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セラピスト、触って何する?

福岡県でフリーの理学療法士をしています。
手で触って身体を整えることから、スポーツ選手のトレーニング指導まで。身体を整えることを業としています。
”整える”。何をもって整うというのか?それが難しいところ。
手で触っていると、「マッサージしている」と言われます。
マッサージを筋を揉み解すこととすると、一切しません。
では触って何をするのか。ちょっと文献引用した文章を参考に考えてみた。

セラピストが触るメリットは、クライアントが”やりたい動き”を修正できるということが一番だと考えます。動作を細かく辿っていくと、単関節の関節運動に行きつきます。その関節運動には個人差があり、いい方が悪いかもしれませんが、自分がいいように動きます。もしそれが動作の阻害因子となっているとしたら、関節運動を整える必要があります。セラピーで最もポピュラーなのが、硬くなっている関節を動かすこと。すなわち拘縮を改善することだと思います。拘縮は明らかに動かないものから、精度を高く触らないとわからないものまで多くあります。深いところまでいかに探っていけるか、それがクライアントのコンディションを整える鍵になりそうです。今回は”拘縮”について書きたいと思います。
引用は、「筋機能改善の理学療法とそのメカニズム」からです。臨床での経験と比較しながら読んでいます。

まずは、筋緊張から。臨床で「緊張が高い」という表現をよくします。一体緊張とは何なのか?結局セラピストの主観によるものが多い要素ですが、確実に関節運動を阻害します。少し言葉を整理したと思います。

筋緊張(muscle tone)とは、安静状態にある筋を他動的に引き伸ばしたときに筋に生じる反発力である。この主たる発生要因は筋固有の物理的粘弾性と筋伸張反射である。筋の粘弾性は、病変などによる筋組織自体の構造的変質を伴わない限り、一定かつ恒常的であるが、それほど強いものではない。全身麻酔下での筋伸張に対する反応がこれにあたり、手応えはほとんど感じない程度である。

この文章で考えることは、筋緊張は①筋の粘弾性と②伸張反射からなるということ。粘弾性に対してはマッサージをすると有効であると考えています。肉離れ後で筋の長さ方向へアプローチでは解消できないこともありますので。一方伸張反射は、筋が伸ばされたら縮もうとする反射のこと。筋の長さ方向のアプローチが必要になってきます。

筋緊張の変動の主たる要因は筋伸張反射であり、その活動状態は強く上位運動中枢に依存しその状態を鮮明に反映する。
理論的には健常者での筋緊張レベルを基準として筋緊張の亢進あるいは低下を診断する。しかし実地における健常者の筋緊張の度合いの判定は臨床的な経験に基づいており、客観的・定量的な評価は難しい。真に安静状態にある健常者では、麻酔下の状態と同じく、筋伸張反射は生じない。健常者は被診察状態では通常多少の精神緊張状態にあり、これが筋伸張反射回路の興奮性レベルを若干上昇させて他動的筋伸展に際して微弱な反応を生じやすくさせているのが実態であろう。

上位中枢に依存する筋緊張状態。脳血管障害による後遺症を評価する上で重要にあってきます。。臨床では、脳血管障害の後遺症としての筋緊張と、関節疾患からの筋緊張の亢進が混在するクライアントをみることがあります。しっかり評価できれば、より適切なアプローチが可能となる。通常の生活では適切な筋緊張でコントロールできない状況がある片麻痺のクライアント。徐々に特異的な運動パターンが波及し、関節運動も偏ったものになってきます。それをコントロールしていくと「歩きやすくなった」と言われることも。実際、動画で撮ってみると歩行中の重心コントロールなど、円滑に行えていることがわかります。決して、痙性を改善したわけではないですが、痙性を含めてクライアントが動きやすいコンディションにしていくことかと思います。客観的評価が難しい筋緊張なので、臨床経験を積まないと評価しにくいです。それはどこかで習うことができるのか?弊社主催の臨床力アップ塾ではその取り組みを行っています。

拘縮には皮膚性、結合組織性、神経性、筋性などさまざまな原因があるが、この機能障害は、長期臥床や長期間に及ぶギプス固定など、関節の不動によって出現し、比較的早期に形成される。古くからROM運動が行われてきたが、急性期の過度なROM運動は、過用・誤用を引き起こし、治療の遅れ、さらには改善させようとしていたROM制限を増悪させる場合もある。曲がらない関節を無理に曲げれば疼痛が起こるだろうし、恐怖も伴う。骨関節疾患術後の場合、短期の手術成績を気にするあまり、術後何日までには何度動いて欲しいと術者自身がROM獲得を急いでしまう場合も少なくない。一方で患者は、“よくなるためには苦痛が伴うもの”と思い違いをする場合も多く、過用・誤用が繰り返されることもある。ROMは適切な機能を伴って拡大していくべきものであり、一時的なROMの拡大だけを得ても意味がない。

痛むところまで関節の動かす。その際に防御的に筋収縮を起こしてしまいます。「入院中に無理やり曲げられました」というクライアントの膝。動かそうとすると、筋肉を硬直させ、力んでしまします。もちろんセラピストが動かそうとするとリラックスできない。そんな身体の状態で動作をしても、筋出力が適切なのかは疑問です。痛いことをしなくても改善する関節可動域は多い。ほとんどがそうだと考えています。しかし、結合組織の癒着などどうしても痛みを伴うものもあります。その判断は防御性収縮の有無によって行っています。関節運動を円滑にするための準備をすると、その関節運動に必要な軟部組織の柔軟性は日常生活動作の中で獲得されるものだと考えています。リハビリ室で全てを解決しなくても、動くための準備をしておくと、次回来室の際にはその拘縮は改善されている例が多いようです。

ラットの膝に屈曲拘縮をつくり、皮膚と筋とがROM制限に及ぼす影響について検討している。30日間の固定により生じた全ROM制限のうち、皮膚を切除することで16.6%の拡大をみせ、ハムストリングスの切除では32.5%の拡大、さらに腓腹筋切除で9.5%の拡大が得られた。

皮膚で16.6% ハムストリングスと腓腹筋、大きな筋群で42%。
残る31.4%は、ここに表記されないものということになります。クライアントの膝を触るときに、残りも31%を考えアプローチできるかどうか。

筋の短縮を最も観察しやすい臨床的は状態として四肢の延長術がある。四肢延長術では軟部組織を切離することなく骨の延長が行われるので、軟部組織は相対的に短縮することとなる。…延長術は軟部組織がその長さの変更に順応することを前提とした治療である。これまでどのような時間経過でどのような機序により筋が長さの変更に順応するのかが認識されないまま手術が行われてきた。…骨格筋は持続的伸張に対し、新しい筋節を加えることにより、その長さに順応する…

筋肉は順応するんですね。すぐではないです。時間がかかるんです。細胞レベルでも筋節が増えるという順応をみせます。それが動作につながるまでにはさらに時間がかかります。動作に順応している。何で評価しますか?徒手により関節運動を誘導した時の抵抗感でわかりますよ。
筋の長さに関して、完全に筆者の主観ですが、関節運動に対して筋の長さが適合していないケースを術後以外にも経験します。関節運動が大きい全身弛緩性を有するクライアント。スポーツ選手や長期間複数の部位の痛みを訴えるクライアントに多い印象があります。関節運動が大きいため拘縮を見つけることが困難で単純な関節可動域は獲得できている。しかし、関節運動の主運動・副運動、運動方向など考えると、何らかの制限を有することが多い。単純な拘縮に対する治療よりも難渋するケースが多いように感じます。完全に個人的な臨床感なので悪しからず。

臨床的に関節拘縮を捉えると、“関節の硬度”として表現できる。これは軟部組織自体の因子に筋の防御的収縮を加えたものといえ、防御的収縮が強ければROMはこの因子によって制限を受け、本質的な軟部組織自体の因子まで十分に達することができないことになる。…牽引という物理的な作用に拮抗する筋収縮と伸張に伴う疼痛の反射的筋収縮(防御的収縮)が発生しており、時間経過とともに筋収縮が減少したのは腱紡錘の伸張刺激に対するⅠb抑制が関与している。防御的収縮が少なくなる方法として、持続的他動運動CPMがある。徒手による他動ROM運動よりもCPMで他動運動を行ったときのほうが、疼痛の訴えが少ない。…CPMのリズミカルでゆっくりした関節運動が、関節の固有受容器からの持続的なインパルスを発生させ、これが脊髄や脳に伝えられ、pain spasm reflex(疼痛痙性反射)を遅らせる結果、関節周囲筋の防御的収縮が抑制されたためと考察している。
関節拘縮の予防、ROM改善を目的とした理学療法では、筋の防御的収縮が起こらないよう疼痛や不快感を与えず、ROM運動を実施することが大切である。

関節拘縮は軟部組織自体の因子に防御性収縮を加えた状態。力まかせに曲げ伸ばしをすると、この防御性収縮と力相撲をすることになります。防御的に収縮が入るメカニズムを解釈しながら、関節運動できる身体の状態にしていくことが大切です。無理やり曲げることが得策ではない。余計に防御的な筋活動を生んでしまいます。関節拘縮は、軟部組織自体の因子と防御性収縮。前者が原因であれば、無理をする可動域訓練となるかもしれない。その前に後者の防御性収縮を改善することがROMを獲得することの最優先と考えます。防御性収縮を改善することで、「すごく動かしやすい」という実感をもつクライアントは多いようです。関節運動を促すようなセラピーを行うことが多いですが、神経筋再教育と表現してます。何に実験・測定装置もない丸腰の現場で、その証明はなにもできないですが。引用した文章にあるように、反射を抑制する効果をもっているのかもしれませんね。”固有受容器ならのインパルス”。この変化を徒手では確認できませんから笑

長々となりましたが、触って何をしているか。少し考えるきっかけになればと思います。触って、動かして、エクササイズ、トレーニングまで。身体活動のお手伝いをしています。https://fisico.jp/
長々と書きましたが、最後まで読んで頂きありがとうございます。



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