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シーズンのラストシーン

トラウトのシーズンも翌日で終了。
結果的にこれが最後の釣行になってしまった。

ルアーへの反応がまるで渋いコンディションに諦めをつけて渓をあがり、林道を引き返して歩いていると、2人のフライフィッシャーが小高い崖上の林道から沢を覗いていた。

話を聞いて僕も覗き込んでみると、なんと40センチオーバのトラウトが川底にへばり付くようにユラユラと泳いでいた。錆びた魚体に赤く婚姻色が出ている。雄ヤマメだろうか。
その下流には30センチクラスのイワナや恐らくはブラウントラウトが数匹。さらに下流には20センチクラスが十数匹、盛んに水面下でハッチを追っていた。

まるで夢のような光景なのだが、流したフライには見向きもしてくれないそうなのだ。2人に勧められて僕もそっと沢に降りて慎重にルアーをキャストしてみる。

上から彼らに見てもらっていると、40センチはルアーが鼻先をかすめると興味は示すもののチェイスにはいたらず。それも反応するのは一度だけ。
ルアーを変えてドリフトで流すと、やはり一度は反応するもののそれで終わり。シーズンを生き抜いたトラウトは容易くはない。狡猾なのだ。
ルアーでもダメなことが分かると2人は納得したようで、頑張ってと言い残して帰っていった。

その後も手を変え品を変えキャストしたが、まるでダメ。それではとフィッシングベストのバックポケットに忍ばせていたテンカラで毛鉤を流し、頻繁にライズを繰り返す20センチクラスを狙ってみる。

毛鉤がフィーダーレーンに乗ると反応は示すのだけれど、どうにもすんでのところで見切られてしまう。結局、小一時間ほど頑張って諦めた。これから産卵期に向けて上流に遡上するトラウトがちょうど水深のある流れ込みにストックされていたのだろう。

⁡一匹も釣れなかったのだけれど、そんな夢のようなシチュエーションのなかで、ありったけの術を出し切ったこともあり不思議と気分は爽快だった。

時間を忘れて目の前の流れにとにかく夢中になっていたが、遠くうねりのように響く日暮らしの鳴き声や沢の瀬音が、いつしか心地良い残響となって身体のなかを満たしていた。

林道の入り口に停めてある車近くに戻ってくると、ふと見上げた秋の青空にひときわ高く聳え立つ樹々のシルエットが映えていた。
晩夏のそんな風景はシーズンを締め括るに相応しいラストシーンのように思えた。



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