強きもの、眩しきもの

今から書くのは、誰が何と言おうと私が世界一好きな本との出会い。初めて読んでからもう何年も経っているのに、いまだに忘れられない。

内容だけじゃなくて、文字通り「すべて」が。


高3の頃だった。毎日の休み時間、学校の図書室に入り浸っては気になった本を片っ端から借りている時期があった。暇さえ見つければ教室でも電車内でも文字を追いかけ、紙をめくっていた。借りた本を教室で読まず、あえて図書室で読むなんてこともあった。

その本との出会いは、「なんとなく借りてみた」というあまりにもふんわりしたところから生まれた。ここの部分、はっきりとは覚えていないし今でも思い出せない。この後のことが強すぎたから。


唯一、読み終えた時のことはしっかり輪郭が残っている。


最後の文を読んでから、本を閉じることができずに固まっていた。本当に何もできなくて、しばらくの間強力な何かが私を椅子の上に接着させたような感覚だった。

感じたことのない「熱」が生まれていた。知らないうちにこの話のなにもかもに夢中になっていた。誰かを思う時のような胸の締めつけ、だけどそれとは違う気もする別の何か。


閉じてしまえば魔法は解ける。登場人物たちがたどってきた道も、見えた光景も、温度や痛みも、それどころか人物たちそのもののことも本の存在自体も消えてしまいそうで、どうしてだか忘れてはいけないような気がして、何もできなかった。この時点で、私は完全にノックアウトされていた。

それまでに読んできた本のどれをも霞ませるほどの、まっすぐでひたすらに強烈で眩しく美しい「閃光」が支配していた。そしてそれはこれを書いている今の時点でも残っている。恋のような、だけど恋とも違うような、それでいてただただ愛しい世界に魅せられた。それはもう、わけもなく泣きたくなるほどに、抱きしめたくなるほどに。


もしかしたらとんでもない本に巡り会ってしまったのかもしれない。偶然手に取ったものが、今の今まで覚え続けているものになるだなんてちっとも想像していなかった。そもそも「この本を忘れられないものに変化させよう」と意気込んで読み始める人なんているのだろうか。いるかもしれないけれど。


当時、将来のことで何ともいえない漠然とした不安を抱えていた。それなりに勉強していて受験する大学も決めていたけれど、自分で決めた道をいまいち想像もできす自身も持てずにいた。そんなときに差し込んだ、まさしく「光」だった。

話の主な舞台に設定されている街は、現実に存在しているのに非現実的で到底行くこともないと思っていた、私の憧れだった。きらびやかだろうが薄汚れていようがうらやましかった。


今読んでも好きになるのかもしれないけれど、あの時だったからこそこれほどまでに好きと断言できる感情が生まれたのかもしれない。

あの世界に溢れている優しさ、強さ、焦り、悲しみ、目映さ。触れたら、何かを、誰かを大切にしたくなる。もちろん、本のことも。


先のことなんて分からないし分かりたくないけれど、これほど特別な本にはきっともう会わないだろう。それは少しだけ寂しいけれど。


これが、私の「好き」。

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