご興味があれば、ぜひ担当のアカウントエグゼクティブにお声がけください。

アドセーフティ、アドフラウドソリューション
アドセーフティ、アドフラウドといった単語は最近日本でもよく見かけるようになりましたが、それぞれの意味の違いは何でしょうか。僕の理解は以下の通りです:

  • アドセーフティソリューション:質の低いクリエイティブとLPの排除

  • アドフラウドソリューション:ボットトラフィックの排除

広告市場全体の話の中でアドセーフティの話はすでに触れています。広告主も媒体社もブランド意識が高く、媒体社が自社ブランドを守れるようにアドセーフティソリューションを導入します。
 ではアドフラウドソリューションはなぜ媒体社にて導入されているのでしょうか?

一言で言うと、広告主が要求するからです。PMP取引などで高額な予算を割いてトップ媒体のキャンペーンを流しても、一定の広告予算はボットトラフィックによりインプレッションやクリックを生成しているウェブサイトに持って行かれてしまい、広告の効果が薄れることを懸念し、ボットトラフィックの排除を保証できる媒体社のみと取引するケースが増えています。有名な事例としてはUber社が2017年に50億円以上のボットトラフィックによる経済的損失を理由として広告代理店を訴えたと言うのがあります(東洋経済)。

媒体社がアドフラウドソリューションを導入すると、自社ウェブサイトのトラフィックのパターンを見ながら、ボットトラフィックの可能性が高いページビューが発生した際、広告枠を表示させない、ということが可能になります。OpenRTBを主軸とした広告運用をしている媒体社がこのようなツールを導入した場合、単なる売上減になりますが、PMPを主軸とした媒体の場合は、アドフラウド排除による売上減以上に、PMPによる売上増が見込めるため、こういったツールを導入しています。

あくまでも僕個人の感想ですが、日本も今後よりマーケティング効率を求める傾向が強くなればなるほど、媒体社側ではアドフラウドの対策が必要となってくる可能性は高いと思います。

アドブロックリカバリー
最後にアドブロックリカバリーを例として取り上げます。一般消費者がネットを閲覧するときに広告を隠すことができるようにするためのツールとして、アドブロッカーというツールがあります。これは当然、媒体社からみて広告売上の機会損失です。アドブロッカーを使う人が増えれば増えるほど、この機会損失が増えます。

2021年時点でインターネットユーザーの42.7%はアドブロックを利用しています。インドネシアは56.8%、米国は38.8%、日本は22.3%と報告されています。(Hootsuite

アドブロック利用率が高い国ではアドブロックリカバリー関連のプロダクトが複数あります。リカバリー策としては主に2通りです:

  • 広告ブロッカーを検知した場合、「うちのドメインをホワイトリストに追加してください、そうしない限り閲覧いただけません」とブロック解除を訴えるインタースティシャルスクリーンを表示する

  • アドブロックのコードを無効にし、広告を通常通り表示する

米国の友人が先日、アドブロッカーを使っていてもパターン1の対策を打っている媒体社が増えてきたことを呟いていました。結局広告を見るよりもアドブロッカーのホワイトリスト設定を毎回いじるのが面倒だから、アドブロッカーを使わなくなった、ということでした。
報告されている通り、日本ではアドブロッカーの使用率がまだ低いからか、こういったリカバリーのプロダクトを見ることはあまりないです。


最後に

少し長くなりましたが、US Tech Reportの第1弾をここで終わりとさせていただきます。こういう記事が読者の皆様にとって興味深いものかそうでないのか、どんな情報があればより参考になるか等感想をお聞きできれば嬉しいです。ぜひ、弊社のアカウントエグゼクティブやセールスの担当に率直な感想をお伝えください。
 

余談ですが、先日USで開催されたProgrammatic IOイベントに参加してきました。そこで学んだ内容を本日レポーティングイベントとして開催し、共有させていただきました。次回の記事では、本日お話しできなかった内容や学んだこと、日本の媒体者として気にすべきポイントをまとめたものを第2弾の記事としてシェアできればと思っております。次回の記事でまた、お会いできることを楽しみにしております。

弊社問い合わせ対応窓口:sales@flux-g.com


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