知の集積地 - サイクリングプラン 3
建築家でもなく、研究者でもなく、熱烈なマニアでもない、ただのサイクリストが建築史を辿り語るなど烏滸がましいにも程があるのは承知の上で、形振り構わず語らせてもらった。
本郷キャンパスへは春日門からお邪魔した。入ってすぐにダイワユビキタス学術研究館 があり、いかにも隈研吾らしい建築が目に飛び込んでくる。
ユビキタスという世界の実現はどこまで現実的で持続可能なのか?世界の優れた頭脳がそのような未来へ向けて邁進している一方で、サイクリングでのほほんと楽しみを享受することの気楽さったらない。
本郷キャンパスの敷地は、元加賀藩上屋敷の跡にある。春日門から進んで左手に懐徳館庭園 (旧加賀藩主前田氏本郷本邸庭園)があり、江戸時代の赴きが日本人としての心を呼び覚ますような感覚が得られる。しかしここは一般開放はされておらず、現在は迎賓施設として利用されているようだ。
続いて医学部1号館と理学部2号館の間を抜けて行く。この時点で煉瓦造りの近代建築群へと誘われるが、 先へ先へぐねぐねと進んで赤門通りへと入っていく。
御住居表御門。1827年、文政10年 徳川第11代将軍家斉の第21女「溶姫」は、加賀藩第13代藩主前田斉泰に輿入れした。赤門はこの時 溶姫を迎えるため建てられたものとされる。
詳しいことはさまざまなメディアから情報を得ることができるが、輿入れのために!?
「加賀百万石にいかにもふさわしい豪華な構造と構成を誇っている。… 鮮麗な朱漆が若く華やかな溶姫のイメージを見るものに呼び起こす。」と書かれてるが、その感覚は全く世界の異なる次元の話であって「へー」で終わってしまう。しかし、間近に立ち正面から対峙した時の佇まいは素晴らしい。
いや、私が見て欲しいのはこの赤門ではなかった。どんどん先へと進んでいこう。正赤通りを北へ進むと左手にコンクリートの現代建築が現れる。
江戸、明治、現代と時代を超越した空間に入り込んだような錯覚さえ覚える。
情報学環・福武ホールにはラーニングセンターが入る。このコンクリートの現代建築は安藤忠雄による設計である。安藤建築と聞けばそのブランド力に目を輝かせて見入るファンもいるだろう。もちろん建築的魅力はある。
一方でこの現代建築は物議を醸した。本郷通りに面していて、赤門と正門の間に位置し、言わば東京大学の顔とも言えるポジションに、東大の歴史や文化を承継する意匠がなされず、異質な壁が建ってしまったというわけだ。
しかし今さらどうしようもないので、これらも含めて面白がるのが良い。解釈は視点をどこに置くかで変わるのであって、常若の精神を体現していると言えるのかもしれないし、傍若無人と言えるかもしれない。
本郷キャンパスを構成する建築群も多様性を増して、ある意味で日本らしさが感じられるとも言えるだろう。
いずれにしても、重要なことはラーニングセンターの存在意義である「学習支援」がさらに学びを加速させ、日本の未来を担う人々が更なる高みへと行けるように活用されることである。
造られたモノで何を為すのか、大切なのは中身であり、目的の達成である。私はそのことを重要視する。そのためのサイクリングプランでもあるのだ。
左を見ていた視線を右に移すと、東京大学総合図書館が聳えている。
長い歴史を持つ東京大学の「知の拠点」がここにある。図書館前に広がる広場は閑静で歴史が感じられる落ち着いた空間である。中心に位置する噴水は元々は防火用水として設置されたそうだ。
一見なんてことのない噴水広場に見えるが、東京大学の図書館を侮るなかれ。
この噴水の地下には学生や研究者たちの交流拠点としてのライブラリープラザ、 さらに地下46mに及ぶ 300万冊を収蔵する巨大書庫が造成された。
あえて地下に造ったという、建築と土木の異なる知見を融合させたテクノロジーの妙技であって、目的を達成するためのエンジニアリングの叡智が詰まりに詰まっているのだ。このような事例は珍しいそうだ。何が珍しいかということはこちらを参照してもらいたい。
伝統を重んじながら時代の最先端を行き未来を見据えるという観点から、隣にある情報学環・福武ホールと対比してみると面白い。
好き嫌いはあるにせよ、どちらが正しいとかということではなく、一度造れば何十年も人々が行き交う場であり、ソーシャルコミュニケーションを促進させる対照的な構造物の在り方を同時に見られるのだから。
人間の知能は進化し続けている。
Standing on the shoulders of Giants - 巨人の肩の上に立つ一方で、人間という生命体の本質は変わらない。進化して変化する方向性が、生態系の本質からずれて行かないことを願っているが、世の中はいろいろだ …
いろいろなんて便利な言葉だ。曖昧だけど、表現しきれない時にはついつい使ってしまう。
その点で自転車は良いものだ。何が良いかって?
いろいろだ。
それもおいおい。
つづく
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