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リリース最優先でβ版を出してみたら、初期設定の沼が待っていた

着想から1年半。辿り着いたβ版リリース。ひとつの大事な節目なので、振り返っておきたいと思います。


膨らむ開発工数

サービスは作っては壊すの連続でした。その中で1つ問題になったのは「時間」です。

なんといっても一つ一つの機能開発のすべてがとにかく難易度が高く、重たいのです。そして蓋を開けるたびに厄介な問題に出くわしました。たとえば水産用医薬品。餌と同じ機能で正直行けると思っていましたが、ダメでした。商品ごとに販売数量と単位(150mL、10kgなど)が微妙に違うのです。

「単位が変わるだけ?だから何?」そう思うのはわかるのですが、それがそうでもないんですよ。各生簀の投薬記録でも選んだ薬に合わせて単位を変えないといけないし、仕入記録や在庫管理でも商品ごとに単位を変えないといけないんです。おまけに商品名は同じなくせに、粉末タイプと液体タイプがあったり、入っている液体の量で大きさが3パターンあったりします。これまでは何も考えずに「kg」とだけ書いておけばよかった。でもそれじゃダメ。データベースから商品を参照しにいって、そこの単位量を確認して、その単位量で表示するみたいな処理をしないといけない。

使う側からしたらどうということはない地味な機能なんですけど、そういうただ単純に単位を示すだけでも裏側の開発からすると案外大変、みたいな話はよくあります。

これはただの一例です。在庫量計算や尾数計算、ワクチンなど機能開発するたびに想定してもいなかった要件や前提がどんどん見つかるんです。結果的に開発すればするほど要件が膨らむ構造になりました。

大幅に色やデザインを変えたことで画面は全体的に作り直しになりましたが、画面数が多かったこともあり、しばらくはプロトタイプの更新も開発に追い付かなくなりました。開発のスピードを一切落とさず進めてくれたエンジニアに感謝です。

時間との闘い

もちろんいいものを作りたいので、それらの問題ひとつひとつに真剣かつ丁寧に向き合いました。このユーザがついていない今の時間は実はとても貴重です。一番コアのデータベース設計やシステムのUIUXを大胆に変更できる時は今しかないからです。基本的な思想や哲学みたいなものがこのフェーズで決まります。裏側も表側もひとつひとつの要素に意味があるはずです。それを説明できるレベルまで磨くことはとても重要です。

でも一方でもうひとつ忘れてはいけない大事なことがあります。それは僕らが「事業をやっている」ということです。

今回みたいな要件が膨らみがち(僕が膨らませているんですけど)なシステム開発の最大のリスクは「リリースされないまま終わる」です。そしてこのままだとそうなる可能性が実際にありました。

スタートアップはとにかく持てるリソースが限られます。使えるお金が毎月減っていくだけではありません。時間というリソースも失われていっているんです。VCはじめ他人資本を一切いれていないので、資金ショートまでの期間も短いです。

銀行はお金を返せる見込みも信用も実績もない企業にお金を貸してはくれません。僕たちにはタイムリミットがあります。その時までに自分たちで道を切り拓けるか。限られた時間の間に正解を見つけるのが先か、資金が尽きるのが先か。僕たちはそういうゲームを戦っています。このサービスがリリースできないということは撤退するということを意味します。それはすなわち会社をたたむということでもあります。

開発に邁進していると忘れがちですが、これはなかなかにシビヤです。関わってくれているメンバーにも家族がいます。僕にも子どもや家族の人生があります。データを入れてもらう予定の生産者さんもそうです。サービスの提供が継続できなくなったら、現場の生産者さんやそのご家族、業界全体にも責任が果たせません。だから絶対にリリースしないといけない。

未完成だけど、とりあえずリリース

そこでとりあえず、僕たちはβ版リリース日だけ決めました。2023/4/17。それが僕たちが決めた日です。決めないと永遠にリリースできないと思ったので、日付を決めました。

今の要件すべて開発しきるのは無理」ということは明らかでした。時間も大事。品質も大事。後からいじりづらい裏側の設計を考え抜くところが特に大事です。結局β版は至るところが開発途中、未完成のままでのリリースになりました。

もともとデータを分析する機能や販売管理を行う機能なども開発する予定でした。でもβ版リリース時にはどうやっても間に合わない。だからβ版はそれらの機能がない状態にならざるを得ませんでした。

必要な機能が足りないのは主要機能だけではありません。たとえば設定画面もありません。ホーム画面もありません。だから何だって話なんですけど、たとえば「パスワードやメールアドレス・名前などを変更できない」とか「請求金額が確認できない」とかそういう感じです。

本来ソフトウェアが備えているだろうと当然に期待されるであろう機能の開発でさえ相対的な優先順位が低く、実はβ版リリース時には追い付いていませんでした。

しかもいわゆるテストの工程が省略されてしまっています。本来これだけ大規模なシステム開発を行う場合は、ユーザにサービスを使ってもらう前に開発側がしっかりテスト計画をたて、不具合を洗い出しきる作業をやるものです。不具合がたくさん出ると手に負えなくなるし、お客さんに迷惑もかかってしまうからです。

でも僕たちには考えられるケースの100%をテストする時間がありませんでした。ある程度作りながら小さい単位でのテストはやってきていましたが、一連のサービス全体のテストとしては正直不十分な状態でした。

とにかく市場に出そう

正直こんな状態でリリースしていいものかと悩みました。それでもリリースに踏み切ったのは、60点くらいは取れる仕組みにはすでになっていると思ったからです。

その根拠はサービスの本質・コアの部分を優先的に作り込んでいたことです。ユーザは魚と飼料効率のことを深く理解していて、事業に活かすためにこのサービスを使う(データを活用する)んです。パスワードを変更するために契約してくれるわけではないはずです。

僕たちは少なくとも魚と本気で向き合う現場のためのサービスを創るというただ一点においては日本のどこの会社よりも、どのサービスよりも圧倒的に突き抜けてこだわっていると思います。そしてそれは僕たちが生産者さんに届けたい価値そのものと深く結びついています。検証するにはここの機能がある程度できてさえいれば十分です。パスワードの変更は導入数が少ないうちは運用でもカバーできます(作らないわけじゃなくて追い付いていないだけです!!)

ついにβ版リリース

着想から1年半、開発着手から10カ月。され2023年4月17日にuwotechはついにクローズドβ版としてリリースました。

自分でプロダクトを作ってみて初めてわかったんですが、サービスを改善し開発を重ねるにつれて、ものすごく強い愛着が湧いてくるんですよね。「養殖業はデータを活用することでもっと面白くできる」というのは僕たちの信念というか哲学というかそういう類のもので、それを信じてサービスを磨き続けてきました。言ってみれば僕らの魂みたいなものがまだまだ粗いこのβ版にも宿っています。

事業案をいろいろ机上で考えていただけの頃、自分とサービスと会社はすべてが可分でした。別々のものとして客観的に認識することができました。でも今はもう無理です。会社もサービスも自分とほぼ同じ。肉体の一部というか、子どものような存在になりました。同時に生産者の人たちの役に立ちたいという貢献欲求がものすごく強くなってきたように思います。

これまでは「あったらいいかもね」という絵の話をずっとしてきましたが、これからは違います。実際にサービスを触ってもらって、生の意見や感想が聞けるようになります。この変化はとても大きいです。サービスに初めて生産者の人がタブレットでログインしたとき、なんとも言えない感慨深さがありました。まだまだ粗いけど、ついにここまで来たかと。ようやく動き出したなと思いました。

意外と重たい初期設定

さていざβ版開始となったところで、ふたをあけてみるとそれはそれで大変な現実が待っていました。60点で出しちゃったので、初期設定の機能を何も用意していなかったんですね。笑

僕らが作っているuwotechというサービスは養殖に関連する様々なデータを一元管理するサービスなので、当然そこには様々なデータを入れることになります。会社名/漁場/餌/水産医薬品/ワクチン/魚種…などなど

種苗ロットごとに成長や増肉係数のグラフ化が行えるのが僕らのサービスの一番の特徴なので、種苗構成が適切になるように初期設定時の種苗情報を調整・設定するところが一番大変でした。

結果的に、設定作業だけに各社4時間以上もかかるという超ハードな状態が僕たちを待ち受けていました。それでも協力してくださる生産者さんは嫌な顔ひとつせず付き合ってくださいました。感謝しかありません。※申し訳ない…

初期設定、ちょっと大変かもなとは思っていました。ただ、まさかここまで大変だとは想像していませんでした。やってみないと分からなかったとはいえ、ちゃんと改善しようと思いました。

サービスを届けられる喜び

β版リリースのお知らせを出したところ、β版を使ってくださる生産者の方から嬉しい声をもらいました。こういうの本当に震えます。ものすごくありがたいです。

一緒にサービスを作ってきてくださった結城さん。胸が熱くなります。自然も生き物もすべてが人間の思い通りにいくとは限りません。だからこそ毎日現場にいって、魚を見て感じ取って意思決定する営みは大事だと思います。僕らはデータをため、歴史を刻み、データを活用するという側面から、その営みに貢献していきたいと本当に強く思います。

3年前に新規参入して海援鯛というブランドのマダイ養殖(完全無投薬のマダイ)に挑戦されています。生簀、種苗、船、漁業権…養殖事業を新しく始めるのは本当に大変だと思います。高齢化で規模を縮小・廃業することの多い業界。彼の挑戦を舞台裏からサポートできてとても嬉しいです。

ほかにも親子2代で養殖をしていて、なごみ鯛というブランド鯛やスズキ、シマアジの生産をされている赤松水産さんにも「使いたい、いや、絶対使います!」と絶賛いただきました。長年魚と向き合って技術力を高めてきたお父さんに「これからはこういうデータを使う考え方も絶対必要だと思う」と太鼓判を押して頂けたのも嬉しかったです。

N=1から汎用化へ

僕たちはターゲットど真ん中のたった1人のインプットを信じられないくらい重視してサービス開発をしてきました。1万人に愛されるサービスを創るためには、届けたいたった1人にまず届けないと意味がない。同様の課題が他の生産者の間でも存在していることだけ確認して、あとは徹底的に1人の生産者さんとだけ向き合ってきました。そうすることでサービスを尖らせ、開発のスピードを高めてきました。

誰にでも愛される仕組みを最初から作ろうとすると、誰にも使われない、誰も使えないゴミしか作れない。逆説的ではありますが、たくさんの人にサービスを届けるために、たくさんの人の意見をあえて聞かない時間が必要でした。

そういう開発をしてきた僕たちにとって今回のβ版リリースはある意味でひとつの転換点です。

養殖は事業規模や魚種、エリアによって養殖の飼育方法や懸念されるリスクなどに違いがあります。結城さんのところでやっていることの全てが他の生産者と全く同じであるという保証はありません。そうなると機能の過剰もしくは不足が必ず発生します。結城さんと一緒に創ったものをベースに、それぞれの生産者さんが必要十分だと思える機能を提供するためにはどうすればいいか。それを考えるのが今回のβ版の大きな目的です。

実際に今回初期設定で現地にいってみただけでも「こんな給餌パターンがあったのか」とか「そんな書類作成業務があったのか」とか実際にサービスを使ってもらわないとわからなかった発見がたくさんありました。

β版はサービスの汎用性を見極めるための検証作業です。属人的すぎる部分を汎用的な機能に改善・調整するプロセスです。小規模事業者が使わない機能が分かればその分、機能数を絞り、利用料金を下げることができます。足りない機能は新規開発が必要です。海面でも内水面でも生産者の琴線に触れる機能や価値がわかれば、マーケティングもそのコアの価値を中心に組み立てることができます。

なりよりフィードバックをもらうことで、ここからの2カ月、さらにサービスを磨くことができるようになります。

バックナンバー

創業時からどんなことに悩み、何を考えてきたのか。恥ずかしながら、思うようにいかないことばかりです。それでも試行錯誤しながら、目の前のことに必死に向き合ってきた過程をこのマガジンではありのままに綴っています。

もし興味をもっていただけるのであれば、過去のバックナンバーも読んでみてください。

Vol1 事業領域のピボット
Vol2 問いのピボット
Vol3 手応えと未来への布石
vol4 山と谷
vol5 顧客体験のリ・デザイン
vol6 β版リリース ←今ここ
vol7 遠いPMF

8月にサービスローンチします!

まだまだ開発途上のサービスではありますが、なによりサービスに期待していただいている方と本気で養殖業と向かい合って、成功事例を一緒に作りたいと思っています。経験や勘も活かしながら、データを上手く使っていきたいと熱量高く思ってくださる方の力が必要です。一緒に悩み一緒に考え、一緒に未来を切り拓いていきたいです。
もし少しでも興味をもっていただける方は是非、資料請求でも無料トライアル(正式リリース後からですが)でも構いません。お気軽にお問合せください!

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