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永田町のNational Diet Library(国立国会図書館)で

3年前、通っていた社会人大学院で経営理念の浸透のメカニズムについての修士論文を書いた。その際、先行研究を確認し複写してもらうために、国会図書館に何度か通った。

日本で発刊された文書が全て収められているという国会図書館の存在はもちろん前から知っていたけれど、実際に行くのはそのときが初めてだった。

ちなみに、平成30年度の統計によると、国会図書館の蔵書数は4418万7016点、年間受入点数は77万7196点だそう。それがどのくらいすごいことなのかはピンとこないが、まあとにかくたくさんの文書があるということだけはわかる。

国会図書館は地下鉄の永田町駅から徒歩5分ほどだ。敷地に入ると、こんな不思議なオブジェがある。左手の大きな建物が本館。まずは右手の新館で登録手続きをする必要がある。

手続きに要する時間は通常10分程らしいが、混んでいると30分以上かかることもある。

私が初めて行ったときは、5月の連休明けだった。数十人くらい待っている人がいて、たしか30分以上時間がかかったと記憶している。そのとき受付カウンターでは数人の職員さんが対応していたのだが、説明事項が多いからか、中々先に進まない。私はかなりせっかちなのだが、何しろ初めてだ。そんなもんかなと待っていたところ、その状況にしびれをきらした初老のおじさまが、ついに職員さんに大声を張り上げた。

「見てみなよ。この状況!この人たちみんな研究してんだよ。これだけの頭脳を遊ばせてるんだよ!職員を増やせよ」

結果、責任者らしき人が出てきて対応人数も増えたので、こちらとしてはありがたかった。職員さんも大変だなあと思いつつ「頭脳を遊ばせてる」っていうおじさまの表現が、なんかちょっと納得しちゃったというか、たしかにそうだよなあと思った。

無事に利用者登録が済むとIDカードを受け取る。入場も、検索も、閲覧も、複写も、すべてこのカードがないと行えない。何をするにも自動改札のように「ピッ」とかざす必要がある。

館内には中の見えないバッグなどは持ち込み禁止なので、手荷物はロッカーに入れる。スマホやノートPCなどは持ち込み可能。その他、財布など中に持ち込むものはロッカースペースに置いてある透明のビニール袋に入れる。ふつうのペラペラのビニール袋だ。透明のビニールバッグを持参している人も多い。ビニール袋は不便なので、私も2度目からは100均で買ったビニールバッグを持参した。

館内は異様に広い。だが、図書館と言っても、棚に書籍が並んでいるわけではない。ほとんどが書庫に保存されているので、端末で調べて閲覧申込みをする必要がある。端末は何十台も並んでいるのだが、土日などすごく混んでいるときはこの端末がすべて埋まっているのでほんとうに困る。うろうろして目を光らせながら空くのを待つしかないのだ。ずっと待っていても、空いたタイミングで他の人が先に座ってしまうこともある。なので私はなるべく、平日の午前中に行くようにしていた。

端末で検索をした文献は、ショッピングサイトのようにカートに入れていく。1度に本は3冊、雑誌は10冊まで閲覧申込みができる。申し込みをすると、20分~30分でカウンターで受け取れるのだが、その待っている時間がもったいないので、最初に超特急で何冊か閲覧を申し込んだあと、また次に申し込む分を検索して予約していく。

予約された文献は、コンピューターシステムによって膨大な書庫から自動で集められる。それを職員さんが確認し、カウンターで渡してくれるという仕組みだ。

書庫から運ばれてきて閲覧できる用意ができたかどうかはこれもまた端末で確認できるようになっている。確認するための端末がカウンター近くにあるのだ。カウンターに行きIDカードをかざした後、文献を受け取って、閲覧スペースに行く。

私が探していた文献はほとんどが学会誌や大学の紀要などに乗っている数ページ~十数ページの論文で、分類でいうと「雑誌」に該当するのだが、大きなファイルに複数冊の学会誌や紀要が閉じられていることが多く、1つのファイルがやたら重い。それが何冊もあるのだから、かなりやっかいなことになる。

閲覧スペースで該当論文を探して内容をざっと確認したあと、今度は複写の依頼をする。国会図書館では著作権の範囲内で複写が可能になっている。その申し込みもまた端末で行う。閲覧中の本のリストから申し込み手続きをしたあと、申込書を印刷する。

ちなみに、自宅からネット上で申し込みをして郵送してもらったり、国会図書館内で申し込んで後日郵送してもらったりも可能だが、実物を確認せずにあれもこれもコピーの依頼をしていたらお金がかかってしかたがないので、その場で1つひとつやっていくしかない。

共用のプリンターで申込書を取った後、重いファイルたちを抱えて、複写の申し込みカウンターの階まで移動する。移動の際は手押しできるワゴンがあるのだが、ワゴンを使うとエレベーターしか利用ができず、エレベーターは同じような人たちでたいがい混んでいる。

なので、急いでいるときは両手でファイルを抱えて階段を何度も上り下りするはめになる。ちなみに雑誌や新聞類は新館、書籍は本館にあるため、書籍の複写をたのむときは館内や長い連絡通路の、相当な距離を移動しなければならない。

複写カウンターのそばで、印刷した申込み用紙にコピーをするページと目的を記入し、該当箇所に紙の栞を挟む。それを依頼する文献すべてについて行う。

複写カウンターで文書と申込書を出し、職員の確認を経て受付がされると、また15分~30分くらい待つ。その時間ももったいないので、その間に、また階を移動して次の予約分をカウンターで受け取り、該当論文を確認して、複写申込み手続きをしてと、次のサイクルを回す。効率よく文献を手に入れるためには、そういう時間管理が重要になってくる。

複写が終わるとレジで支払いをする。白黒で1枚25.30円とやや高い。私の場合は毎回数千円支払っていた。レジでの支払いは最初財布を持ち込んで毎回現金で払っていたのだが、それも面倒で、nanacoで払うようにした。

コピーした用紙とファイルや本を受け取り、コピーのミスがないかをすぐそばのスペースで確認する。問題がなければ、文書を借りたカウンターまで返しに行く。また重いファイルを何冊も抱え、階段を上る。

そんな風にあちこち移動をして、申し込みをして、ということを繰り返す。これがものすごく疲れる。もはや、軽いサーキットトレーニングではないかと思う。なるべくなら1日で全部済ませたかったが、1回に借りられる本やコピーに申し込める数は限られているし、目当ての本を他の人がずーっと閲覧中ということもあった。自分自身が必要な文献をリストアップするのにも結構な時間を要した。結局、国会図書館には5回くらい行くことになった。

国会図書館での唯一の楽しみが、本館6階にある食堂でお昼を食べることだ。ここの食堂は「メガ図書館カレー」というのが有名で、お盆のような大きな四角いお皿に並々とごはんが盛られ、カレーと牛丼のあいがけみたいになっている。到底食べきれるわけはないので、それはサンプルを見て「おお~」と思うだけにし、私はいつも日替わりメニューを食べていた。

ここの食堂は、かなり食堂食堂していて、昔の学食とか市役所の食堂みたいな、味もそういう場所にぴったりなよい意味で普通の味で、それがまたなんともいい感じで、毎回の楽しみだった。

そんな国会図書館通いの結果、最終的に42の論文をコピーしてもらった。その他、各大学のリポジトリなどで公開されている論文をネット上でダウンロードしたものが79、大学院の図書館で借りたり自分で購入したりした書籍、官庁のレポートなどが46、と167の文書を集めた。

もちろんそれらを全部読んだわけじゃなくて、必要な個所を参照しただけのものが多いし、まったく必要のないものもあった。そうやっていろいろ苦労しながら集めた大量のコピー用紙の束は、今も箱に入ったまま家に置いてある。当時はそのまま博士課程に進学して研究を続けようと思っていたからだ。一応今も研究の続きを行うときのためにとっておいてあるが、今のところちょっと関心の方向が変わってきているのでその道の可能性は少ない。


と、長々と国会図書館の利用体験を書いたのだが、この当時は完全に論文を複写してもらうためだけに通っていたので、おもしろみにかけている。おそらく、ここまで読む前に脱落された方がほとんどだろう。

だが、よくよく考えるとこんなにおもしろい場所はない。今度は完全に趣味のために通いたいと思っている。例えば漫画とか、昔の雑誌とか、絶版でものすごく高額になっている本なども読むことができる。閲覧スペースや作業スペースはふんだんにあるので、1日中入りびたることも可能だろう。下手に漫画喫茶に行くより安上がりだ。現に、国会図書館でデートをするカップルも多いと聞く。

今は感染対策のため利用人数が制限されており、抽選申し込みをする必要がある。以前のように利用できる日々が戻るのかは今のところわからないが、近い将来、またあの空間に行くことを今から楽しみにしている。

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