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古いという価値観は要らない~映画SUNNYを大学生が見た考察~


※この内容は全く映画の詳細やネタバレ等はないため、映画を観ていないという人にも読んでいただけると幸いです。

先日、発表されてからずっと観たかった映画『SUNNY~強い気持ち・強い愛~』を観るために新宿へ行った。この映画はあらすじだけ話すと、篠原涼子演じる奈美が余命1カ月と宣告された友人・芹香(板谷由夏)のために、全く連絡を取っていなかった高校時代の友人たちを探し出す物語。大根仁監督、川村元気企画・プロデュースという時点で自分はもう観るしかないなと思う作品だったけれど、それと同時にこの作品は僕ら20代に向けた映画ではないのだろうなと感じた。

それをまず顕著に表しているものが作品の挿入歌だ。ざっと並べても、

・森田童子『ぼくたちの失敗」(1976年、1993年)
・TRF『EZ DO DANCE』(1993年)
・TRF『survival dAnce 〜no no cry more〜」(1994年)
・小沢健二『強い気持ち・強い愛 Metropolitan Love Affair』(1995年)
・hitomi『CANDY GIRL」(1995年)
・安室奈美恵『Don't wanna cry』(1996年)
・安室奈美恵『SWEET 19 BLUES」(1996年)
・久保田利伸 with NAOMI CAMPBELL『LA・LA・LA LOVE SONG』(1996年)
・JUDY AND MARY『そばかす」(1996年)
・PUFFY『これが私の生きる道』(1996年)
・CHARA『やさしい気持ち」(1997年)

と90年代を代表する楽曲ばかり。当然、高校時代を懐かしむシーンは多く、その描写とともに90年代の音楽が彩りを与えていた。

もちろんこの曲たちがヒットしていた頃、私はこの曲を聴いていない。聴いていたかもしれないけれど、当時の記憶はほとんどない。そもそも90年代は、私が生まれた年だ。今年の大学4年生はだいたい1996年生まれであり、言ってしまえば上に挙げた曲とは、ほぼ同期にあたる。

だから観ていて、当時と今でのギャップは感じてしまった。「いや分かるけどルーズソックスって…」とか「三浦春馬役のあのロン毛は本当に格好良いのか?」とか。きっと当時を生きた人たちは、この90年代に流行っていたものを今となっては懐かしい記憶と変換して、現代の人たちが胸に残っているものだろう。

では懐かしいと感じることができない僕たちは、それをどう受け取ることができるか。きっと多くの人が古いものとして切り捨ててしまう。でも本当に古いものだろうか。1996年に生まれた楽曲が古いものとして扱われるなら、1996年に生まれた私たちも既に古いものなのか。違う。懐かしさを感じることができない音楽や流行は、決して古いものなんかではなく、むしろ新しいものとして受け取ることができると思っている。

私は中学生の頃から深夜ドラマを観るのが好きでよく夜更かしをしていた。そんな中で衝撃を受けたドラマが『モテキ』だった。このドラマは、主役の30代の男がよく聴くJ-POPが挿入歌にたくさん使われていた。“懐かしい”曲をたくさん流していたのだ。しかし、当時14歳の私からすると、ほとんどが初めて聴く音楽ばかりだった。毎週ドラマを観た後はTSUTAYAへ行ってCDを借りたものだ。物語だけではなく、今日はどんな楽曲が流れるのだろうか。どんな新しい音楽と出会えるのだろうか。そんな期待感が週末の楽しみとなっていた。中学2年生という多感な時期に、あのドラマを観たことによって私の“古い”という価値観は変わっていった。というよりも死んでいった。世間で紹介される“懐かしい”ものは“新しいもの”として消化していく。特に90年代の音楽や流行、テレビ番組などは全て新鮮に感じ取るようになった。昔のものだとか古いものだとかそんな価値観はいらない。温故知新という言葉があるが、まさにふるきをたずねて新しきを知る。当時を知らない自分は、当時をそのままパッケージ化して放置するのではなく、その当時を今、愛せばいいのだ。

そんなことを思い出しながら『SUNNY』を観ていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。内容について深くは掘り下げないけれど、初めて知るようなこともたくさんあったし、やっぱり90年代っていいなあと思うこともあった。『モテキ』を初めて観てから8年近く経過するが、いまだに90年代に学生をやってみたかったと思うことがある。でもきっとこれは、隣の芝生は青く見えるってやつで、20年後にまた2000年~2010年代の音楽を挿入歌として使われるような映画ができたら、あの時は良かったなんて言ってしまうんだろう。そして2010年代に生まれた大学生がその映画を観たとき、古いと切り捨てるのではなくて、自分が生まれたときはこういったものが流行っていたのかと新鮮に感じ取ってくれたらいいな。


そういえば『モテキ』といい『SUNNY』といいきっと自分の価値観は、大根仁監督によって形成、育成されているんだろうなあとふと感じる夜だった。



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