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12月22日(金):認知症の非薬物療法で運動することの意義

一昨日に製薬大手エーザイの認知症薬「レカネマブ」が発売となったことを受けて、この数日はそれに付随したことに触れていますが、その続きをもう少しばかり。

レカネマブは保険適用になったものの、実質的な投与対象者は認知症患者全体の1割未満といわれており、かつ副作用のリスクや通院負担を考慮すると、社会課題となっている認知症に対しては薬物療法だけに頼るのではなく、非薬物療法でのアプローチも不可欠です。

非薬物療法は運動やアート、対話など幾つかの選択肢がありますが、現状でもっとも効果が実証されているのが運動だと思います。

認知や記憶に関して例えば昨年にベストセラーになった書籍「運動脳」をはじめ、10年以上の前の書籍である「脳を鍛えるには運動しかない」でも「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質に言及しながら、その効果について説明をしていることは昨日にも記した通りです。

前述したように運動をすることでBDNFが増えることはわかっていますが、そうした運動と認知改善の結びつきについて、本日はもう少し掘り下げて補足をしていきます。

このBDNFはシナプスの近くの貯蔵庫に蓄えられ、血流が盛んになると放出され、その際にはIGF-1(インスリン様成長因子)、VEGF(血管内皮成長因子)、FGF-2(繊維芽細胞成長因子)といったホルモンが招集され、そのプロセスを手助けるといいます。

運動するとこれらの成長因子が血液・脳関門を通過し、脳内でBDNFと協力して学習にかかわる分子メカニズムを活性化させるのだそうです。

成長因子は脳内でも作られて幹細胞の分化を促しますが、運動中はその働きがより顕著になるということです。

もう少し突っ込んだ話をすると、IGF-1は活動中の筋肉がさらに多くの燃料を欲する時に放たれるホルモンで、筋肉にとって主要な、そして脳にとっては唯一のエネルギー源であるグルコース(ブドウ糖)をIGF-1はインスリンと協力して細胞まで運びます。

この時に脳内ではIGF-1が燃料の管理ではなく、学習に関連する働きを担います。

運動中にBDNFは脳のIGF-1の摂取量を増やし、そのIGF-1はニューロンを活性化して、信号を送る神経伝達物質であるセロトニンやグルタミン酸を盛んにつくらせます。

またIGF-1はBDNF受容体の生成を促し、ニューロンの結びつきを強くして記憶を確実なものにするなど、BDNFが長期記憶にとって重要な役割を果たしています。

年齢を重ねていくと前述した3つの成長因子とBDNFの生産量は次第に減り、それに伴ってニューロン新生も少なくなっていきます。

また加齢だけでなくストレスやうつ状態が長引くことでも、これらの因子やニューロン新生は減っていきます。

そうしたなか、投薬や服薬といったことをせずに自らの体内でBDNFやIGF-1、VEGF、FGF-2を増やすことができるのが運動ですから、これはむしろやらないほうが勿体ない、とも言えるでしょう。

人生100年時代といわれる長寿社会にとって避けて通れないのが認知症の問題でもあるので、そこをケアする意味で非薬物療法の運動を継続的に行う意義はいっそう高まっていくと思っています。

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