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「箱」と外向き思考(その5) 二つの心の状態

よりよい人間関係を築くとともに、組織やチームの成果を高めることができる考え方である「『箱』と外向き思考」について書いています。

前回、同じ行動であっても、箱の外の心で行うことも箱の中の心で行うこともできると書きました。今回は、そのことを一つの例で紹介してみたいと思います。

ある日、東海道新幹線で大阪まで出張に出かけました。出発時間が流動的だったので、指定席ではなく自由席券で乗車しました。
平日朝の列車で、私は東京駅からの乗車でした。幸い、二人掛けのシートの窓際の席を確保することができました。隣の通路側の席も空いていたので、ゆったりと座ることができました。車内にはまだ空席があったので、隣の席にも荷物を置き、テーブルにパソコンを置いて、その日の仕事で使う資料のチェックを始めました。
品川駅からも乗客が乗り込んできて、空いている席を探し回る人が何人かいました。私は隣の席を空けた方がいいなと思ったのですが、仕事に没頭しているフリをして、気がつかない風を装っていました。周りの人のために行動しようという自分の良心を裏切ったのです。できることなら二人分の席が空いた状態で大阪まで過ごせればよいなと考えていたのです。
さて、このような私の姿は、周りの人から見たらどう見えるでしょう?
傲慢、図々しい、自分勝手、自己中心、…
「何様のつもりなんだ!」と言いたくなりますよね。

別のある日、部下と一緒に新幹線で出張する機会がありました。この時も指定席ではなく、自由席券での乗車でした。
今度は平日の夜でした。私たちは車内で駅弁とビールを楽しみながら、翌日の仕事の打ち合わせをしようと考えていました。しかし、列車に乗り込んでみるとそこそこ混んでいて、二人並んで座れる席がなかなか見当たりませんでした。そのとき、二人掛けの席に一人で座っていた老紳士が、
「よかったらこの席に座りませんか? 私は前の席に移動しますから」
と言って席を譲ってくれました。
私たちは彼にお礼を言って、ありがたく二人並んで座ることができました。
老紳士は、自分自身の良心を裏切ることなく、良心の趣くままに行動したのです。

さて、この二つのケースを比べて見ましょう。

新幹線の自由席車両で二人掛けの席に一人で座っているという行動・状態については、私も老紳士も同じです。
しかし、心の中は全く違います。
私は周りの人を「物」として見ていました。私の平穏なひとときを妨げる、邪魔な存在として見ていたのです。
一方、老紳士は周りの人を「人」として見ていました。自分自身と同じように、座ってゆっくり過ごしたいというニーズを持っている存在として見ていたのです。だから、自分が席を譲って他の席に移ることに何の抵抗もなかったのです。

このとき、当事者の心の中はどうだったでしょう?
私は二人分の席を確保できて身体的にはゆったりしながら、心の中ではイライラしていました。
老紳士は、落ち着いた平穏な気持ちで過ごせていたことでしょう。

では、二人の対応の違いは、周囲にどのような影響を与えたでしょうか?
おそらく、私の姿を見た人は、不愉快に思ったことでしょう。座席を探している人たちはもちろんのこと、既に着席している周りの人たちも、気分を害したことでしょう。もしかしたら、それでイライラしてしまったことがきっかけとなって、家で家族と喧嘩したり、次の日の仕事がうまく行かなかった人もいるかもしれません。
一方、老紳士の姿を見た人はどうでしょうか。席を譲ってもらった私たちはもちろん、そんな様子を見ていた周りの人たちも心がほっこりしたのではないでしょうか。そして、そんな人たちも周りの人に優しくできて、ちょっとした親切がそこかしこで起こっていたかもしれません。

このように、心の状態は、自分自身の心の安定と周囲の人たちの心の安定の両方に作用します。
これが組織の中だったらどうでしょう?
箱の外の状態の人が多い組織の方が、みんなが働きやすく、組織としての成果も上がりやすくなります。
箱の中の状態の人が多い組織では、誹謗中傷や対立が生じやすく、組織としての成果が阻害されます。

いかがでしたでしょうか?
誰かのために何かをしようという良心を裏切ったとき、自分自身が箱に入り、イライラし始める。そのことが自分自身にも他者にも悪影響を及ぼすということがお分かりいただけたのではないかと思います。

「いやいや、ちょっと待てよ。私はそもそも誰かのために何かをしたいなんて思わない。だから箱に入ることはない」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
もしあなたがそうだったら、これは危険信号です。
そのことについては、次回以降に詳しく考えてみたいと思います。
どうぞお楽しみに!

株式会社F&Lアソシエイツ
代表取締役 大竹哲郎
https://www.fl-a.co.jp/


「『箱』と外向き思考」は、アメリカの Arbinger Institute という機関が生み出した考え方で、今では世界中の国で、自己啓発や組織開発に用いられています。日本では、福岡に本社を構えているアービンジャー・インスティチュート・ジャパン株式会社が日本の総代理店としてセミナーやコンサルティングを提供しています。弊社は、アービンジャー・インスティチュート・ジャパン株式会社の代理店として、その普及に努めています。


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