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【悲報】ワイ、仕事クビになる——12/18 Advent Calender2024 参加作品

 ちょっと早いですが、メリークリスマス!
 私はサンタさんからすっごいやばいプレゼントをもらいました!
 つるっと頭の営業さんは、困った顔して言いました。

「会社さんが求めるパフォーマンスに未達ということで……1月までの契約となります……」

 はあ……。
 この言葉と一緒に贈られた来年度のカレンダーを手に、席についた私。
 頭の中で、聖歌隊が歌う。それはそれは天使みたいな声で。

 ウィーウィッシュユー、ア、メリークリスマス。
 アンド、ア、ハッピーニューイヤー……。

 キーを叩く音とマウスをカチカチする音と固定電話の着信音と電話番の応答する声が遠ざかっていく。
 来年もなんだかんだ言いながら、当たり前みたいに居ると思っていたこの風景。

 なのに……。

 ディスプレイに映るデータが、まるで頭に入ってこない。
 私の頭は、御社への想いでいっぱいだった。

 なんでよう。あんなに、あんなに仲良しだったじゃないのよ。

 ホラ、目を閉じれば思い出せる。私たちの日々。

 まずは、あなたと出会った日。

 あなたは3人の遣いを寄越したね。
 身体も態度も声もでかい偉い人と、いかにも下っ端な感じの、声も身体も偉い人の半分ぐらいしかない人ふたり。
 3人は業務内容の説明のあとに、「〜ですけど大丈夫ですか?」を立て続けにきいてきた。

 目が疲れるけど大丈夫ですか?
 ストレス溜まりますけど大丈夫ですか?
 覚えること多いけど大丈夫ですか?

 まったく、なんて思いやりのある会社だろう!

 引き攣った笑顔でなんとか受け答えをしたのがいい思い出ね。

 そしてそして、「残業の経験はありますか?」ともきいてきた。

 えっ? 残業あるん? ないってきいててんけど……。

 動揺したけど、あなたに嫌われたくないからなんとか取り繕ったよ。
 絶対フラれるって思ってたから、採用の報せを聞いたときは嬉しかったなあ。
 真面目な人柄が良かったと言ってくれたみたいね。
 うふふ。
 あなたの目は素敵な節穴だったんだね。

 次に思い出すのは、繁忙期。
 ただえさえ件数が多いのに、システムの不調が重なって、えぐかったなあ。あのときは。
 やってもやっても終わらない。
 先輩たちが御社の遣いの者たちに、「なんでこんだけしかできてないん?」とせっつかれているという話はきいていたけど、特に社内の空気がピリついてる時期だったっけ。
 そんな大変な中で、御社は面接官たちとは別の遣いの者にこう言わせていたね。

「すみませんがみなさんに残業のシフトを入れています。どうしても都合のつかない方は私たちの方まで言いに来てください」

 いやあ素敵な心遣い!

 申告しなければ自動的に残業になるシステムですよ。
 つまり、稼げるってことですよね。読んで字の如く、タイムイズマネー、ってことね。
 
 それで残れませんって言ってる人に、「それは、家の事情?」ときかせてたよねー。
 そうきく遣いの者たちの声のトーンがいつもより落ちてたような、尖ってたような気がするけど、こちらを理解しようとしてくれてたのよね。

 でもやっぱり真面目な私は営業さんにきいちゃった。

「残業ないってきいてたんですけど?」

 私は電話番に雇われるはずだったのだけど、なぜかデータ入力の方に回されていた。
 そこは前々から残業があるときいていた部署だった。
 営業さんから話を聞いた御社は、例のでかい人を私に寄越して説明させたね。

「あなたには適性がないと判断したのと、最初はみんなこの部署を通ってもらわないといけないので」

 丁寧な気配り、ありがとうさぎ。

 そんなこときいてなかったので戸惑った。
 けど、本当の親切って、わざわざ「してあげたよ!」って言わないことだもんね。

「もちろん残業は、できる範囲でいいので……」

 ……できる範囲ねえ。

 御社ちゃんや、遣いの者によって言ってることが違うのはちょっとポンコツじゃないかしら? まったくもう、仕方ない子ねっ。

 ああ、そうだ。あと、こんなこともあったっけ。
 出勤してすぐ、仕事をする部屋の外に出たことがあった。
 給湯室にこもって胸の間とか背中とかちょっと人前では見せたくないなーってとこの汗を拭いて、ついでにトイレを済ませた。
 さーてやるかーと席に戻ったところに、御社はまたまた遣いを寄越したね。

「出勤してすぐ5分以上も席を立つなんて、どうしたの」
「あ、いやちょっとトイレに……」
 びっくりしちゃって目をうろうろさせる私に、困り眉をさらに下げて遣いの者は言った。
「出勤する前に行こうね?」

 あーい、とぅいまてーん。

 喝を入れるのも愛ゆえに。だったのよねー?

 ところで、よく5分以上、なんて分かったね。スタッフを大事に想うあまり、席を立つ時間を計っていたのかしら?

 心配性だわねえ。

 ああ、どれもこれも懐かしい。

 あなたのそばを離れていった人の顔も次々浮かんでくるわ。
 毎月1人はいなくなってた。えーっと、あの人は何月に辞めたんだっけ。あの人はいつだっけ。あの人は確か先々月か……。

 そんな中、私はあなたのそばにいあげたというのに。
 不満を言いながらも。でかい人のでかい怒鳴り声にうんざりしながらも。
 困り眉の眉と眉の間に唾を吐きかけたくなりながらも。
 なのにあなたはあっけなく私を捨てるのね。

 悔しくて悔しくて、
 涙が出……。

 るわけねえだろ?

 ため息をつき、件数をこなしていく。
 しゃべらない代わりに目をガン開きにして思いっきりデータを睨みつけて。口を「いーっ」と曲げて。
 煮えたぎる頭の中で、御社ちゃんに語りかけた。

 あのさあー。御社ちゃーん。
 あなたさあ、ホントにあたしを捨ててもいいわけ?
 選べる立場なのお?(ぴえん)

 なんか、モテないやつほど理想が高かったりするあの現象と一緒な気がする。

 いや、そりゃ選ぶ権利がないとは言わないけど。人間だからね。

 御社ちゃんとは、人間の集合体。権利は何人たりとも等しく与えられてしかるべき。

 でもさー。でもさあ。

 私捨てられる要素なくねえか?

 早退も遅刻も片手でおさまるぐらいしかしてないし、欠勤もたった1日しかしてない。
「質問が多い」との指摘を受けたことはある(けどじゃあ独断でやって大ごとになった場合、だれが責任取るの?)。
 でもその質問も最近は鳴りを潜めていたはずだ。
 真面目な私は、同じ質問をしないようにちゃーんとメモをとって、我流のマニュアルを作っていたんだから。

 会社内ではわからないところをリストアップして、あとで上司が回ってくるという体制をとっているんだけど、直近、私が記入していたのは3時間につき1,2件程度だった。

 ミスしたら「ここ間違ってます」というリストに名前を書かれるのだけど(このシステムも幼稚だしクソだな)、私が特段多いわけではなかった。(もちろん調子の悪いときは5回連続書かれたりもした。けど毎日じゃないし、そういうことはわりとだれにでもある)

 なにより、「ミスが多い」という指摘はなかった。

 なかったけど……。

 まあでも自分が思ってるよりミスは多かったのかもしれないね。

 直接言ってこなかったのは、メンタルを気遣ってのことだよね? うんうん。知ってる知ってる。

 それにしても。

 はー。
 こんな、こんな毒親みたいな過干渉陰湿ごみうんこカンパニーに捨てられるなんて最低すぎる。

 ガーッデム!

 エンターキーを叩く音が、心なしかいつもよりでかくなった気がする。

 ねえねえサンタさん、これだけじゃないよね? プレゼント。

 ハッピーに過ごせるカンパニーも、あるよね?

 ニューイヤーになったら、いつかぜーったいぜったいちょうだいねっ!

 ……さーて。残り1ヶ月、頑張るかあ。

 サンタさんのほんとのほんとのプレゼントに期待して。
 

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