見出し画像

お風呂前の億劫さは、入浴後にはすっかり忘れている

特にやりたいことが無くなった。
だから金曜日の夜、衝動的にチケットを買った。行き先はどこでも良かった。
消去法でベトナムのハノイにした。

旅行の準備をするのが面倒だった。
だから金曜の夜に深酒をした。


朝は目覚ましの音で目覚めた。
出発までまだ2時間あった。
普段はしない掃除をして、素早く皿洗いをして、干していた洗濯を取り込んだらやることが無くなった。

お腹がすいていることを思い出したので、納豆ご飯に卵をかけて流し込んだ。
しなびたナスビを見て、こいつを食わずしてベトナムに行くのか、と思ったが、なんだかもう焼くも煮るも面倒くさいなと思ってそっと冷蔵庫のドアを閉めた。

旅行の準備があったことを思い出した。
なんだか楽しみになってきた自分が嫌だった。
だからyoutubeでも見てたら電車の時間がギリギリになってしまいそうで慌てて家を飛び出した。


空港のチェックインを済ますと、まだ出発まで2時間もあった。
ラウンジに入りたいなと、楽天ゴールドカードでも作ろうかと思ったが、空港に行く度に思っては忘れる話なので、結局作りはしないだろう。
ファミリーマートでコンビニ握りを食べて、シュークリームを食べて、本でも読んで、そしたら乗る飛行機のアナウンスが来た。
良いところで水を差されて、「ああ、面倒だな」と、やはり旅行は面倒だと、何故こんなにも面倒なことに金を払ったのだと、1人押し問答をしているうちに飛行機は地を離れた。

目を閉じると、ああこれはサウナだ、整うとはこのことだ、脳が麻痺して眠気に襲われる。
麻痺した脳でトリップしているうちに早々と着陸した。

日本人が多い。
会いたくない。
ぐんぐん歩数を上げて、タクシーを尻目にさっさとバスに乗って市内に向かう。

日本人はいないだろうか。
会いたくないくせに、もう日本人を探している。
そんな天邪鬼なところが自分を不可解な人にする。

市内に降り立って、座り込む。
じっと息を潜めて、道路を走る乗り物をカメラに収める。
街が自分を見ている。異国者は自分だ。
だが私もまた、街を見ている。

歩く、ひたすらに歩く。
1人で歩くベトナムの街は、それは自由極まりないものだった。
どこに行っても良い。何を見ても良い。
疲れたら座って良い。歌を口ずさんだって良い。
ベトナム、韓国、欧米、日本。
多国籍な観光客と現地民で賑わうナイトマーケット。
商品より、人を見ることが好きだ。
シャボン玉を吹く子供にシャッターを切ると、それだけで今回の旅の元が取れた気になった。

歩数計が2万歩を超えた頃、ホテルに入ってシャワーを浴びた。
眠れない。アドレナリンで眠れない。
外出すると、日本語が聞こえた。
店に入ると、男女4人組が楽しそうに笑っていた。
1人を責められているような気がして、ホテルに戻って伏せ寝した。

朝6時半に目が覚めた。
やっぱり1人は良い。
何の気なしに食べたプリンが美味かった。
日本円にすると50円。
コーヒーショップでお土産のコーヒーを選ぶ。
これが良いと言うと、日本のやつだと言われてなんだか恥ずかしかったので、高そうなジャコウネコのコーヒー豆を買ったらやっぱり高かった。

ツアー会社は来るまでが怖い。
来るか来ないかの大博打。
太ぶちメガネの小綺麗な男が声をかけてきた。
しっかり私の名前の書いた名簿を持っていた。
今回はその賭けに買ったようだ。

バスに乗って数時間。
そこからクルーズに乗り込む。
ちらほら日本人が見られる。
同席した日本人の女は綺麗な顔をしていた。
だけども手は誤魔化せない。
30後半の手をしていると思った。後で回ってきた名簿をちらっと見た時、1984 femaleと書かれていた文字が見えた。
失礼ながら小さく机の下でガッツポーズした。

生春巻きを食べた。
急すぎる階段を登って湾を見渡した。
鍾乳洞に行った。
カヌーで洞窟を抜けると、そこは静けさ漂う渓谷が存在していた。


結局何を見たなんてことはあんまり覚えていなくて、会話と風景がセットで心に残っている。


40手前にして風格のありすぎる日本人に出会ったこと。
来月は独立して3人で世界を股に営業をかけるそうだ。

店舗実装中のメゾンキツネの前で椰子の実の皮を大型のナイフでひたすら向いていた女。
どんな気持ちで店ができる様子を眺めているのだろうか。

カナダのオタワに住んでいるという韓国人の男性。
インスタを交換すると登別牧場行った写真が投稿されていた。


やりたいことがたくさんわいてきたので、帰ってから何をするかを考えながらこのnoteを空港で書いている。

あんなに面倒だった旅行が帰り際ではあまり面倒ではなくなっている。

また行こう、そう思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?