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7分私小説 『寄り道の流儀』


 私とみーちゃんには、学校帰りにいろんな寄り道スポットがある。

青々とした田んぼでスイスイ泳ぐカブトエビやアメンボを眺めたり、捕まえてみたり。

稲穂が実れば、米粒をちょこっと拝借して、自分たちでむきながら帰り、炊飯器で一緒に炊いてもらった。

「昨日のお米どうやった?」
「硬くておいしくなかった」
「うちも。何でやろうね?」
「またチャレンジしよで!」

そう言いながらも、次の日には別ルートを辿る私たち。


 一度、2mはありそうな、やたら長い柄杓を振り回しているおばあさんと遭遇して恐怖を感じたこともあり

「今日は柄杓ババアがおる……」
「一旦引き返して別の道にしよ」

と遠目から見つけ回避したつもりが、美容室の裏に頭部だけのマネキンが大量に並べられていることに気づいて

「ギャーーッ!」

と騒ぎ、庭に露天風呂を構えた家の竹垣の隙間から、入浴中のおじさんと目が合って

「キャーーッ!」

と叫んだこともあった。


 河川敷の公園で空飛ぶ限界までブランコを漕いだ日もあれば、川縁に佇み、ふやけた雑誌や、どこからか流れ着いた片っ方だけの靴下を見つけて

「カッパって本当におるんかな?」
「でも、カッパは靴下履かんよね」
「たぶん字も読めないはずやんね」

しばらくカッパ待ちをしたこともあった。


 養豚場の近くを通ると、私たちのご登場にびっくりしたのか、ブタたちがブーブー文句を言いながら、一ヵ所に身を寄せる。

「ブタって意外とビビりなんやね」
「何もしてないのに失礼なやつ!」

と負けず劣らず文句を言い合い、翌日には

「牛のゲップで地球がほろぶらしいよ」

との噂を聞きつけ、真実を検証するために、乳牛がゲップするまで、ひとしきり眺めた。

「モォオー! しか言わんやん」
「こっちが、もぉおー! ってなりそうやからあきらめるか」

 またある時には、冷凍食品工場の揚げ物の香りを嗅いでは

「これはコロッケかな?」
「ん~メンチカツかも!」
「なんで?」
「ほんのり肉の匂いが混じってる気がする」
「コロッケにも肉入ってるやん!」
「いや、もっとジューシーさを感じる」
「んーそう言われたらそんな気もする」

と勝手に品評会を行い、その近くにある積み上げられた石材のてっぺんにのぼっては

「心配ないさ~♪」

見よう見まねで交互にライオンキングを開催する。

「今日、めっちゃ声出てたで!」
「ホンマ? やったー!!」

ケラケラ笑いながら帰っていると、農家のおっちゃんに

「なんや楽しそうやな。テストで百点でも取ったんか?」

と声をかけられ、また笑う。テストよりうれしくて楽しいことが山ほどあるって教えてあげたいけど、教えない。


かと思えば、そのおっちゃんのビニールハウス近くの、水の流れが滞った水路でモグラらしきものがひっくり返っているのを発見し、そこら辺の木の棒で恐る恐るつついてみたこともあった。

「コイツ、オスやな」
「うん、ツイてるな」
「意外とツメが長くて鋭くて怖いな」
「さすが穴を掘るだけのことはある」
「かわいそうやけど、どうしよう?」
「おっちゃんが気づいてくれることを願おう」
「ごめんな、成仏するんやで」

と二人で手を合わせる。


 夕暮れ時に墓地の隣の広場で同じ自治体のおじいちゃんたちがゲートボールをしている隅っこに唯一あるシーソーに乗ってみたものの……

「なあ、みーちゃん、シーソーってこんなにおもんなかったっけ?」
「私も同じこと思ってた」
「みーちゃん今、何㎏?」
「25kg」
「私も」

まさかのまっつい(同じ体重)で、足が地面につかないまま、シーソーが平行状態で、にっちもさっちもいかなくなってしまったこともあった。

「どっちが先に下りる?」
「じゃんけんで決めよう」
「さいしょはグー!」
「じゃんけんぽん!」
「あいこでしょ!」
「勝負でしょ!」
「……もう決まりそうにないから、みーちゃん先に下りていいよ」
「わかった」

ガッコンと音を立てて、みーちゃんが下りると軽く股間に打撃を受ける。あのモグラのように男じゃなくて良かったと心のうちでひっそりと思いながら。

「おーい! 焼き芋でも食ってくかー?」

とゲートボールを終えたおじいちゃんズに誘われ、一瞬「どうする?」と顔を見合せたけれど、焼き芋の誘惑には勝てず、ちゃっかり頂くことにした。


 私の家の方が遠かったから、毎日のようにみーちゃんちで一旦休憩し、おやつ代わりに出汁用のいりこをそのまま齧る。

「この硬さと苦味がやみつきになるよな」
「ホンマ体からええ出汁、出そうなくらい」
「やめてや、うどん食べられんくなるやん」
「ごめんごめん」
「バレたらお母さんに怒られるからこのくらいにしとこ」
「そやな、そろそろ宿題せないかんし」

ようやく二人で一緒に宿題に取りかかる。

「じゃ、また明日!」
「うん、バイバイ!」


その後も私は道端に転がる謎のオレンジ色のBB 弾を拾い集めながら、やっとこさ帰途に着く。夕方になっても、近所の養鶏場の鶏は賑やかだ。


「なんでおまえの方が遅いん?」

と先に帰ってアニメの再放送を見ていたおにいに言われても気にしない。

私は毎日、大冒険で忙しいのだ。

でも、お兄には絶っ対に教えない。
私とみーちゃんのヒミツの寄り道だから。

 そんな私たちにも、一応ルールがある。

それは登校する時には絶対に寄り道をしないこと。

なぜって?

水路に流れる玉ねぎの皮と追いかけっこしながら学校に向かっていたら、危うく遅刻しかけたことがあるからだ。


 これが私たちの寄り道の流儀。


 年がら年中、半袖でも平気だった野生児時代の私小説。シーソーも嘘みたいな本当の話で、背格好まで瓜二つだった。

不審者もおらず平和な時代だったな……と言いたいところだけど、車に乗った知らない人に声をかけられたことがあったような気もする🤔(その後、カッパ観察地帯は通学路として禁止されたから、カッパではなく変質者が出現したんだとも思う……)

そして、これまでにも何度か登場している読書仲間でもあり、“ぽぴぷぺぽ以外禁止条例”を強要し絶交しかけたこともある、竹馬の友との思い出でもある。(真剣に「社会の窓」について論議し、「じゃあここは算数の窓ね!」「こっちは国語の窓!」とオリジナル窓のを作ったこともあったな~)

 脳内イメージソングは勝手に流れ出した
PUFFYの『これが私の生きる道』


 ちなみに私の十八番のカラオケ曲は
『大迷惑』だったりもする🤭うふふふふふ

(※発売時、まだ産まれてなかったわ……)

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