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ツナグ2

人物
川中朝陽 (17)陸上部主将、高校三年
小林大雅 (17)陸上部員、高校三年
前田晃 (18)陸上部員、高校三年
山平聡志 (18)陸上部員、高校三年
山尾一希 (19)大学一年、川中たちの先輩
北村康二 (19)大学 一年、川中たちの先輩

男子陸上部員20人程

2からの続き

○同・校門
山平は自転車をひいて歩いている。山平の横を川中、小林が歩いている。

山平 「じゃあな」
山平が自転車で帰っていく。小林と山尾が見送る。
小林 「山平はまだいいよ。前田に最近、会えてない」
川中 「うん、俺も」
小林 「あいつが一番、大会が無くなってショック受けてたもんな。もう走ってもないみたい」 川中 「お前は自主練してる?」
小林 「夕方ランニングはしてるけど、やっぱりグラウンドで走りたい、リレーやりたいよ」 川中 「俺だってだよ」

○川中の家・外 (夕)
玄関からランニング姿の川中が出てくる。ストレッチをしながら徐々に走り始める。

○川辺の道
川中が走っている。後ろから山平が走ってきて並走する。スピードを上げる山平、ついていく川中。二人は笑っている。橋から二人の様子を見ている人影 (前田)。

○川辺の道の脇にあるベンチ
息を切らした川中が座っている。山平がペットボトルを差し出す。
山平 「お前、スピード落ちたんじゃねー」
川中 「うるせーよ」
ペットボトルの水を飲み、山平に返す。
山平 「さっき部室で話してたこと、やっぱり考えちゃうんだよな。俺ら四人だったらどこまで行けたんだろうって。去年の記録より早いタイムだからインターハイ入賞は確実」
黙って聞いている川中。
山平 「前田や俺は頭良くないからこの実績で大学の推薦もらおうと思ってたのに」
川中 「俺達ができることは走り続けることだけ だ 」
立ち上がり、アキレス腱を伸ばす川中。再び走り始める。後についていく山平。川中は橋に差し掛かり、橋の上にいる前田に気づき足を止める。山平も前田に気付く。
山平 「前田ぁ!」
前田は自転車に乗って行ってしまう。走って追いかけようとする山平。止める川中。
川中 「追いかけてどうする気だよ」
山平 「あいつだって走りたいはず」
川中 「走りたくなったら自分から来るさ」

○高校・部室
室内を掃除する川中とギターを弾く小林。
小林 「文化祭の出し物にバンドでエントリーしようかな。お前、なんか楽器できない?」
川中 「人前でできる楽器なんてねーよ。それより二学期から部活再開するらしいぞ」
小林 「俺たち三年には関係ない話だな」
川中 「まーな。部室の俺らの荷物も夏休み中に片付けないとな」
扉が開く。入り口には山尾が立っている。
川中 「先輩!」
小林 「どうしたんすか?」
山尾 「大会はできないけど記録会ならできる、そう思って大学や高校に掛け合ってるんだ」
小林 「俺たち春から部活やってないんですよ」 山尾 「でも走ってないわけじゃないだろう?」 川中 「例年、三年は夏で引退って」
山尾 「コロナで例年通りじゃ既にないだろう」
山尾 「もう四人でリレーしないのか?」
川中 「したいです」
小林 「走りたいです」
山尾 「先生には話しつけてある。記録会は10月の第一土曜。会場はうちの大学のグラウンドだ」
川中 「ありがとうございます」
扉をあけて入ってくる山平。
山平 「先輩、連絡ありがとうございます」
山尾 「おう。山平と前田には連絡したんだ。去年、山平たちには今年があるからってレギュラーを譲ってもらったけど、こんなことになって後悔もあって、それでな」
小林 「でも前田は...」
川中 「大丈夫、練習始まったら来るさ」
山平 「昨日走ってる時見たし」
小林 「え?そうなの」
うなずく山平。
山尾 「本格的な練習は来週の始業式後からだ。なまった体、温めとけよ」
三人 「はい」

○川辺の道の脇にあるベンチ
ランニング姿の前田が座っている。前田の前で止まる足。前田が見上げると北村がいる。
北村 「よっ」
前田 「お久しぶりです」
北村 「トレーニング?記録会決まったもんな」
前 田 「インターハイがなくなったって聞いて以来、走るのやめたんです。だから、もう前みたいに走れない」
前田の隣に座る北村。
北村 「でも記録会出たいんだろう?だから久しぶりに走ってみた」
前田 「体は正直ですよ。全然だめです」
北村 「まだ 1ヶ月以上記録会まである、取り戻せるさ」
前田 「そうでしょうか」
北村 「弱気でどうする。取り戻すんだよ。去年の俺らの記録をお前たちが塗り替えるんだ」
立ち上がりストレッチする北村は走り出す。 数メートル言ったところで振り返り
前田 「おい、走るぞ」
と笑顔で誘う。走り出す前田。並走する。
北村 「お前ら四人の本気、楽しみにしてるか らな 」
スピードを上げる北村。ついていく前田。
前田 「これだけ走れるならすぐ体戻るよ、じ ゃな 」
さらにスピード上げて、走り去っていく。前田は走るのを止め、北村を見送る。
前田 「やるしか無いか」

○高校・グラウンド
リレーの練習中。トラックを走る山平。バトンを受け取り、前田が走り出す。トラックの内側では川中と小林がストップウォッチを気にしながら前田の走りを見守っている。山平は川中の元へ近寄っていく。ゴールする前田。ストップウォッチを止め、笑顔で前田に近づく川中と小林、山平。笑顔の四人 。夕暮れ時のトラック脇にはすすき 。

○同・校門
山平は自転車をひいて歩いている。山平の横を前田、二人の後に川中、小林が歩いて いる。校門脇にはすすき。
小林 「もうすっかり秋だな」
山平 「まさか夏すぎてまで走ってるなんてな」 川中 「いよいよ、明日だな」
前田 「結果だそうな」
川中 「おう」
山平 「また明日な」
山平が自転車で帰っていく。その横で楽しそうに走る前田。小林と山尾が見送る。その表情は希望に満ちている。

おしまい

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