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褒め言葉は鈍器みたいで

「雰囲気イケメンですねって言われたんだ!」
 彼は興奮気味に話す。でも裏を返せば、「イケメンじゃないですよね」と真正面から言われてるのと同じだよなと。イケメンだと思っていたなら、わざわざ”雰囲気”という修飾をしないと思うから。そんな心の声が漏れないように細心の注意を払いながら、「良かったやん」と言った。彼は嬉しそうだった。

 イケメンが全てかと言われたらそれは違うと否定をするが、イケメンじゃないですよねと言われるのもなかなか酷である(彼は言われてないけど)。

「あなたも雰囲気イケメンになれる!」という広告を目にする機会が多くなった。うるさいなと思っている。雰囲気なんて出そうと思えば誰でも出せるでしょ。皆が同じ方法でそれをやったら、同じような奴が量産されるだけじゃん。アイデンティティも薄まるし。何よりも自分らしさを大事にしたいとぼくは思っている。

 外見だけで判断せず、内面を見てくれるような女子がいればいいのに。女子はイケメンにしか興味ないからなあ。女子のフィルターにぼくが映ることはなさそうだ。

 誉め言葉って鈍器だよな。誉めて相手を気持ちよくさせるものであり、そんなわけねえだろ、と軽く傷付けるものでもある。他の人は違うのかもしれない。でも、ぼくはそうだった。

 「私さ、前と違うところあるけどどこだと思う?」と聞いてくる人がいた。てめぇに興味ねぇよと思いつつ、何か言わないとその場から解放されないような気がしたので、頭をフル回転させて以前と変化したと思われるところを探す。

 考えてタモリさん風に「髪切った?🕶」と言う。「正解~。どう?かわいいでしょ?」と追い打ちをかけられる。かわいいなんて微塵も思ってなかったが、かわいいって言わないとラリーが終わらなさそうだったので「あーかわいいよ」と誉め言葉の鈍器で相手を殴る。その人が嬉しそうな顔をしている間にその場を離れた。

 誉め言葉って難しい。相手の機嫌がよくなるようなことを言わないといけない。たとえそれがぼくの思っていないことだとしても。いわゆる建前ってやつ。本音をストレートに言えたら楽なんだけど。

 衝突が起きるのがだるいと思って、嘘をつき、鈍器で殴る。ぼくは数えきれない程、相手に気づかれないうちに鈍器で殴ってきた。これからもぼくは鈍器で殴り続けるのだと思う。相手が不機嫌にならないように、気持ちよくなるように。

 僕は昔から人のことが信用できない。本当に心を開いている人以外は。話をしていても当たり障りのないことを話し、相手の下に入ろうとする。ぼくは自分のことをあまり知られたくないから。探ってくる人には適当に流したり、スカす。

 だから友達と思える人も少ない。ぼくは友達はたくさんいる必要はないと思っている。本当に必要なのは友達ではなく、腹を割って話せる信用できる人だと思っているから。

 広くて浅い交友関係よりは、狭くて深い信頼関係のほうがいい。広くて浅い交友関係を持っている奴ほど危ない奴はいない。ほとんどはいい人なんだろうけど、怪しい奴ともつるんでることがあるから。そういう奴は怖いなと思う。

 そろそろ12月。今回は無事に帰省できそうだ。もしかしたら、高校や中学の同級生たちと会うことがあるかもしれない。腹を割って話せたり、笑える人たちと会えたら嬉しいな。逆に気を遣ったり、誉め言葉の鈍器で殴らないといけないような人とは会いたくない。単純に面倒だから。そんな奴とつるむ時間が勿体無いから。

 だからこそ、会いたいと思っている人からの「いつ帰省するの?」「帰省したら食事でも行こうぜ」という言葉は凄く嬉しい。早く帰省したいなって思えるような人と高校や中学で出会えたことは奇跡だと思っている(なんかダサい)。

 本当に大事な人との縁を大切にしたい。誉め言葉の鈍器なんかいらない、かけがえのない人たちとの縁を。



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