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嘆き全集

19
短編小説集
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2022年5月の記事一覧

嘆き 短編集1

嘆き 短編集1

所業

私は自らの堕落や私欲による悪業によって報いを受けていることを自覚している。しかし、他の人間が善良故に豊かな生活を送っているとも到底思えない。

仏滅

屠殺される雌牛のような胴間声をあげる妊婦の肉体を張り裂き、大きな肉塊がその頭を突き出す。私は助産師と共に、分娩台の上で血塗れで痙攣するその肉叢にいかめしい喝采を浴びせる。針金のような硬い髪を持つ医師が宣告する。

「おめでとうございます。立

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強姦される男

強姦される男

私は男だが、奇妙な場所に受け口がある。毎朝の化粧は怠らないし、パステルカラーが好きだ。時に可愛らしいボックスプリーツを履くこともあるし、異性の記憶は上塗りされる。ある時は5分の間に5つの人格が現れ、今さっきまでは笑っていたのに、幾許か歩けば癇癪を起こしてしまう。

ある日、私は部屋にいる蟻の群れを観察する。すると、銃声のようにドアを激しく打ち付ける鈍い音が何度も響き渡る。女がやってきたのだ。彼女も

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頭脳労働

私は肥大した脳の前頭葉あたりを狙う。先端が斜め切りされた鋭利なストローをゆっくりと差し込み、口から吐き出された介護食のような、固形とも液状ともいえないそれをチュウチュウと赤子のように啜る。

数年も経つと脳汁は枯渇してしまう。身体から切り離されているからだ。小脳は梅干しのように縮み上がり、大体の部分はその皮質だけを残し、空気の抜けた風船のように萎んでいる。私はわびしい切迫感に駆られて脳の中を弄り、

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嘆き

嘆き

古くから知る最愛の友人がもうここには戻ってこないという知らせが届き、私はある種の譫妄状態に陥る。

切らすまいとなんとか保ち続けてきた一本の糸がプツンと途切れてしまったような感覚を皮切りに、窓の外の金色の靄は密雲に覆われる。

私と友人の2人で時間をかけて育ててきた、幾尋にも及ぶ美しい植物の海に、灰がポツポツと降り始める。私は乾いた唇の間から気の抜けた声を漏らし、バンガローから飛び出る。

5大陸

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