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短編小説 『海砂糖』 #シロクマ文芸部

「海砂糖の紅茶専門店を見つけたんだけど、今度行ってみない?」

そう話しかけてくれたのは同期の千尋ちひろだ。

最近流行りのアフタヌーンティーの中でも、特に紅茶用の砂糖にこだわっている喫茶店を見つけたらしい。

家族間だけじゃなく、職場でも、紅茶派なのは私と千尋のみ。長年、コーヒー派に押されていた私としては、初めての同志だ。

「行く行く!」

即答しながらも「海砂糖って何だろう?」と頭をもたげる。

今ここで聞くのも野暮な気もするし、実際に行けばわかるだろうと、深く考えずに千尋と週末に行く予定を立てた。

「わあ~! ステキ!」

高台にあるその喫茶店は窓際のカウンター席から海が一望でき、感嘆の声を上げる。

「お楽しみはそれだけじゃないよ」

と、千尋はなぜか不敵な笑みを浮かべる。

この喫茶店のメニューは「海砂糖のアフタヌーンティーセット」しかないため、席につくとすぐに紅茶が運ばれてきた。

「こちらが当店オリジナルの海砂糖ティーになります。砂時計が落ちるまで蒸らしてから召し上がって下さいね」

と言われ、サラサラと流れ落ちる砂が、子どもの頃に友達からお土産でもらった星の砂を思い起こさせる。

「もしかしてこの砂時計が海砂糖とか?」
「んーどうだろうね」

と、曖昧に返す千尋の様子がいつもと違うように感じられて少し気になったけれど、次に運ばれてきた三段のケーキスタンドに、私はすぐ目と心を奪われる。

宝石みたいにきらめいて見える、サンドウィッチに、スコーンにプティフール!


 最初はストレートの紅茶とともにサンドウィッチを頂き、スコーンにクロテッドクリームをつけて味わい、そして最後にじっくりプティフールを楽しむために、私は紅茶に星型の砂糖を一粒落とし、ミルクを注ぎ入れる。

すると、琥珀色の水面みなもが白波となり砂糖がキラキラと輝きながら溶けていく。


「千尋、これが海砂糖なんだね!」

興奮する私を余所に千尋は海の景色に見入っていた。やっぱり今日の千尋はなんだか変だ。

でも、私と同じペースで千尋もアフタヌーンティーを楽しんでいるようなので気のせいかもしれない。

 私は小さなフルーツタルトにフォークを入れる。すると、フォーク越しに何かがコツンと触れた。

「やっぱり美波みなみが引いたか」

戸惑う私に気づいた千尋がそう告げる。

「どういうこと?」
「広大な海の中で美波は一粒の砂糖を見つけ出したんだよ」
「例えがわかりづらいよ、千尋。私にもわかるように話して」


「……要するに俺と付き合おうよってこと」

そう言うと、千尋は海で焼けた後のように赤らんだ顔を背けた。


 「甘ーーい!」のでしょうか? これは。
本当は別設定で考えていたのですが、途中で軌道修正し、こうなりました。

 アフタヌーンティーはイギリス発祥。美波が引いたであろうフェーヴ(陶器の人形)はフランスのお菓子「ガレット・デ・ロワ」に入っているもので、1月に食べて、フェーヴの入ったピースを食べた人は幸福な一年に恵まれるそうですよ🤭

海外のお菓子文化には敬服するところが多々あります。もちろん、日本の季節に応じた和菓子も素敵ですよね~♪

どちらにせよ、個人的には
紅茶派の時代がキター!
って思っています😋(笑)


 アフタヌーンティーについて知りたい方はこちらをオススメいたします。


 和菓子について知りたい方は、こちらのシリーズが読みやすくてオススメです♪


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