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響け!ユーフォニアム3(+α)の感想  前編:北宇治高校吹奏楽部の話

 こんにちは、fleuretです。普段はAOE2に関する記事を投稿しています。

 アニメ「響け!ユーフォニアム3」見ましたか?2015年から続く物語が終わりを迎えました。吹奏楽部の実情や登場人物の生き様をありありと描いた、唯一無二の素晴らしい作品でした。細かいとこまで繊細に描かれていて、もはや「北宇治吹部そこ現実に在り!」と言っても過言ではなかったです。
(他の人の感想とか見てると、新たな発見があり過ぎてキリがないです)


 せっかくなんで感想書きます。とはいっても私は「感想書けないわ。本編見な!」っていう性格。言葉では書ききれるはずがないので、北宇治吹部は吹奏楽部組織としてどうだったのか、という観点で描こうと思います。あまりまとまってない上に感想とは少し違う気もしますが、お付き合いいただけると嬉しいです。前編はアニメ「響け!ユーフォニアム」を見ての感想です。なお私はアニメは見ましたが原作はまだ全部読み終えていません。

 後編記事ではおまけとして自分の経験に関する話をしようと思います。こちらも組織としてどうかという点を主眼に書いています。吹奏楽部は中学、高校、大学と経験し、高校では途中から地域のジュニアオーケストラ団体に所属していました。中学と大学では支部大会への進出も経験しています。気が向いたら見てやってください。

後編はこちら⇒後編:fleuretの吹部経験の話


 以降、「響け!ユーフォニアム」シリーズのネタバレや私的感想を含みます。まだ「響け!ユーフォニアム」を見ていない方、イメージを壊したくない方はブラウザバック推奨です。



強さを目指すこと

 ここでの強さとは演奏技術の向上を指します。滝先生はそれが全国金賞、及び楽しい音楽に繋がると考えていますが、これには議論の余地があります。後編で話しましょう。


 物語の始まりは滝昇という顧問の登場でいきなり大きく動きます。それまでは「1年生を主流とする上を目指したい派」と「3年生を主流とする自由にしたい派」で対立があり、多くの実力派部員が退部してコンクールの成績も振るわない状況でした。しかしそこに滝先生が登場し、クソうざい指導を通じて部員のやる気を引き出し、全国大会出場を後押ししました。

 反抗心を焚きつける冷静な指導、そこに演奏法などの正しい知識が相まって、北宇治高校は全国銅賞を手にしました。(ただ関西大会で他校のソロのミスもあったので、ある意味まぐれともいえるかもしれません。2年目が関西ダメ金でしたが、前年度より劣っていたのかというと微妙なところです)

 強さの秘訣は滝先生らの指導、お手本となる生徒の存在、生徒のやる気、でしょうか。個々のやる気というエンジンと指導というハンドルが合わさったことが功を奏しました。


 「顧問が変わって強豪校/弱小校になった」みたいな話は吹奏楽界隈ではよく聞く話ですが、裏を返せば適切な努力で誰でも上達できるということでもあります。問題は本人のやる気と、適切な知識とその適応、楽器などの環境などでしょうか。中学時代は「プロの音・吹き方はどういうイメージか」なんてことを私はよく考えてました。



初心者支援

 初心者支援はどうだったでしょうか。チームもなかや一年指導係など、初心者にも居場所を与える一方で、オーディション次第でコンクールA部門にも出場できるという両取りの構えでした。普段は初心者同士もしくはオーディション落ちの先輩達と一緒、小編成のB部門に向けて練習します。基礎合奏や地域の演奏会では全部員で練習、演奏してましたね。サンフェスの時期に初心者どうこうでいざこざが発生したりしましたが、個別のメンタルケアにより解決しました。義井沙里関連の件でしれっと麗奈がサンフェスの練習成果を誉めてるのがいいですね。


 初心者に居場所や目標を与えるという方針は実際によく用いられる手法でもあります。初心者だけで特定の一曲を練習して演奏会で発表する、簡単なダンスなどで演奏会を盛り上げる、などが多いです。またコンクールで打楽器運搬等の手伝いもやったりします。「やってみよう」の精神、大事ですね。



ハードな指導とパワハラ

 全国に行くには熱心な練習が欠かせませんが、ときに問題になるのがパワハラです。滝先生は怒声を浴びせるタイプではありませんが、麗奈は少しパワハラ気味でした。実際めっちゃ怒声浴びせるような指導をする吹奏楽部もたまに存在します。では全国レベルの演奏にはそのようなパワハラ指導は必要でしょうか。

 答えはNOです。全国に必要なのは知識と経験に裏付けされた技術力であり、精神力ではありません。むしろパワハラ指導では精神力も弱まります。先生と生徒、先輩と後輩で知識や認知度合いに差があるのは当然であり、そこを叱ってもどうにもなりません。練習に必要なのは改善であり、叱るかどうかはただのファッション要素です。

 多分パワハラ指導とセットになりがちなのが根性論でしょう。「100回1000回10000回繰り返し練習しろ」みたいなやつですね。精度を上げるにはいいかもしれません。しかし重要なのは「どうしたら上手くなるか」を研究することです。悪い状態で単に100回繰り返しても悪い状態のままです。改善した状態を繰り返し練習して定着させて初めて反復練習の意味が出るのです。
(夏合宿の「もう一度!」のアレは大丈夫です。合間合間に指導を挟んでます(*^_^*))

 全国常連校である精華女子高校・活水高校の吹奏楽部顧問だった藤重佳久先生も、「笑顔は心のビタミン」をモットーに楽しむことの重要性を広めています。作中で麗奈の指導法が少し柔らかくなった背景には久美子や滝先生の存在や指導法に関する本・メディアなどの影響が大きかったのかもしれません。



辞めるのを見送るか、引き留めるか

 今作では退部に関する話がいくつかありました。久美子が入部する前には上級生との対立で1年生達が集団退部しました。1年次では斎藤葵が自責の念に耐えかねて退部しました。一方で退部した傘木希美は鎧塚みぞれと復縁して復帰。2年次には加部友恵が顎関節症によりマネージャー業に異動。3年次には1年生でつらくて辞めたいという人がいて、そのサポートに義井沙里は心が折れかけました。

 部活という以上は何かしらの目的をもって集まることになり、合わないと思えば辞めるのが自然の流れです。「辞めたいと思う子は辞めさせてあげるのがいいよね」っていう黒江真由の考えはもっともです。(当の真由は自分で言ってて何か思うところがありそうですが)
 一方で義井沙里や1年生は辞めさせるべきではない子でした。他の先輩方は基本的に「辞めたいから辞めた」という人ばかりです。傘木希美も「この部にいてもしょうがない」と思って辞めて一般の吹奏楽団に移籍しました。しかし義井沙里や他1年生は「辞めたくないけどつらい」という考えでした。「やりたいけどつらい」のであれば、何かやり方がまずいのかもしれません。その方向に舵を切ったのが当時の久美子ら幹部でした。

 去る者追わず、されど可能性は捨てず。これが望ましいスタンスなのでしょう。




オーディション

 物語内ではオーディションで度々問題が発生します。コンクールA部門の人数制限は55人、人数が多ければ出場メンバーを厳選する必要があります。曲に合わせたパートごとの人数調整も必要です。大抵は2,3年優先になりますが、ときに下級生による下剋上も発生します。


 1年では高坂麗奈vs中世古香織のソロ対決がありました。2回目のオーディションでは香織に票が集まっていましたが、この時はまだ年功序列を重視する今までの風潮が残っていたのでしょう。麗奈の音を聞いて香織自らソロを辞退し、優子が泣き崩れるシーンはグッときましたね。

って思ってたのですが、当時の感想ブログとか見てみると「2票ずつしか集まってない。香織に選択肢を迫る先生酷い!」みたいな意見を見かけました。
 「え?香織に票集まってたでしょ?」って思って見返してみるとビンゴ。香織がソロを吹き終わった後に拍手が発生しています。麗奈の後にはありません。麗奈の演奏時には各部員が驚く姿が描かれています。
 香織の演奏聴いて「さすが先輩、かっこいい!」って思って拍手したのに、麗奈の演奏聴いて「なにこれ、本当に1年生?プロレベルじゃん…」と絶句したんですね。だから香織に投票したくてもできない。かといって麗奈に入れるのは先輩に疎まれそう。その結果互いの支持者だけが称賛の拍手という形で投票する形になったんですね。
 とはいえ同票数では決着がつかない。だから拍手のあった香織にソロを吹くか再確認しました。香織を選べば「実力で選ばないのか」と、麗奈を選べば「拍手されてたのは香織でしょ」と批難を受けますからね。香織への信頼も踏まえて、「貴方の方が支持が高そうですが、どうしますか?」と聞いたのです。


 2年ではオーディションにトラウマを持っていた久石奏が一悶着を起こしました。一概に実力主義が広く認められているわけではありません。学校によっては(特に中学は)年功序列の考えが強かったりします。まあぽっと出の下級生に実力超えられたら悲しいですもんね。
 アニメでは中学で奏が先輩を差し置いて選出されたとなっていますが、小説ではその頑張り屋の同級生の席を奪ったと、選ばれなかった人が変わっています。どう評価するかという話はチューバの鈴木みれいの話にも関わってきますが、実力主義と努力主義は相反すると言っても過言ではありません。必要なのは努力ではなくひらめきです。しかし部活は成長の場という性質もあるため、実力よりも努力を評価することもあります。

 最後は久美子によるサポートでなんとか持ち直すことができました。現実ではよく「相談が大事」という話が出てきますが、そんなに単純な話ではありません。例えば奏のように優秀で周囲を警戒している人は、安易に相談せずに自分で解決しようとします。相談するより自己解決するのが早いのです。人によって知識や考え方は千差万別なので、「相談すれば良かったじゃん」では済まないこともあるのです。(それで相談せず自滅されても知らんがなって話ですけどね)



今期のオーディション

 3年では宿敵黒江真由との争いが発生しました。彼女の出身校である清良女子高校のモデルは先述の福岡の精華女子高校であり、座奏・マーチング共に日本トップの成績を長らく残しています。そんな環境にいた彼女が本気を出し、ソリの座を見事勝ち取りました。元々は転校生ごときが北宇治吹部の和を乱したくないと消極的でしたが、久美子の後押しにより積極的に動きました。

 さて、なぜ黒江真由が関西・全国大会のソリに選ばれたのでしょうか。確かに清良での経験もあるでしょう。しかし真由と久美子の実力はほぼ同等ともされています。本当に彼女自身の実力だったのでしょうか。それとも滝先生や麗奈の気の迷いでしょうか。


 ここからは私の推測ですが、ソロには技術に加えて観客を引き込む力も求められます。審査員もいいソロには「ソロgood job!」等と書いてくれたりします。1年次にトランペットソロを香織が麗奈に譲ったのも、麗奈の演奏に魅力があったからのように思えます。
 では今回のソリはどうでしょうか。魅力という点で言えば自身のソロの魅力に加え、トランペットとの掛け合いにも焦点が置かれます。ソリというのはソロの複数形であり、トランペットとユーフォの掛け合うメロディに観客がどれだけ引き込まれるかが重要なのです。


 最終オーディションを聞いてみましょう。初見で聞いた感じでは、①はおとなしめな印象、②は積極的な演奏ですね。聞いたとき私は②のが魅力が出てて良いと感じました。
 しかし麗奈が選んだのは①です。それも②が久美子だと分かった上で選びました。彼女にとって①のが良かったわけです。


 もう一度聞いてみましょう。

①テンポや音程は正確。しっかりトランペットにシンクロしているが、ユーフォの音がトランペットの前に出ることはない。常にトランペットの後ろで見守っているという印象。
②テンポや音程は少し不安定。しかし後半特に主張が強めでトランペットと対等に並んでいる印象。どこでどちらが主旋律かを意識している。

 正確に控えめにという①。多少乱れても観客を引き込もうとする②。やっぱブラインド効果で両者ユーフォの音少し曇らせてるんですかね。


 このソリは「一年の詩 〜吹奏楽のための」の第3楽章~秋~のオープニングです。作曲者の父親との思い出を基に作ったと言われていましたね。ソリの場面で急に転調して空気変えてくるので、初見ではびっくりしました(確かに全国大会に行かない限り、吹奏楽部は夏と秋で空気ガラッと変わりますが)。

 前半はトランペット主旋律の明るめのメロディ、後半はユーフォ主旋律の温かみのあるメロディ、最後は両者綺麗なハーモニーで終わり、木管の演奏に引き継がれる、そういう構成です。
 皆さんこのソリにどんな光景を浮かべるでしょうか。私は落ち葉の絨毯の敷かれた公園を父子が散歩しているような風景を思い浮かべます。熱い親子愛というよりかはしっとりとした日常風景みたいな感じですね。

 この曲は流れが速いです。時間制限9分という制限もあり、各季節が2分程度ずつで組み合わさっています。(私的には速く感じたんですが、皆さんはどうでしょうか。原版で30分ぐらいかかる曲を想定していたんですが、組曲の聴きすぎですかね)
 春と夏はアップテンポでがっつがつ、秋と冬はローテンポでしっとりと。その秋冬の最初の場面がソリになります。


 改めてオーディションの演奏を思い返しましょう。技術面で言えば、①の方がテンポが軽快で吹きやすく、音程の乱れも小さいです。一方で掛け合いの魅力が大きいのは②です。

 ただ①は「父子のささやかな思い出を振り返る」、②は「冬のアンコンに向けて練習している、その帰りの2人の思い出」。そんな感じがしませんか?秋の導入なら、静かな方がいいと思いませんか?


 まとめると①の方が安定感と軽快感があり、曲のイメージにも合う。真由は曲に対する理解力が長けていて、それゆえにソロを任されやすいのだと思います。
(センスというのは先天的なものと捉えられがちですが、私は後天的な部分も大きいと思っているので、久美子が挽回できる可能性はあったと思います)

 まあ一回聞いただけでここまで頭が回ることはあまりないでしょう。どちらも上手い。そして久美子と真由、どちらがどちらかはわかっている。その上でどちらが良いか。全国大会金賞にふさわしいソリはどっちか。
 そこで上記のようなことを言葉ではなくイメージで、直観で考えたのでしょう。①の方が軽快感、安定感が良く、曲のイメージにも合う。奏者の視点から僅かな差異を察知し、より上手いと判断した①を選んだのでしょう。


 1年のソロ再オーディションを覚えていますでしょうか。久美子はたとえ
周囲に恨まれようとも麗奈を評価しました。しかし今回は麗奈は久美子を選ばなかった。音楽に逆らうことはできなかった。
 特別な2人であるために努力してきたのに、それは叶わなかった。その想いが12話で膨大に溢れたのでしょう。


他の感想で見かけたのですが、確かにこれ「リズと青い鳥」ですね。

 2人の絆が固すぎたんですね。(*´ω`*)

(真由の柔軟性が高いとも言えます)


 レベルの違いと滝先生は見抜けなかったのかという点ですが、ソロ単体の上手さと麗奈含むソリの上手さは違います。正確に吹けても麗奈と合わなければ意味ありません。そのためソリ合わせた状態で判断したいというのがひとつ。2人とも一定以上の実力はあるというのがひとつ。
 加えて前のオーディションでのごたつきを経験済みです。橋もっちゃんの「楽しんでこその音楽」という言葉は多分先生の中でもかなり考えさせられた言葉でしょう。実力主義と楽しむ主義、どちらも共存できる道を考えた結果が、一昨年もやった部員による判断なのかもしれません。

 なお久石奏が落選したという編成上の理由は理にかなっています。低音金管楽器という立ち位置のチューバは、倍音の多い豊かな響きでバンド全体の響きの幅を広げる役割を持ちます。京都府大会で低音が弱いと見た滝先生は、ユーフォパートを減らしてチューバを増強したのです。その恩恵は特に曲の最後のところで生かされていますね。

(トランペットやトロンボーンなどの他の楽器は、1st,2ndなど同じ楽器で違う音を吹いてハーモニーを作ってたりするので、単旋律のユーフォ以外はあまり減らしづらいという事情もあります。同じ単旋律のオーボエファゴットコントラバスなども音が小さいので減らしたくないですね)

 見方を変えれば久石奏の居場所を奪ったのは黒江真由です。くみかなの間に入り、ソロまで掻っ攫いました。奏が久美子と一緒に全国大会に出場することも、全国大会で久美子のソロを聞くこともできません。酷い場合では「あなたなんて来なければよかったに」と言われたかもしれません(言わなかった奏ちゃんはやっぱいい子ですね)。
 別の言い方をすれば、目標のための犠牲、コラテラルダメージともいえます。くみかなはコンクール全国金賞を主目的に置き、くみかなの2人で吹くことを諦めた。真由は楽しむことを主目的に置いていたため、何度もオーディション辞退を申し入れた。ここは当人たちの目的設定に委ねられるところでしょう。

※12話の回想みたいに楽器落としちゃだめですよ!
真鍮は柔らかくて一瞬でへこみますからね!
50万円ぐらいするユーフォの音の響きががっつり変わっちゃいますよ!


オーディション複数制はありか

 さて、オーディション複数制は効果的だったのでしょうか。私は否定的に感じています。

 選抜メンバーは次のオーディションがあってもなくても、コンクールに向けて熱心に練習したことでしょう。「去年はオーディション後の油断が大きかった」ということらしいですが、練習してなかったわけではないでしょう。必要なのは努力よりも工夫です。

 落選したメンバーは合奏に参加していない期間があるので、途中で選ばれると他のメンバーに追いつくまで苦労します。また「次のオーディションで落ちるかもしれない」そう焦りながら練習するのは精神的に良くありません。つまりは単に競争ムードが強まるだけなのです。


 プラスの面をあげるとすれば、編成変更がしやすくなった点でしょうか。滝先生は気が強い方ではなさそうなので、せっかくオーディションに受かった子をオーディションなしにメンバーから外すことは難しそうです。

 オーディション複数制にするのであれば、ほぼ必然的に「毎回0から作り直そう」「大会ごとに違う演奏を、1回1回、その時々で最高の演奏をしよう」という話になると思います。メンバーが変わる関係上、合奏練習の蓄積や全体の音色が変わるからです。その意味では演奏を振り返る時間ができたりしてありかもしれません。

 すべての演奏・練習が聞けないので実態はわかりませんが、険悪ムードと引き換えに演奏の分析が進んだということなのかもしれません。



 実際のオーディションには様々な形があります。皆がいる中で顧問が聞いて判断する場合もあれば、匿名制で部員が判断する場合もあります。もちろん年功序列というやり方もあります。ソロはオーディションではなくパート内で決めるという方法もあります。

 二昔前の話ですが、大阪府立淀川工科高校(明静工科高校のモデル。丸ちゃんこと丸谷明夫先生(月永源一郎先生のモデル)が指導していた高校で、初心者の多い強豪校として有名)では、匿名制で後ろを向いて聴いていた部員たちが多数決で合否を判断していたみたいです。12話の最終オーディションみたいな感じです。部員の耳を育てる方針ですね。

(やった後で先生が「お前ら本当にこの中に合格者おったか?考え直せ」と厳しい指導を入れたりすることもあります(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル)


 オーディションせずに人選変えることもあります。合奏中に「お前ソロ吹いてみろ」と指示し、良かったら「本番お前がソロ吹け」といきなりソリストを変更します。ユーフォ減らしてチューバ増やすみたいな編成の変更もあります。外された人は泣いてリベンジに向けて練習し直し、勝ち上がった人はうれしいながらも気まずさを覚えるイベントです。まさに実力主義の風景と言えるでしょう。

 ま、人数少ないとオーディション自体なかったりするんですけどね。




アンコン

 人を選ぶという点ではアンコンも似ています。特定の編成を狙ってあの子を勧誘、あの子をお断りなど、恋愛にも似たバトルフィールドが展開されます。
 ここでハブられ者を出さないという久美子の計らいは控えめに言って神でした。最初は大丈夫と思っていても、ハブられたときの疎外感は意外とつらいものです。誰も仲間外れを出さずにアンコンオーディションに出場させた点は当時の部員としてもきっとありがたかったことでしょう。(この話は後編の大学編で話しましょう)

 麗奈に管打8重奏を提案したトランペット1年の小日向夢には、原作の方で熱いエピソードがあるそうで、実力も麗奈に認められる程のものを持っています。2年編は映画2+2時間に収めた影響で取りこぼしも多いので、ぜひとも原作読みたいところですね。眼鏡に三つ編みサイドテールっていいよね。


 ちなみにここでクラリネット4重奏が代表となって関西大会にまで進出したのが3期の伏線にもなっています。「今年の北宇治はクラリネットが上手い、ならば上手いクラリネットの音で自由曲冒頭から好印象を持たせよう」そういう理由で自由曲「一年の詩 〜吹奏楽のための」が選ばれました。吹奏楽コンクールでは最初の1音で結果が8割方決まると言われる程、ファーストインプレッションが重要なのです。




余談

 ところで皆さん気づいたでしょうか。私は気づきませんでした。

 3期第1話冒頭。先生の教卓に始まり、ちょっと老けているような美知恵先生、桜、定番曲となった昭和の課題曲ディスコ・キッド、緑リボンの学指揮、髪型に違和感のあるユーフォの子、そして起きる久美子。

 3期での学指揮は麗奈です。アンコン編でも文化祭で指揮していましたね。久美子の髪型はふわふわヘアーですが、冒頭のユーフォの子はストレートヘアーです。そして先生の教卓にある写真立ての写真は良く見えません。

 原作の該当シーンでは、美知恵先生ではなく北宇治3年目の某先生が教頭先生と話をしています。アニメ版では久美子入学が2015年という設定なので、2024年、まさに今年ということでしょうか。


 「北宇治高校吹奏楽部へ、ようこそ」(ここすき)


 最終回関連で言えば、冒頭の「5日前~1日前」のあのシーン好きですね。まさに吹奏楽部の日常って感じの風景です。普段通りに、でも真剣に練習しているうちに、いつのまにか本番が来る。あの感じはわくわくしますね。
 全国大会があるのは名古屋の国際会議場センチュリーホール。北宇治からは離れているため、一日前の現地入りでカレーを食べてます。3番というと9時ぐらいになるので、前乗りしておかないと時間がないんですね。

 本番中の回想シーンはウィーンフィルのニューイヤーコンサートの放送を思い出しました。季節ごとの思い出を思い起こさせる演出は見ごたえがありますね。


名言

名言集です。うろ覚えです。滝先生要素多めです。ご了承ください。


「なんですか、これ」

 度々出てくる、部員を焚きつける言葉です。実際の吹奏楽部でも似たような光景はあります。「1人ずつやってみて」「できてない。部屋出て練習してこい」「全然練習してないじゃん。今日の合奏終わり」などなど。
 もっと練習しなきゃと慌てさせる半面、なんだよあいつと苛立たせたりどうすりゃいいんだよと困惑させたりする効果もあります。用法用量は守りましょう。


「めんどくさいなー1年生」

 2年生になった久美子の心の声です。全吹奏楽部経験者が頷いているかもしれません。


「大人というのは環境によるものなのかもしれません」

 すごいしっくりきますね。失言王久美子に対する、滝先生の大人に関する考えです。大人ってしっかりしてるようで、実際はただの大きな子供。その違いは責任ある立場にいるかどうか、それと年齢です。これはのちのオーディションに関する伏線でもありますが、我々の知り得る成長などどんぐりの背比べのようなもので、その上にさらに天高く伸びしろが無限に存在しているものなのかもしれません。


「私が連れていくのではなく、あなた方が全国に行くのです」

 失言王久美子に対する滝先生の返しですね。オーディションの鈴木さつきの件で「先生、本当に私たちを全国に連れて行ってくれるんですよね」の返答がこちら。赴任当初から「お前らが全国行くんだぞ」と常々言ってますね。

 このセリフ、私は引っかかるんですよね。全国を目指すのは部員たちですが、指揮兼指導者である先生もまた全国を目指す存在です。素人からすると「指揮っているの?」と思われがちですし、実際マーチとかなら指揮者いなくても演奏できます。しかし指揮者には演奏をまとめ上げ、音楽の魅力を引き出す役割があります。指揮者が変わるだけで演奏が一瞬で変わるなんてザラにあります。先生も含め全員で全国を目指すのが正確な表現なんじゃないでしょうか。

 ま、先生なら理解していることでしょう。


「楽しむ音と書いて音楽、ですよね」「本当にわかってるぅ?」

 ぞっとしましたね。((((;゚Д゚))))
 普段はお茶目な橋もっちゃんが刺してきたクラゲの針。滝先生と長い付き合いだからこそ察知も早かったのでしょう。

 滝先生は「コンクールとコンサート、どちらの演奏もベクトルは同じで、いい音楽がコンクールで上に行く」と考えています。「コンクールのためだけに取り繕った音楽」などないし、あっても評価されないということですね。
 じゃあコンクール全国金賞の音楽はすべて聞いてて楽しいのかというと、私はそうは感じません。「確かに正確な演奏で圧倒されるけど、おもしろくない」という演奏もあります。後編で詳しく話しましょう。

 上へと導くのに必死な滝先生とバンドの暗い空気、それを見ての橋もっちゃんの反応でしょう。楽しんでこその音楽です。


「吹奏楽部って賽の河原積んでるみたいだな」「石じゃないよ、人だよ」

 関西大会が終わって久美子と滝先生の話。滝先生が大学時代に彼女から指摘されたことを話しました。「1年積み上げてきたものをまた積まなきゃ」ではなく「人から人に伝統を受け継いでいくんだよ」という、吹奏楽部の価値に関する話でした。2期最後の滝先生の「毎回やり直すのが楽しいんじゃないですか」というセリフにも繋がりますね。

 昨年は関西大会で夢が潰えました。今年は無事に突破できました。まだ指導に不安を抱えている滝先生ですが、それでも北宇治の皆とここまで来れたことへの感謝のセリフということでしょう。
 加えて久美子がソリ降格しての関西突破でした。目の前の久美子は微妙な面持ちです。その原因であるオーディション複数制は上述の通りやり直しの要素を含んだ制度です。「関西大会のソリの素晴らしさは2人の実力だけではない、京都府大会までのノウハウも受け継いだ上で仕上がったものだ」という励ましのメッセージでもあるのでしょう。


「彼女の言葉を信じることにしました」

 あれ、これは「葬送のフリーレン」ですね。めっちゃ面白いので見てない方は是非見ましょう。

 仲間というとしっかりコミュニケーションをとって連携するのが基本と考えがちですが、実際のところ「自分の仕事をするだけ」みたいな側面もあります。吹奏楽でもそうです。自分のパートを正確なリズムと音程で演奏できれば、他の人のパートと合わせることでまともな演奏をすることができます。
 ただ。他人の音を聞いて演奏していたら必ず自分の音が遅れます。かといって全く聞かなかったら一人だけテンポが速くなったりします。これだ、という音程・テンポ・フレーズ・和音・音色・空気感、そういったものを「仲間と同時に」提供する。時には異なる空気が融合して化学反応を起こす。そういったことが良い演奏に繋がります。

 少人数のアンサンブルだと一層実感することでしょう。個人の働き、個人の好き勝手の重ね合わせがチームワークなのです。




 以上、響け!ユーフォニアム(アニメ)の感想でした。唯一不満があるとすれば1クールという尺の短さですが、それでもここまで上手くまとめた京アニには脱帽です。
 原作ではアニメに乗せられなかった話や短編集、南中カルテットや立華高校のエクストラエピソード、つい先日発売の最新刊のエピローグなど気になる噂をたっぷり聞いております。たっぷり読んでいこうと思います。

 後編は自分の吹奏楽部の経験を書いています。中学で全国目指した話や高校の酷すぎた吹部の話、大学でのいざこざの話です。よければ見てやってください。

では、またね(。・ω・)ノ゙


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