頭脳労働

私は肥大した脳の前頭葉あたりを狙う。先端が斜め切りされた鋭利なストローをゆっくりと差し込み、口から吐き出された介護食のような、固形とも液状ともいえないそれをチュウチュウと赤子のように啜る。

数年も経つと脳汁は枯渇してしまう。身体から切り離されているからだ。小脳は梅干しのように縮み上がり、大体の部分はその皮質だけを残し、空気の抜けた風船のように萎んでいる。私はわびしい切迫感に駆られて脳の中を弄り、享受できるものがないかもう一度確認する。海馬付近にはカビが生えているが、まだいけそうだ。床に落ちた卵と牛乳を拭いた後の雑巾のような、異臭のする脳を絞り上げる。

しかし不注意故に、汁が数滴床に落ちてしまう。私は愚鈍な自分に対して癇癪を起こしながら、その床を何回も、無駄のないように舐めまわす。そして突然理性が私を平手打ちし、「何をやっているんだ」と自省を始める。私は肩をすくめ、壁に腰を屈める。

この脳みそを啜り尽くしてしまったら、この先一体どうしろというのだろうか。何度もたどり着いた同じ結論や可能性をまた1から模索する。「隙を見て他人の脳を食らう?」「春が来る前に種を蒔く?」もう一人の愚直で楽観的な私が、姑息な料簡を起こそうとする。

しかし、本来の堕落した私はもっと短絡的な結論に至る。あまりの単純明快さに私は独りほくそ笑み、早速それを実行に移す。

「すごい、すごいよ!」ともう一人の私は手を叩いて狂喜する。

「すごいよ、自分の身体を食べているなんて!」

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