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【FLSG】ニュースレター「Monthly Report8月号」米大統領選と為替、株式市場の行方

日本時間7月22日未明、遂にバイデン氏が大統領選からの撤退を表明した。後継にはカマハリことカマラ・ハリス副大統領を支持した。このため市場は7月になってからの“確トラ”からやや見通し難になってきた。
(8月1日 文責太田)

ハリス氏支持率、激戦6州で勢い 4州でリード=BBG調査(By ロイター編集)

バイデン撤退で“確トラ”仕切り直し
米民主党の大統領候補はハリス副大統領に一本化。バイデン選挙資金を引き継げるうえ、小口献金が8100万ドル集まったと報じられ、ソロス氏などウォール街の一部も参集しているようだ。ハリス氏はかつて史上最低支持率の副大統領と呼ばれ、諸問題の質疑で「笑って誤魔化すしか能がない」と酷評されている。常に「黒人女性」を強調するパターンで、クリントン夫妻は支持しているが、オバマ氏は消極的とも伝えられ(結局支持)、まだ波乱含みの様相。

トランプ銃撃事件を受け、”もしトラ”から”確トラ”と言われるようになり、バイデン撤退声明前の17日までの1週間で、米株ファンドに約450億ドル(約7兆930億円)、過去4番目の規模の資金流入があったと報告されている。要因は、トランプ勝利と9月利下げ開始期待(トランプ氏は大統領選前の利下げに反対姿勢だが)と解説されていた。とくに、小型株ファンドへの資金流入が99億ドル、過去2番目の規模で、ハイテク大型株主導からの転換が意識されていた。

トランプ優勢は変わらないと思われるが、決戦ムードを高めると見られる。なお、共和党下院議長らが要求したバイデン辞任の動きが引っ込み、当面の政治混乱リスクが薄れたようでもあるが、ロイター/イプソスの世論調査で、有権者の80%が「米国は制御不能なカオス」を懸念。混沌とした不透明感も続いている。

直近の「支持率」では、トランプ氏が48.2%、ハリス氏は46.2%だが、ブックメーカーの「予想」では、バイデン撤退声明の翌日7月23日時点でトランプが58.4%、ハリス氏が32.9%と依然大きな開きがある。ただし、ハリス氏はバイデン氏撤退声明直前の7月20日時点でまだ18.2%だったことを踏まえれば、バイデン撤退後のたった数日間で、かなりの勢いでトランプ氏を猛追していることも見て取れる。今後、選挙戦が進むに従い、支持率とブックメーカー予想の差は徐々に縮まっていくのかもしれない。市場での“確トラ”は一旦仕切り直しとなった。

前回のトランプラリー後ドル安に
問題は、選挙次第で為替相場がどう動くかだが、トランプ前大統領の場合は、前回の16年の相場が参考になる。今年7月に公表されたトランプ前大統領の選挙公約によれば、「トランプ減税の恒久化」に加えて、「対中関税の引き上げ」や「化石燃料の生産拡大」、「国境の壁の完成」などが掲げられており、まさに前回16年のDeja vu(デジャヴ、既視感)のようである。

16年のときは、トランプ氏がクリントン氏に勝利した直後、「トランプショック」で一時米株安・ドル安に振れたが、その後はバラマキに対する期待など、市場の楽観による株高・ドル高の「トランプラリー」が続いた。
米株価の「ラリー」は18年1月まで続いたが、ドル円については、1カ月程度の「ラリー」の後ドルはピークアウトし、翌年1月にはトランプ大統領が貿易不均衡とドル高への懸念に焦点を当てはじめたことで、ドル安・円高が加速。
18年に入ると、米中貿易摩擦激化により米株安、ドル安が進行。この年3月にトランプ政権が通商法301条に基づく対中制裁措置の発動を決定するに至るまでの過程で、ドルは急落した。今回も、トランプ氏勝利の可能性が高まる場合には、投開票を待たずして、「トランプラリー」が始まる公算が大きい。

ハリス政権ならバイデン政策の踏襲
一方、ハリス氏が勝利した場合は、これまでの「バイデノミクス」が踏襲される公算が大きい。バイデン政権においても、インフラ整備や半導体分野への投資、インフレ抑制法によるグリーンエネルギー生産や電気自動車(EV)に向けた財政支援など、巨額の財政支出が行われ、財政赤字は拡大傾向にある。

バイデン政権が今年3月に発表した25年度予算教書では、富裕層や大企業向けの増税によって、今後10年間で約3兆ドルの財政赤字削減を目指す方針が示された。ただし、具体的な実行には連邦議会で法案が可決する必要があり、これも議会の選挙結果がカギを握る。現状のように上院が民主党(51議席)と共和党(50議席)で拮抗している状態では、そもそも実現の可能性は低いとの見方も多い。

トランプ勝利なら市場の不確実性高まる
おそらく市場の不確実性がより高まるのはトランプ氏勝利の場合だろう。トランプ氏はドル安志向で金融緩和すべきとしており、保護主義や貿易不均衡是正を優先する主張がどのタイミングで政策として現れるか不明だが、その時にはドルが急落する可能性もある。

そもそも、足元の円安ドル高は4月岸田訪米後に加速した。4月末GWから防衛的為替介入を実施。岸田首相が米国に巨額ウクライナ支援(融資分)の債務保証を行ったとの思惑が背景にある。支援はドル建てで、日本政府は巨額ドル手当てを行わなければならなくなるとの思惑だ。7月2日時点でシカゴのIMM 通貨先物での円売りポジションは18万4千枚と過去最高水準にあったが、バイデン撤退声明で、円売りポジションを立てていた投機筋は一斉に買い戻しを余儀なくされたようだ。23日時点で10万7千枚と急減している。
また表面上の円安理由とされる日米金利差は縮小気味にある。この結果1週間で162円付近から152円割れまで、約10円も円が急騰した。その後7月25日に発表されたアメリカの4~6月期GDPが予想比強い数字となったことを受けて一時154.70円台までドルは値を戻した。

円の戻りはどの水準だろうか。ラフな見立てでは、約2年3カ月間で110円付近から162円付近まで駆け上がったことを思えば135円付近までは半値戻しであり、さほど不思議な話とも言い切れない。

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トランプ政権ではドル高を問題視
バイデン氏撤退声明の数日前、トランプ氏はブルームバーグとのインタビューで「われわれは大きな通貨問題を抱えている」と発言している。90年代初めから米国の経済的な枠組みを支えている強いドル政策を転換する意向を示しているのだ。同氏が副大統領候補に選んだバンス上院議員は、さらにその先を行っている。なんと国際準備通貨としてのドルの役割も終わらせる意向を示しているのだ。

バンス氏は2023年に「強いドルはワシントン・コンセンサスの一種、神聖不可侵な要素となっているが、米国経済を調べてみると、大体において無用な輸入品が大量消費されている一方で、製造業の空洞化が起きている。準備通貨としての地位にも一定のデメリットがあるのではないか」と述べている。
ドルの国際的な役割が低下することは全く考えられないことではない。実際、ここ数年の動向を踏まえると、この重大なシフトが起きる可能性は数十年前よりも高まっているとみている。

混乱時にはドルは避難先
米国は地政学上の相手国に対して積極的にドルを武器として使っている。ウクライナに侵攻したロシアのドル準備を凍結したことがその最たる例だ。こうした動きを受けて、他の中央銀行は外貨準備の分散を進めており、世界の外貨準備に占めるドルの比率は01年の73%から直近では59%に低下してきた。
だが、結局のところ、ドルはいまなお唯一無二の存在だ。米国の金融市場は規模・流動性の面で世界でずば抜けており、国際貿易も圧倒的多数がドル建てだ。また新型コロナウイルスの流行で市場が混乱した20年にあったように市場の混乱時に資金の避難先になるというドルの地位はバンス氏でさえ揺るがすのは難しいだろう。

トランプ政策ではドル高是正にはならない
一見したところ、トランプ氏が掲げる政策はドル高の是正には寄与しない。通商政策では同氏は全ての輸入品に一10%の関税をかけ、中国製品に対する関税を50%か60%に引き上げると述べている。
この政策が実現した場合、恐らくドルは値上がりする。輸入物価の上昇で海外製品の需要が抑制されるためだ。また、この政策はインフレにつながる可能性が高く、FRBが高金利を維持すれば、さらなる資本流入を招くことになる。

トランプ氏の財政政策が、事態をさらに悪化させるリスクもある。同氏は大統領時代に導入した減税を更新し、法人税を引き下げる意向を示している。こうした大盤振る舞いは需要を喚起し、さらなる金融引き締めとドル高につながる。

このような矛盾があるからこそ、トランプ陣営は海外勢による対米投資とそれに伴うドル買いを抑制するため、資本規制を導入することを示唆。共和党の24年の政策綱領では、中国による企業買収や不動産の購入を全面禁止することさえ提案しているようだ。

いずれにしても短期的には、景気鈍化でFRBの利下げが可能になり、ドル高圧力が和らぐ。こうした現実を踏まえると、ドル高是正に向けた取り組みはすぐに不要になる可能性もある。国際準備通貨としてのドルの役割は定着しているが、ドル高は長続きしない。11月の大統領選で誰が勝利するかにかかわらずと思っている。

どちらに転んでも米株は堅調か
では株価はどうであろうか。米国株はどちらの政権になっても堅調が続きそうだ。5月以降に発表された米国のインフレ指標は想定していた通りに落ち着いてきた。
直近の7月11日に発表された6月分のCPI(消費者物価指数)も、食料品とエネルギーを除いたコアベースで前月比+0.1%と極めて低い伸びに減速した。特に、前月まで高止まりしていた家賃の伸びの低下が顕著で、インフレが鎮静化しつつあることを強く示唆する結果だった。

パウエルFRB議長は、7月9~10日に開かれた上下院の各公聴会において、利下げ開始の時期について聞かれた際、自らの考えを示さなかった。ただ、高インフレへの対処だけではなく、最近の労働市場の減速にも配慮する必要があるとの考えを示し、また現在の政策金利について、「極端に高すぎるわけではないが、経済活動には抑制的である」と評価した。

これらの発言を踏まえると、おそらく9月17~18日のFOMC(連邦公開市場委員会)での利下げ開始を考えていると市場は想定している。FRBによる利下げ開始への期待などを背景に、米国の長期金利は7月に入り4.1%台まで低下した。

経済の安定成長が続き、インフレが落ち着けばFRBの政策発動余地が増えるので、現在のような株高が続くのは自然だと考えている。
一方で、年初からここまでの米国株の上昇は、生成AI向けの半導体市場で独り勝ちを謳歌している、エヌビディアを中心とした、いわゆるメガキャップ(時価総額が極めて大きい超大型株)銘柄の株高で多くが説明できる。「生成AIという技術革新」への漠然とした期待が株式市場で広がる中で、エヌビディアなどの一部企業の株高が際だっており、ITバブル崩壊直前の1999年や2000年の状況と比較される。

確かに、米国株市場の一部ではバブルの領域まで株高が起きていることから、短期的にはこうしたメガキャップ企業の個別要因などで、株式市場全体が調整する場面はあるだろう。ただ、逆にいえば、PER などからもハイテク銘柄(エヌビディアのPER は60倍)を除けば割高とはいえない水準にある。

米国経済が安定成長する中で、企業業績全体の利益は堅調な推移が予想されることから、まだ出遅れ感が強い小型株などでは株高の余地があるだろう。もし大型メガキャップ株やハイテク株が下落しても、同国の株式市場全体の基調を変えるリスクは限定的であり、割高になったこれらの大型株の調整があっても、株式市場全体にとっては押し目買いの機会になるとみている。
今後の金融市場を考えるうえでは、11月5日の米大統領選挙に対する思惑が材料になりそうだ。7月13日にはトランプ氏に対する銃撃事件が起こり、そして21日にはバイデン氏が大統領選挙からの撤退を表明するなど、選挙を巡る情勢は変わりつつある。

「トランプ勝利」への思惑が7月に入ってからの株高を後押ししていたが、今後の政治動向に関する報道で、市場心理は揺れ動く場面があるかもしれない。ただ、当面はトランプ氏有利の情勢は変わらないとみられる。
大統領選挙は、米国の政治体制は言うに及ばず、世界の安全保障の枠組み、ひいては各地域の地政学リスクに広範囲な影響を及ぼしうる。しかし、どのような政治体制になっても、2025年にかけて米国経済全体でみれば、底堅い成長が続くだろうと予想している。

コロナ禍後の経済回復はすでに2024年時点で4年目を迎えているが、米国経済全体を見渡すと、企業や家計による実物資産や債務残高などでは「過剰な積み上がり」はみられない。
今米国の景気回復期は中盤戦に差し掛かった段階だろう。このため、どちらが大統領になっても米国経済の回復は少なくとも2025年にかけて続くと予想している。

米政策次第で為替市場の動きは変わるかも
仮にトランプ氏の再選が決まり、公約通りに広範囲な関税引き上げ政策を行えばどうなるか。インフレ率が再び高まることでFRBによる政策のかじ取りは難しくなるだろう。米国経済の成長率は政治体制によって変わらないとみているが、政権によってドル円相場を含めた為替市場の値動きは変わりうる。

そのとき株式市場はどうなるだろうか。強硬な関税政策に対する懸念が高まるいっぽうで、高めのインフレが長引く中で金利高によるドル安円高に動く可能性が低下することから、米国株への投資環境という点では、より望ましい状況になるとみられるという見方もある。

7月31日日銀は0.25%の利上げを発表した。発表直後日経平均は400円超下げたが、イベント通過を反映して575円高で終えた。円は3月19日以来の149円台に一時突入。この円高は企業にとってマイナス要因になるのだろうか。6月に発表された法人企業統計調査では企業の平均想定為替レートは140.80円。したがって当面は大きな影響はなさそうだ。

とはいえ、日本株は米国政治の不透明感の影響で11月5日にかけ調整気味とみている。どちらが勝利するにせよ、結果が見えたら日本株の再出発と考えている。


■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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