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ごくごく、小さな町で生きる人。|瀬戸内〜岡山〜鳥取旅行記1

駅のホームから改札への階段を上がっていると、電話が鳴った。

「ついた?改札でたら、右側のタクシー乗り場の方な。」

岡山から特急やくもに乗って、鳥取の日本海側の方までやってきた。初めて降り立った米子という町は、県内では2番目の都市らしい。10月も終わりに差し掛かった18時すぎ。空はすっかり暗くなっている。

彼と最後に会ったのは2013年の冬だから、実に7年ぶりだ。今回休みをとってひとり旅をすると決めたとき、昔よく通っていた鳥取のある町に行こうと思った。そこで、そこに住む彼に連絡したところ、飲み屋が多くある米子駅(町からは車で30分ぐらい離れた場所)まで来るように指定されたのだ。改札を出ると、車の中から手を挙げる人が見えた。

「元気しとった?」

こんなに優しい声をしてたっけ、と思いつつ、はいとても、と答える。

「あ、先にチェックインするやろ?待ってるからしてきないや。」

車は予約していたビジネスホテルに向かう。久しぶりの再会で話したいことはたくさんあるはずなのに言葉が出てこなく、助手席から夜の街をぼうっと見ていた。

案内してくれたのは、日本酒と魚が美味しいと地元で評判のお店だった。久しぶりですね、と言いながら乾杯して日本酒を飲む。美味しい。お刺身も、馬刺しも、最高に美味い。

観光系の会社をやっている彼は「コロナで暇だったわ。…仕事の話はどうでもいいんやけど、でも相談したいこともあるんよ。」と言っていろんなことを話してくれた。

住んでいる町のこと、仕事のこと、大学院で専門的に学んでおきたいこと、海外での生活にも興味があること、いろんなことを実行していくにはある程度の肩書きはどうしても必要だと考えていること、共有できる人は多くはないこと・・・。やりたいことは大してないけどな、と言いながらも話は続いていく。

「結局な、町を絶やしたくないんよ。俺はここが好きだし、無くなってほしくない。どうやったら人口が増えるか、住みたいと思う人が増えるか。数年もしたら年寄りの議員さんたちはいなくなるからもう少し待ったらいい、とおっさんらは言うけん、そんな待ってられんわ。2800人しかいない町で、1年間で100人が減っていく。時間がないんよ。」

そうやって正直に語る彼は、やりたいことが大して無いようになんて全く見えなかった。

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「で、なんで旅しとるん?」

「うーん、仕事は自分なりに一生懸命やってて、でもさすがに旅もしないで東京にい続けることに疲れて、、プライベートでもいろいろあったし、とにかくどこかに行きたくてしょうがなかったんです。とりあえず片道切符取って。行き先も決めずにふらふらしてました。」

歯切れ悪く答える私に、悩んどるなあと笑う。

「まどかちゃんはもう、人よりいろんなことを経験しとると思うよ。経験を得るのも大事だけど、どう活かしていくか考えたらいいんじゃないの。こっちにはチャンスがたくさんある。来たらいいよ。」

あ、この人が私のことを名前で呼んでくれたのは初めてだ、と思った。

久しぶりに会ったのにいきなりそんなこと言われても、と動揺する私を見て彼は「今日会ったのは、ヘッドハンティングをするためだったのかもな」と笑った。

お店を出てホテルまで送ってくれる間、風は少し冷たくて、商店街は静かだった。

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次の日。車で町を案内してくれるとのことだったので、10時に駅前で待ち合わせる。写真美術館、大山と日本海が見渡せる場所、紅葉が美しい林道、山の中を流れる綺麗な渓流。全て初めて訪れる場所だった。

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お昼は天ぷらそばを食べて、古い神社がある岬へ向かう。古い町屋が残るその地域では、狭い路地で少年が思い切りバットを振っていた。

夕日の見える海沿いを走りながら、昨日、日本酒を飲みながら話していたことを思い出す。

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「東京の悪いところって、日本は東京を中心にまわっていて、すべて東京が基準だってみんな無意識に思っているところだと思うんです。雪が降って電車が動かないとかだけでわーわー言うし、みんな自分のことしか考えてない気がして。でも気付いたら自分もその一部になってるんですよね。あー、東京寿命もいつまで持つかな。」

「東京は、そういう街だし、それでいいと思うよ。そういう場所がないと困るし。だからこっち(地方)はこっちのやり方でつくっていくしかないんよな。」

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写真家の星野道夫さんの著作『旅をする木』の中に「もうひとつの時間」という一編がある。

「私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない、それを知ったこと…(中略)」
ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もう一つの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。 『旅をする木/星野道夫』

東京は東京の時間があって、それは世界のごく一部だと言うこと。同時に、小さな町で何かできないかと動いている人がいる。それを知れたことだけでも、ここへ来た意味があったなあ。

そんなことをぼんやり思っていたら、気付けば助手席で寝てしまっていた。こんなにのんびりした時間を過ごすのは、いつになく久しぶりだった。

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