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詩小説 『珈琲とあなた』 #シロクマ文芸部


 珈琲とともに読書をしている私は
 本当は珈琲があまり好きじゃなかった。

 飲めないわけではないけれど
 苦味や酸味になかなか馴染めなかった。

 そんな私の傍らに置かれた珈琲。
 
 どうかこの物語の中の
 恋だけでも実りますように なんて
 らしくもないことを願いながら、


 私は昔から少数派だった。

 サクサクと音を立てて食べる
 かき揚げも好きだけれど

 天つゆやうどんの出汁に
 じわりと油をにじませ
 少しずつほどけていく具材を
 ひとつひとつ味わう方が好き。

 ほうれん草は茎よりも葉が好きで
 ブロッコリーよりカリフラワーが好き。

 どれもこれも家族の好みとは
 正反対だった。

 両親はともに第一子で
 兄しかいないとはいえ
 私だけ末っ子だからなのかな?
 と 真剣に考えたこともある。

 一人っ子だった期間がない私は
 無意識のうちに誰も選ばないものを選んで
 争いごとを避けてきたのかも なんて。


 だから私は
 家族みんなが珈琲派の中
 ひとりだけ紅茶派だった。


 今でこそアフタヌーンティーで
 紅茶の時代が来たようにも思うけれど
 それでも未だに珈琲党の方が根強い。

 だってファストフード店でさえ
 珈琲には力を入れているけれど

 紅茶はお湯とティーバッグを
 渡されるだけ。


 ドリンクバーなら
 ティーバッグの種類も豊富だけれど

 そこにもやっぱり最新の
 コーヒーメーカーがある。


 珈琲派の人たちは 食後の一服や
 ブレイクタイムを取るのが上手くて
 それが私はずっとうらやましかった。


 紙コップの自販機にも
 休憩場所の片隅のガラスポットにも
 珈琲は当然のように置いてある。

 それをきっかけに
 珈琲派になる人も多いくらい。


 でも人ってそんなに簡単には
 自分の好みを変えられない。


 それに気づいたのは
 気づかされたのは あなただった。


 「白井しらいさん 毎朝 コーヒーメーカーの
  セットしてくれてありがとう」
 「いえ これも仕事のひとつなんで」

 と素っ気なく応える私に

 「でも本当は紅茶の方が
  好きなんでしょ?」

 直球に聞いてきたのは あなただけだ。


 「……え?」

 戸惑う私にこう言った。

 「いや 実はこないだ
  白井さんが紅茶専門店から
  出てくるのをたまたま見かけてさ。

  今まで見たことないくらい
  うれしそうな顔してたから」

 見られていたのか……という
 恥ずかしさに俯くと

 「いつもコーヒーメーカーを
  セットしてくれるのに
  自分では飲まないから
  ずっと不思議だったんだよね」

 なんて茶目っ気たっぷりに笑う。

 「俺も未だに煙草を吸ってるから
  今じゃ肩身が狭くてね……

  でも 紅茶好きな人も
  意外と気を遣ってるのかな?
  ってなんとなく思ったんだよね。

  だからそういう意味も込めて
  ありがとう 白井さん」

 ズルい人だなって思った。

 そんな言葉をかけられたら
 小さな恋の種が花開いてしまうじゃない。

 絶対に好きになっちゃいけない
 立場の人だってわかった上で
 ずっと気持ちを隠してきたのに。


 人の好みは簡単には変えられない。

 それは恋する相手に対しても同じこと。


 好きな人の好きなものなら
 苦手なものでも好きになりたいと
 思ってしまうこともある。


 たとえ叶わない恋だと
 わかっていても

 あなたと同じものを
 あなたの好きな珈琲を

 好きになるくらいは
 許されたっていいでしょう?


 そう思いながら口をつけた珈琲は
 やっぱり私には苦くて切ない味がした。

 


 モーニングコーヒーを一緒に味わうほど、ズルい人にはなれなかった白井さんです。(モーニングセットも珈琲ありきだよな……というぼやきも🙊シー!)

 私も紅茶派なのですが、珈琲派の人の方がなんとなくブレイクタイムを取るのが上手くて羨ましいなというのは個人的にも感じていることです。これまでの職場でも珈琲が好きな方って昼食後や休憩時間に珈琲を飲んで、ちゃんと一服するんですよね。家族も珈琲派で眠気覚ましもあるのだろうけれど在宅勤務時に珈琲とおやつ時間をしっかり取っていました。(私は間食にあまり興味がないから、トイレにも行かないくらい過集中になりやすいという自覚も……)

 もちろん一概には言えないけれど、困り事を抱える人が集まる場では驚くほど紅茶派が多くて……(たぶん世間の珈琲派と紅茶派の比率の真逆くらい)それが全てではないとも思うけれど、職場環境に適応するうちに珈琲派になったという話を聞いたことも何度かあるから、たとえ少数派だとしても紅茶派のままでもゆっくり一服できるようになってほしいな、と思う私なのでした。

(最近はコーヒーメーカーでも紅茶を淹れられるようだよ~>😋💕


 今回のイメージソングはチャットモンチーの『染まるよ』です。

※リリース当時は未成年だったけれど、私も一度くらいは煙草を吸ってみたいと思った一曲です。あと私も確実に染まるタイプなので🙈(でも、想いを伝えることもたぶんないかな。私は好きな人を遠くから眺めているだけで幸せ! って思っちゃうんで……)

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