その名はライカ。
初めて手にしたライカは X Vario (Typ107)。
「APS-C サイズのセンサーを持つ RAW で撮れるコンデジ」を探していた頃に偶然出会ったカメラである。2013年に発売されたカメラだから当然中古だったけど、値段は……エントリーモデルのフルサイズカメラが新品で買える程度には高かった。けれども、カメラ好きなら一度は憧れるであろう赤いバッジと、その洗練されたスタイルは見逃しがたい。
( こんな高いコンデジ買ってどうするの?)
脳裏に響く正論に両目と両耳をふさぎながら、私は清水の舞台から真っ逆さまに墜ちていった。
Leica X Vario に搭載された「Vario-Elmar 3.5-6.4/18-46 Asph.」というレンズは、お世辞にも明るいとは言えない。
35mm 換算で 28mm~70mm の焦点距離、ボケ量に関して言えば 35mm 換算で F5.0~F9.0 といったところだろう。ボケないレンズをもつカメラ。けれどもしかし、
ボケに逃げないで正面から勝負しなさい。
という開発者の声が聞こえてきそうなカメラ。その名はライカ。
背面にある3型92万ドットの液晶モニターは暗くて見づらかったので、外付の電子ビューファインダーを用意した。ライカ純正のビューファインダーは新品で65,000円、中古でも3万円以上したけれど、世の中には捨てる神がいれば拾う神も存在する。X Vario 用のビューファインダーはオリンパスの OEM だったのである。
「LEICA」のロゴが入った「EVF2」は高いけど、「OLYMPUS」ロゴの「VF-2」なら新品でも2万円しない。私が購入したのは、だからむろん後者である。
X Vario の写りは、素晴らしいのひとことに尽きた。
「RAW で撮れるコンデジ」を探してここにたどり着いたけれど、RAW 現像する必要をまるで感じなかった。だから、以下に掲げる5枚の写真はすべて JPEG の撮って出しである。
ゾクッとするような立体感と空気感、ため息が出るほどの線の細さと色あい。もうカメラはこれだけでいいんじゃないか、とさえ思った。
ずっと使っていられるカメラだった。
ずっと使っていきたいカメラだと、そのときは思った。
その後、何か月にもわたって忙しい日々が続いた。
こんなにも仕事に追われるのは数年ぶりだった。休める日がほとんどなかった。だから、
( こんなにがんばって仕事してんだから、なにかしらのご褒美があってもいいよね……)
などと考えるおかしな自分がいても、全然おかしくはなかった。
いや、今から考えると、やっぱりそのときの私はネジが数本飛んでいたのかもしれない。笑
その頃の私は自分にしっくりくるフィルムカメラ探しの旅を終え、レンジファインダーこそが正義、なんて感覚に囚われていた。めぐりあった Leitz Minolta CL 海外では「Leica CL」として1973年に発売されたそれは、私にとって大のお気に入りのカメラになっていた。
二重像合致方式によるピント合わせは一眼レフによるそれと比べて精度も低いし、どんなにがんばってみたところでパララックス(視差)が邪魔して思いどおりのフレーミングにはならない。ブライトフレームはあくまでも目安。目の前に広がる景色を切りとるという行為に対して、あまりにも曖昧なカメラである。
けれども、その曖昧さが大好きなのだ。
深く考えなくたっていいんだよ。 自由に撮っていいんだよ。
正確無比を追求し続ける現在のデジタルカメラと違って、そんなふうにレンジファインダーカメラは語りかけてきてる気がした。
デジタルなレンジファインダーカメラがたまらなく欲しくなった。レンズはすでに手元にある。
そうして私は、X Vario を売却してさらに高額なM型ライカに走るのである。
Leica M (Typ240) を選んだのは、当時発売されたばかりの M11 も前の機種である M10 もかなりの高額だったせいもあるけど、それ以上にビゾフレックス(電子ビューファインダー)が高すぎたから。
まん丸くて不格好なビゾフレックスが中古価格で約5万円、四角くてさらに不格好なビゾフレックス2だと10万円以上もする。「カメラに10万円以上出すなんてバカげてる」とかつては思っていた私である。そんなモノに5万円以上の価値があるとは到底思えなかった。
だから Leica M (typ240) を買った。もちろん中古で。
うれしいことに、発売時期がほぼ同じだったせいか、X Vario で使っていたオリンパスの VF-2 が M (typ240) でもそのまま使うことができた。なんと見事なまでの伏線回収だろう。笑
長くなってしまうのもアレなので詳しいレビューはいずれさせていただくとして、そんなわけで今、私の手元には Leica M (typ240) がある。
X Vario で体感した身ぶるいするほどの立体感と空気感、ため息が出るほどの線の細さと色あいは、M (typ240) でも健在だ。
オートフォーカスも手ぶれ補正もないくせにパララックスは存在する。ピントの精度が悪いくせに寄ることもできない。現代のデジタルカメラにしてはあまりに不自由すぎてあまりに高すぎるカメラ。
けれども。
それを差し引いても十分なほどにおつりがくるカメラ。写真を撮るためだけに出かけたくなるほど魅力満載の楽しいカメラ。
その名がライカ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?